宗教

 ある日の休み時間、いじめっ子の古賀が、取り巻きたちに向かって持論を展開した。

「世の中がどんどん悪い方向に進んでいっているのは、キリスト教のせいだ。キリスト教さえ存在しなければ、二度の世界大戦も、911も起こらなかったはずだ」

 そして僕にこう命じた。

「お前、イエス・キリストに文句を言ってこい。それで、明日、その結果を俺に報告しろ。分かったな?」

 無茶苦茶な話だと思ったが、命令者が古賀とあっては逆らうわけにはいかない。

 夜、自宅に置いてあった電話帳を捲ると、イエス・キリストの自宅の電話番号が載っていた。電話をかけた。キリスト教の創始者は二回のコールで出た。

「夜分遅く失礼します。イエス・キリストさんのご自宅でしょうか?」

「イエス。なにか御用で?」

「イエスさんは、自らが興した宗教が世界に及ぼした悪影響について、どうお考えですか」

 イエス・キリストは失笑を洩らした。そして冷ややかな口調で淀みなく答えた。

「キリスト教が誕生していなければ、歴史上の悲劇のいくつかは起こらなかったかもしれません。ですが仮に誕生していなかったとしても、キリスト教とは別の宗教が世界を席巻し、別の悲劇が地球上のどこかで起きたでしょうから、同じことだと思いますがね」

 僕はなにも言い返すことができない。

「電話、もう切りますよ。これからペテロやヨハネと共に、ユダの上履きの中に画鋲を入れに行かなければならないもので」

 翌日、僕は学校で、イエス・キリストとの会話の内容をありのままに伝えた。すると古賀は憤怒に顔を紅潮させ、イエス・キリストを口汚く罵り、取り巻きたちに八つ当たりをした。

 古賀がなぜ、そこまでキリスト教を嫌うのかはよく分からない。

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