第6話 処刑フラグを回避せよ!
今の〜私の〜気分は〜処刑台に向かう罪人〜
なんて心の中で歌いながらお城に到着。
お手紙をいただいた次の日です。前回のお茶会同様にオシャレしてきました。死に装束かもしれないから気合入れたよね。
「こちらでエース王子がお待ちです」
ガッチリと鎧を着た騎士に案内されたのはエース王子の私室。
改めて思うけど、伯爵家と王家だと天地くらいの差があるよね。そこを飛び越して王子と結ばれる主人公ちゃんて結婚後大変そう。まぁ、求められているのは特殊な属性だから跡継ぎさえ産むことができれば大丈夫かな?
それにしても、お城って本当に豪華。ここに住めれば毎日贅沢し放題だと思うとロマンがあるよね。私は死亡フラグがあるからおっかない場所にしか見えないけど。
「失礼致します。シルヴィア・クローバーです」
「どうぞ」
許可が出たので室内に入る。
ビビりながら入った部屋は子供部屋というよりはお父様が仕事してる執務室と同じ雰囲気。インクとカビの匂いがする。
「よく来てくれたクローバー嬢」
見るからにお高そうなソファーに座っていたのはストレート金髪のリアルアイドル王子様だった。あいも変わらず美形なことで。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
可憐に一礼。随分と様になってきたと思う今日この頃。
「あぁ。君を呼んだのは先日の弟の件についてだ」
はい。入室一分で断罪タイム。人生最速処刑ルートは半年足らずでした。来世があればまた会いましょう。……そもそも今世にどうやって転生できたかがまだわからないんですけど。
「その件につきましてはどんな処罰も受け入れる所存ですが、どうかクローバー家のお取り潰しだけはご勘弁を……」
素早く額を地面に押し付ける土下座スタイル。
叩いた私が罪に問われるのは当たり前だけど、家族だけは許して欲しい。あんな両親だけど記憶喪失になった娘を受け入れてくれたし、クラブは私を姉と慕ってくれる大事な弟だ。ソフィアには何度も助けてもらったから幸せになってもらいたい。
もしダメだった場合は私しか知らないゲーム知識や日本の知恵を差し出してでも、
「ま、待ってくれ!君は一体、何を勘違いしている」
ん?エース王子が慌てている。
「勘違い……ですか?」
「あぁ。今日は君に礼を言いたかっただけだ。それがどうして爵位剥奪になんて」
「え?だって私はジャック様に危害を加えたからてっきり処刑されるものだと」
「………報告と違うな」
やっべ。余計なことを言ったかも。
「クローバー嬢。君の口から聞きたい。あの日、ジャックと何があったんだ?」
目が笑ってないスマイルで見つめられてしまったので、大人しく私はジャック謝罪事件について話すことにした。
従者が頭を下げたのに当の本人が謝らなかったこと。その事を指摘したら逆ギレしたこと。
ついカッとなってジャックの顔にビンタしたこと。
「……以上です」
「そうか。報告だとジャックが無愛想に頭を下げたこととクローバー嬢に失礼な態度をとったこと。それだけだったので俺から謝罪をと思っていたが」
私の話を吟味するかのように低く唸るエース王子。声変わり前だからそれでもハスキーボイスなんだけど。
そんなことより、王子から謝罪って何?私がビンタしたことって知らなかったの?もしかして従者の人とかが気を利かせて黙っていてくれたのを私がペラペラ喋って自爆した⁉︎
オーマイゴット。自分にトドメを刺してしまうなんて。自業自得が悪役令嬢に相応しいとでも?
「まぁ。ジャックが何も言わなかったのであれば問題ないし、話を聞く限りだとクローバー嬢が我慢できなかったのも理解できる。当然の対応かもしれん」
「本当に申し訳ございませんでした」
「頭を上げてくれ。君が謝ることはない。むしろ、よくジャックを叱ってくれた」
どういう意味?
「以前にも話したが、ジャックは手がかかるというか、不真面目な所がある。原因は俺にもあるのだけど、周囲の評価や育て方にも問題があった。……ジャックだけは王家の規律に縛られることなく伸び伸びと育って欲しいという考え方が仇になるとはね。兄として面目ないよ」
双子として生まれたジャックとエース。
継承権一位のエースに対してジャックは何かあった時のスペアとして育てられるはずだった。
だけど、それじゃエースが王になった時にジャックに何が残るのか。保険として生きる人生に苦しむくらいなら、万が一が起こるその時までくらいは自由にしてあげよう。
それが、エースとその両親の考えだった。
「その結果がアレだ。このままでは良くないこともわかっているが、ジャックから王になる機会を奪っているのは俺。……そう強く言えなくてね」
ふぅ、とため息を吐くエース王子。
ジャックが可愛いだけじゃなくて自分に負い目を感じているのか。本当に私と同い年なのだろうか?中におじさんが入っていても違和感ないよ。
「あの、エース王子」
「なんだいクローバー嬢」
「王家とエース王子の考え方っておかしくありませんか?」
「なに?」
「いや、だって叱られずに放置して、王になれない可哀想な子って決めつけてワガママに育って、それを理解しているのに本人に指摘せずに周囲へ謝罪するって違うでしょ。何が悪いかを知らないとジャック様だって対応できないの当たり前じゃないですか。第二王子としての立場に縛られて欲しくない?だったら養子に出すとかしないと。王家がどうあれ下の貴族や一般市民からすればあなたもジャック様も王子なんですから。自分の立場を分からせないと駄目では?」
一番怖いのは無知であること。判断する基準がわからないから。
だって、そこがしっかりしていれば複数人の女性と関係を持ったりなんてしない。無駄に血を広げる行為なんて権力戦争したいの?って話だし。
それに、何で自分の子供や弟だけを特別扱いしたがるかな?王族だよ貴方達。王として相応しい立ち振る舞いをしないと不信感積もるだけだよ。何度世界史で王に対する革命だの謀反だのが起きたか。
他の貴族に示しがつかないのでは?
