双子の悲劇

 ユカとミカは一卵性双生児だ。目鼻立ち、性格、嗜好、癖。それらの全てが寸分違わず同じだ。服装や髪型で差別化を図ることも出来たが、姉妹はむしろ、周りの人間が戸惑うのを面白がって、その二つを統一するように心懸けていた。二人の仲は極めて良好で、瓜二つの顔形を度外視すれば、姉妹というより親友のように見えた。姉妹は常に行動を共にし、幸せそうに笑い合っていた。

 ある日の放課後、ユカとミカは公園のベンチに腰かけて無駄話をしていた。内容は、恋愛に関する噂話の類。好みを同じくする姉妹の会話は、自ずと盛り上がりを見せた。二人はいつしか、お喋りに完全に気を奪われていた。それが悲劇を招いた。

 不意に足音が聞こえた。駆け足で、一直線に二人が座るベンチへと向かってくる。双子らしく、同時に足音を聞き取った二人は、同時に顔を上げた。姉妹の目に、若い男のにやけ面が大写しになった。男はミカを熱烈に抱擁し、彼女の耳朶を舐め、脱兎の如くその場から走り去った。

「ミカ! 大丈夫?」

 ミカは真っ青な顔ながらも、問いかけにしっかりと頷いた。ユカはミカを促し、逃げるように公園を後にした。

 帰り道、ユカはミカを慰労する傍ら、こう考えた。

 公園でミカを襲った男は、面識のない人物だった。見ず知らずの異性に不埒なことをしでかすのが目的の、変質者だったのだろう。分からないのは、見た目が全く同じにもかかわらず、男が私ではなくミカに手を出したことだ。単なる偶然とも考えられるが、私が持っていない、魅力的ななにかをミカは持っていて、それが選択の決め手になったのだとしたら――。

 この事件を境に、ユカはミカに対して根も葉もない劣等感を抱くようになり、それが原因で二人の仲は壊れていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る