悪の組織の女幹部が公称25歳だけど本当は17歳の元魔法少女でオカンな件
嵐山之鬼子(KCA)
前編
「みんな~、晩御飯の用意ができたわよー!!」
割烹着姿のまま食堂から廊下に出ると、わたしはガンガンガンとおたまで空鍋を叩きながら、夕飯の支度が出来たことを大声で告げる。
「「「うぃーーーーッス!」」」
あちこちの部屋から、ゾロゾロと晩御飯にありつこうと、ガタイのいい連中が各々の部屋から飛び出してくる。
それを確認したところで、わたしは配膳のために再び厨房にとって返した。
ほどなく、つい先日入ったばかりの新米から、叩き上げのベテランや班長クラス、さらにはわたしにとっての直属の上司に至るまで、今この建物にいる50数名の“仲間”が、広い食堂に集まってくる。
みんなで「いただきます」と手を合わせてから食事にとりかかるのを、わたしは腰に手を当てて満足げに見守った。
「あ、今日の豚汁のおかわりはたっぷりあるから。慌てないでゆっくり食べなさい」
そう教えると、大半の連中が歓声をあげる。や~、そんなに喜んでもらえると、料理した者冥利につきるわね。
ココの光景だけ見てると、まるでわたしは「食堂のオバちゃん」みたいだけど──これでもわたしは花も恥じらう17歳の乙女なのだ! まぁ、
え? 上にも下にもサバなんて読んでないわよ?
(はぁ~、それにしても何でこんな事になっちゃったんだろう?)
「仕事」に対する充実感とは別に、冷静になるとそんな感慨も浮かんでくるんだけど……まぁ、今はなりゆきに任せるしかないか。
おっと、自己紹介がまだだったわね。
わたしは──日本侵略(“征服”じゃないあたりが分をわきまえてるわよね)を目指す悪の組織「ダスティ」の三将軍のひとりであり、首領「ディバイディルド」様直属の女幹部「魔将姫サキュベイン」なのよ!
ホラ、よく見れば割烹着の下にちゃんといかにもソレ風な黒のボンデージ着てるでしょ? 戦闘現場に出る時は、この上にショルダーガード付きのマントも羽織るんだけど、さすがに普段は邪魔なんで外してるわ。
もっとも、この肩書&名前も、本来はわたしのものじゃない。
元々、わたしは慶聖女学院2年B組に所属する環真奈美であり、同時に光の妖精の使徒である「セイントジュエルズ」のひとり、「セイントパール」だったんだから。
ちなみに、“本物”の魔将姫サキュベインもちゃんといるんだけど、今は彼女がわたしに代わってセイントパールやってる。未確認だけど、その普段の姿である真奈美もやってくれてるんだと思う、たぶん。
あ、マンガとかでありがちな「頭と頭がぶつかって心が入れ替わった」とか「サキュベインの魂に取り憑かれて、追い出されたわたしの魂が元のサキュベインの身体に入った」ってワケじゃないわよ?
この身体も顔もわたし自身のものだし、それは向こうも同じ。
でも……そうね、あえて言うなら後者に近いのかな?
現在の状況を端的に説明するなら、わたしと彼女の“立場”が玉突き的に入れ替わってるようなものだから。
* * *
本人の話と、後でサキュベインの日記から察した限りでは、彼女が敵味方の両方から散々「年増」呼ばわりされて頭にきてたことが、そもそも事の発端だったみたい。
25歳ってのは、確かに未婚の女性として「若い」と断言できるかは微妙だけど、それ以上に彼女の場合、「悪の女幹部のたしなみ」としてのケバいメイクが年齢を3、4歳フケて見せていたんでしょうね。現にわたしも、仕事中に同じメイクすると雰囲気まるで変わるし。
同性としては同情しないでもないけど、だからって彼女が考え出した、わたしたちセイントジュエルズのコスチュームを着て、自分だってまだまだイケると証明しよう……だなんて
いや、勝手にコスプレするぶんには文句はないわよ? でも、わざわざジュエルズのひとりをさらって、その衣裳を剥ぎ取って着替えるってのはどうなの?
で、その誘拐対象として白羽の矢が立ったのが、彼女と背丈や胸の大きさが近いわたしだったわけ。
郊外の廃工場におびき出されて単独行動になったところを、不意打ちされて気絶。目が覚めた時、わたしは工場の仮眠室らしき部屋に連れ込まれて、真っ裸にされたうえ後ろ手に縛られ、猿ぐつわまで噛まされていたの。
目の前には、同じく一糸まとわぬ20代半ばとおぼしき女性の姿が! いや、その時はてっきりレズビアンの痴女に襲われて、そのままわたしの初めては奪われてしまうのかと、本気でビビったわ。
まぁ、よく見ると、その全裸女性の正体は、ほかならぬサキュベインだったんだけどね。
いつもの悪趣味なバタフライマスク外して、さらに化粧も落としたスッピンだったせいで、とっさにはわからなかったのよね~。
素顔の彼女は、思ったより若いし、同性から見てもかなりの美人さんだった。
彼女は、わたしが目覚めていることに気づいてないらしく、手にした衣類──間違いなくわたしがさっきまで着ていたはずの下着を手早く身に着け始めた。幸い(?)身長165センチでBWHが88・61・85のわたしと体型が似ているせいか、さほど苦労せずに着れたみたい。
続いて、わたしが右手首に着けていたはずの変身ブレスレットを自分の右手にはめると、「ジュエル・トランスファー・ホワイトカラー!」という変身のための合言葉を唱えた。
すると、本来はわたしにしか反応しないはずのブレスレットが光を放ち、彼女の姿がその光の中に呑み込まれていったのよ!