「いや、しかしだな」
「このまま成長したジャック様が万が一王になった場合、今と同じような態度で国がまともに機能すると本気でお考えですか?」
クローバー家はそこのところはしっかりしてる。私が他所に嫁ぐもよし。クラブを当主にするもよし。両親の年齢的に子供を一人増やすもよし。例え身内に不幸があっても家だけは存続させる。代々そうやってきたのだ。それ相応の教育はさせられている。
それなのにトップの王族が我が子可愛さに甘やかすなんて。……その血にはそれ相応の責任があるんですよ。
「駄目だろう。ジャックを王として支えようとする者は少ない。……傀儡のように扱おうとする家臣が誕生するだけか」
「そういうことですわ。王族足り得る方としてしっかりと教育がなされればきっと選択肢も増えるはずですわ」
「双子なのに王になることを望まれていないジャックを憂いていた。考えもしなかったよ。……結局、俺と両親はジャックに同情して憐れむだけで周囲や民への影響を予想していなかったか。…………ジャックの教育方針については俺から打診しておく。ありがとうクローバー嬢」
晴れやかな笑顔になるエース王子。イケメンスマイルが眩しくて困る。
並みのご令嬢ならこれだけで顔を真っ赤にして卒倒する人もいるでしょう。私だってシルヴィアじゃなかったらキャーキャーと黄色い歓声上げてるよ。
【どきメモ】の第三攻略キャラ、エース・スペード。正統派王子様キャラでありながらちょっと男前な性格。公私共に真面目で優等生キャラ。クラブが隠キャ、ジャックがチャラ男としたら陽キャだ。既にファンクラブが出来てるレベルで。
主人公ちゃんが不慣れな学園生活をしているのを心配して自ら話しかける聖人君子。平民と直接関わるのが新鮮でそのまま主人公と打ち解けて恋仲へ。それを知って王子に取り入ろうとしていたシルヴィア激怒。
主人公ちゃんをコソコソいじめて騙して退学に追い込もうとする。
そして、とある会場でシルヴィアを公衆の面前で糾弾。彼女がしでかした事件や実家の裏話も話す。逆上したシルヴィアを取り押さえて処刑させる………というのが原作ゲームのシナリオ。
追放のクラブ。
監獄のジャック。
処刑のエース。
この現時点での破滅フラグ三人衆の中で一番生死に直結してるんだよこの人。死神みたいな立ち位置だから笑顔とか向けられても冷や汗しか出ない。
機嫌を損ねたら処刑とかある?不敬罪ってどこから有効なんだろうか。
「そうだ。お礼に何かできることはないかい?」
「いいえ。王子様相手に要求することなんてありませんわ」
この場で私に何があっても処刑しないで!とは言えない。頭の変な子だと思われちゃう。
「じゃあ、これからは俺の友人になってくれないか」
「友達……ですか?」
「あぁ。シルヴィア嬢は賢いし、まるで大人と話しているようだった。貴族としてジャックのことも心配してくれているし、叱ってくれるなんて普通の子にはできないから」
そりゃあ、前世は女子高生でしたから。今の私達より年上ですよ。……ジャックについては自分の保身もあるんです。
しかし、友達というのはアリなのか?死神と距離を近づけていいのか。……身近で観察できればフラグ回避しやすいし、私がクズじゃないいたって普通の悪役令嬢だと知ってもらえれば処刑は回避できるのでは?お茶会に呼んでもらって美味しいお菓子を食べさせてくれるのでは?
主人公に負けずに成績優秀で王子からの信頼も厚いとなれば将来は良いところに嫁げるはず。
実家はクラブが継いで、ジャックは大人しく、エースと仲良くなるなんてハッピーエンドじゃないの!!
「そこまでおっしゃっていただくなんて嬉しいですわ。こちらからもよろしくお願いいたしますエース王子」
「エースでいい。俺も君をシルヴィアと呼んでもいいかな?」
「も、もちろんですわ。しかし、伯爵令嬢が王子を呼び捨てなんて」
「構わない。他の友人にも公式な場でない限りは呼び捨てでいいと言ってある」
「わかりました。……では、よろしくエース」
「こちらこそシルヴィア」
あぁ、ゲームで主人公がやる呼び名イベントを先行体験できるなんて役得だね。貴族だから早めに出会えてよかった。
こうして友好を深めた私達はお互いの弟自慢をしながら語り合った。
ジャックの恥ずかしいエピソードを教えてくれたので、この間クラブがおねしょした話をしてあげる。
途中で出されたお菓子は新作ケーキだったので私の気分は最高潮になった。調子に乗ってお父様とお母様の夫婦喧嘩話や私の魔法属性、ソフィアがどれだけ手際いいのかとか、他愛ない話を続けてもエースはニコニコと話を聞いて反応してくれた。
そしたら今度、私の家に遊びに行きたいと言ってくれたのでオッケーした。
アポなしだと困るから事前に連絡して欲しいと約束して話は終了。帰りにお土産までもらってしまった。
「ってことだからよろしく」
「お、お嬢様……」
「はぁ。だから姉さん一人で行かせたくなかったんだ」
どったの二人共?ため息ついて。
ところで、なんで両親が石みたいにピッしり固まってるのか教えてくれない?私のせい?
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