第62話 遺跡調査ですわ!

 

 辿り着いてしまった遺跡は、苔が生え、柱の所々が傷んでいた。

 天井は図書室の地下にあった隠し部屋の半分程度の高さ。広さもさほど広大ではない。

 しかし、こんなの気づかない訳ないと思う。霧の中に入る前からでも屋根の一部が見えるはずよ。


「遺跡のすぐ近くだけ霧が無いね。これはもしかして……」

「多分、結界の類でしょうね。王族が近づかないと姿を現さないタイプの」


 随分と手の込んだ物を作ったわね。

 ゲームのギミックとしては及第点だけど、最初にアイテムを設置した人達は何を考えてこんな仕掛けを用意したのだろう。

 人の手に渡したくなければ破壊すればいいし、見つけてもらうには条件や隠し場所が厳しい。

 誰かに残したいけど、手に入れるに相応しい人物を選びたかったのかしら?


「どうする?」

「エースがここに着いた以上、お師匠様の合流は絶望的ね」


 遺跡に辿り着く為の鍵を持っていないのだ。


「一度、この場から離れてマーリン先生と合流するかい?」

「それが最善手なんでしょうけど、折角ここまで来たなら下見だけでもしない?次もすぐここに来られるか分からないし」


 さっきは突然霧が晴れた場所があってこの遺跡に着いたが、森から具体的に何キロ進んだか、方角はどの向きなのか詳しい情報がない。なんとなくでここに来たのだ。

 次に活かせる情報を仕入れておくのは悪手じゃないはず。


「分かった。ただし、危ないと思ったら引き返そう」

「その基準って私が判断していい?」

「……因みに、どのレベルが危険だと?」

「全力エカテリーナが負けたらかしら」

「敵に遭遇したらにしようか」


 残念ながら指揮権はエースが持つみたい。

 私としては出来るギリギリまで粘りたいけど、エースは被害を最小限に抑えたいようだ。


 霧が無いとはいえ、何が起こるかも分からないので手を繋いだまま私達は遺跡の中へと足を踏み入れた。


「灯りは俺が」


 元々、森自体が薄暗かったので遺跡の中へは光がほぼ差し込んでいなかった。

 真っ暗な闇の中でエースの杖が光り、周囲を照らしてくれる。


「魔力的に厳しくなったら私が代わるわよ」

「大丈夫。このくらいなら一日中だって平気さ」


 頼もしいことを言いながら奥へと進む。

 床の石畳や柱のデザインはこれまでの隠し部屋や地下空洞と似ていた事から、建てられたのは同時期ぐらいね。

 違いがあるとすれば、ちょこちょこと物が落ちているくらいか。


「これ、かなり古い本ね」

「錆びた水筒もあるな」


 どれもこれも年季の入った古い物ばかり。

 そうか、ここは今まで何人か人が訪れた形跡があるのよね。

 過去の王族達の忘れ物や落とし物ってところかしら?


「シルヴィア、あそこの壁が見えるか?」

「壁画ね。似たような物は今まで何度か見たわ」


 一組の男女。光の巫女と初代国王。この国の始まりの二人ね。


「城にも似たような絵があった。だが、この壁のように古くは無いから、先祖がここに迷い込んで見た物を再現したのかも知れないな」

「ロマンがあるわね。今のエースはその先祖が見たのと同じ物を共有しているのよ」


 私はこれで三回目だから特に何も思わなかったが、初めて見るエースは感慨深そうに壁画を眺めていた。

 いつもは冷静で大人びた印象が強いけど、今の彼は年相応の少年っぽさを出していた。

 そのギャップに少しドキッとしてしまう自分の頬を抓る。いかんいかん。


「先にあるのは階段かな?」

「ここから地下へって意味ね」


 こけないように気をつけながら一段ずつ石の階段を降りる。

 途中で踊り場を見つけたので、水分補給や軽食用のパンを食べる。

 手元の灯りしかない地下で食事なんて某有名アニメ映画のワンシーンみたい。ただの目玉焼きパンなのにどうしてあんなに美味しそうなのか。


「中に具でも入っていれば良かったわ」

「具材を持っているのはマーリン先生だったからね。水は各自だから大丈夫だけど」

「お師匠様が勝手に迷子になるから」


 再会したら文句でも言ってやる。

 だけど、逆に考えるとあの人はハムとチーズしか持っていないのだから可哀想か?


「こうして君と二人でいるとまるでデートみたいだね」

「……すぐそういう事を言う」


 なるべく意識しないようにしてたのに!


「ジャックは君とデートをして告白したみたいだけど、俺は君を呼びつけただけだしね」

「あら、一夜を共に過ごしたじゃない?おかげでソフィアにすっごく怒られたんだからね」


 何もなかったと誤解を解くのにも時間がかかった。

 ただ寝ていただけで変なことされた形跡は無かったけどね。


「そうだったね。でも、だからシルヴィアとこうして二人きりになれたのはある意味幸運だったな」

「変なフラグを立てないでよね」


 まるでこれから死にに行くみたいな台詞だ。

 冗談じゃないわよ。私の目の前で友達を誰も死なせはしないわ。


「なぁ、シルヴィア。君は誰が怪しいと思う?」

「私達を狙った敵の正体?調査はエースの担当だったんでしょ?」

「そうだ。だが、これといって情報が集まらないんだ。マーリン先生の学生時代からいる職員も数がそこそこいるし、その中に闇魔法が使える人間が見つからないんだ。エリスの件や、ここ最近の学園の秘宝を先回りで回収している人物。……どれも当て嵌まる人物がいない」


 そうよね。これでもか!ってレベルで暗躍しているものね。エースの手下や忍び込ませた間諜、エリスさんだって調べているのにまだ見つかっていない。

 外部の犯行だと学園そのもののセキュリティがダメだってことになるけど、不審者は捕まっていない。


「法則性が無いなら複数犯なのかも知れないわね」

「組織的な犯行……やはり学園内に怪しい動きがあるのか」


 理事長やエリちゃん先生の姿を見ていると、そんな感じはしないし、お師匠様に誘いが無いから学園全てが敵って訳じゃないはずよね。


「敵が尻尾を出してくれればいいのにね」

「俺が学園にいる間にケリを着けたい。早く終わればエリスやみんなが何の憂いもなく学園生活を楽しめるからな」

「エースもね。みんなばかり優先していると歳を取ってから後悔するわよ。華の学生時代は一度きりしかないんだから」


 私は途中で一度終わって二度目だけど、今度こそ卒業式に参加して大人になるんだから。


「……そういう所だよシルヴィア」

「ん?」


 何故かジト目で私を見るエース。

 口がもごもごしていて何かを言いたげだが、諦めたのか溜息だけ漏らした。


「さて、そろそろ先に進もうか」

「そうね。ここまで壁画と階段しかないものね」


 広げていた荷物をリュックに詰め直して再び手を繋いで歩く。

 緊張はしなくなったのに繋いだ手が蒸れているのは何故だろうか?まぁ、いいや。


「今までの隠し部屋には何か仕掛けがあったかい?」

「図書館の地下は巨大なカエルの罠があったわ。時計

 台は開けた瞬間に矢が飛んで来たけどお師匠様の魔力障壁で無効化したわ」


 どちら共、ゲームだと侵入するのが難しいだけで危険な罠は無かった。

 おそらくは先にゲットした相手が後から来た人を狙って設置したのだと思う。


「だとしたら何かある可能性が高いか」

「初代国王や王族に関係する場所なら当然でしょうね」


 なーんて言ってるけど、私は知ってる。

 七不思議の中でこの場所と次に向かう予定の場所には敵エネミーがいることを。

 ゲーム内はアリアとエースが魔力を消費した状態で戦ったから命辛々になった。相手は土で作られた人形。ゴーレムだ。

 まぁ、水魔法が使えれば楽に相手出来るし、灯り程度の魔法しか使っていないエースと万全な状態の私がいれば苦労しない。

 お師匠様がいたらオーバーキルで仕事が回ってこなかったのだけどね。


「もし何かあれば俺が前に出るからシルヴィアは援護を頼む」

「心配ないわ。むしろ視界を確保する為にエースには光魔法で周囲を照らし続けて欲しいのだけど」

「その絶対的自信はどこから……はぁ、俺とジャックの二人がかりでも君に勝てなかったからな」


 あれはちょっとノーカンよ。

 私は呪いで操られていたし、エースとジャックはなるべく私を傷つけまいと加減してくれていた。

 お互いが遠慮なしに戦えば流石に私だって負けるんじゃないかしら?

 闇魔法はまだ使いこなせないし、召喚獣も獅子と虎よ?エカテリーナだけだと辛い。


「そろそろ階段が終わりみたい。気を引き締めましょ」

「了解した」


 無駄口はここまで。

 階段を降りきり、遺跡の最深部に辿り着いた。

 一直線の道のりだったけど、ここからゴーレムがわんさか出てきて戦闘になる。

 ワンパターンでそこまで強くないけど慢心はしないようにね。原作シルヴィアはそれでフラグを立てて破滅エンドだったのだから。


「何か転がっているな。灯りを少し先まで飛ばすよ」


 エースが杖を振ると、杖の先で光り輝いていた光弾がゆっくりと前へ飛んで行った。

 次弾を直様用意したから足元はよく見える。


「あれは⁉︎」

「え、嘘……」


 光が照らした先には、何者かによって破壊されて崩れ落ちたゴーレムがいた。それも多数だ。


「ゴーレムがこんなにいたのか」


 エースは倒れて動かないゴーレムに驚いているけど、私は違う意味でビックリした。

 

 ここまで立ち入った者は今までおらず、主人公が来たことで初めて罠が稼働したことになっている。

 それが既に発動している事が示すのは、


「エース!誰かが私達より先にここに来たかもしれないわ」

「何だって⁉︎だとしたら秘宝は既に……」

「まだ分からない。この奥に魔道具があるか早く確認しましょう」


 くそ!ここもなの⁉︎

 今までの場所なら兎も角、ここは条件も罠も違うのよ?それをどんな手段使って先回りしてんのさ!


 ゴーレム達は動く気配が無いので、エースに光弾を少し先に固定してもらって先を急ぐ。

 真っ直ぐ伸びた一直線の道を走り抜けると、隠しアイテムが置いてある大広間に辿り着いた。


「……誰だ」


 灯りもないその場には先客が二人立っていた。

 一人は黒ずくめでローブを被っていて顔がよく見えない。

 もう一人、お目当てのアイテムを手にしている人物は私達と同じ学園の制服を着ていた。

 エースの光弾が浮かび上がって部屋全体を照らす。


「邪魔をするなら斬り捨てるぞ」


 そこに立っていたのは私が、エースが良く知る人物であり、この場に来ることが出来るもう一人の王子だった。







「どうしてジャックがここにいるのよ!!」








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