光が消えた時には、そこにはセイントジュエルズのひとり、純白の癒しの使徒、セイントパール──のコスチュームを着た彼女が立っていたわ。
「コレよ、コレ。やっぱり魔法少女と言えば、フリフリのヒラヒラよね♪」
見るからに浮き浮きした様子で、なぜか設置されてる大きめの姿見に向かっていろいろなポーズをとったりしてる。
わたしたちセイントジュエルズのコスチュームって、実は結構個人差が大きい。ルビーのは真紅の振袖(ただしミニ丈)っぽい印象だし、サファイアは逆にスク水の上に体操服や手足のプロテクターを付けたみたいな感じ。
その点、セイントパールは……うーん、あえて近いのを挙げると、カードキ〇プターさ〇らのOP衣装? まぁ、さすがにアレよりはスカートは長めで色も白主体だし、足元はストラップシューズじゃなくてショートブーツだけど。
両手に白い手袋をして、目のあたりが大きめのバイザーで隠れているのは、他のジュエルズと共通ね。
率直に言って、20歳半ばの女性がするには本来ちょっと無理があるはずの格好なんだけど、不思議なことに、この時の彼女には、本来の持ち主のわたしから見ても、結構似合ってるように見えた──まぁ、多少のコスプレ感は否めないけど。
わたしが意識を取り戻したことに気付いたのか、サキュベインは、幾分申し訳なさそうに、こんなことをした理由を簡単に説明してくれた。
すなわち、「自分を年増呼ばわりした奴らに、この可愛らしい格好で見返してやるんだ!」ってことらしい。
「ごめんなさいね。貴女はいつも礼儀正しいし、ワタクシのことも馬鹿にしたりしないとってもいい娘だったから、できればこんな事したくなかったんだけど……。ただ、他の子のだと服のサイズが合わなさそうなのよ」
そんな理由で選ばれたのか、とガックリくるわたし。
「安心なさい。ひととおりアイツらに見せびらかしたら、解放して服も返してあげるから」
てことは、逆に言うと、わたし、それまでこのままなの?
意気揚々とセイントパールの格好をしたサキュベインが出て行ってから、半時間くらいはおとなしくしてたんだけど、さすがに全裸で縛られたままってのは辛い。おそるおそるもがいてみたら……あれ? 意外と簡単に縄は解けちゃった。ラッキー!
とは言うものの、それでも全裸痴女状態なのには変わりはないのよね。このままじゃ外に出られないし、どうしたものかなぁ。
──と、思ってたわたしの目にとまったのが、仮眠室の隅に畳んで置かれた黒い布。手にとると、予想通りそれは、いつものサキュベインが着ている、いかにも「悪の組織の女幹部です!」という感じのコスチュームだったの。
わたしの好みとは160度くらいかけ離れてはいるけど、まぁ背に腹は代えられないし、渋々着てみることにする。
ノースリーブのレオタードみたいなデザインの黒革のボディスーツと、網タイツならぬ網サイハイ&ガーター。剥き出しの腕には肩の近くまでありそうなエナメルの長手袋をはめて、靴は7センチピンヒールになったエナメルのロングブーツ。
「どう見ても女王様です。本当にありがとうございます」って、ちょっと腐女子入ってるセイントトパーズなら言うわね、きっと。
サキュベインがパールのコスチューム着れてたから予想はしてたけど、こちらの衣装も、少なくともサイズ的にはわたしにピッタリみたい。
デザイン的にちょっと(?)恥ずかしいことさえ除けば、シンプルで動きやすいし、着心地も案外悪くないかも。
それで、つい魔がさしちゃったんだろうなぁ。
わざわざトゲトゲショルダーガードの付いたマントを羽織り、ゴデゴテと宝石飾りのついて黒いカチューシャ(というかティアラ?)と、バタフライマスクまで装着して、部屋の隅にある鏡を覗き込んでみたのよ。
うわ~、いかにも悪女っぽい。て言うか、モロに悪の女幹部だわ~。
「ふふふ、セイントジュエルズよ、今日こそは貴様らの年貢の納めどきだ!」
調子に乗って、鏡の前でノリノリでポーズをとってたら──いきなり、ダスティの下級戦闘員や怪人が、仮眠室になだれ込んで来た。
「「「「サキュベインさまぁ~、俺達が悪かったっス!」」」」
「拙者も、二度と年増だなんて口にしませんから、帰ってきてくだされ!」
え? え? 何? どうなってるの?
たぶん、こんな格好してるから、本物と間違えられてるんだとは思うけど……。
「うむ、サキュベインよ。我らも貴公の善意に甘え過ぎていたことは反省している。
この通り謝るから、どうか機嫌を直してもらえないだろうか」
「ディバイディルド陛下も皇妃スカイゴワーリャ様も、お主のことを心配しておいでだ」
うわ、わざわざ三将軍の残りのふたりまで来てる!?
この状況下で、「ごめんなさい、実はわたし、サキュベインじゃないんです。テヘッ♪」なーんて言える程、丈夫な心臓してないわたしは、流されるままダスティの秘密基地へと、連れて行かれたの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます