隔たり

 高校二年生の孫に、ダッポウ買ってきて、と頼まれたが、なんのことかさーっぱり分からん。

 ダッポウって、もしかしてあれか、携帯電話の新型か。そう探りを入れると、いいから買ってこいや爺、と紙片を押しつけられた。自宅から、ダッポウとやらが売っている店までの道順が示された地図だった。目上の人間に向かってその言葉遣いはなんだ! そう怒鳴りつけてやろうかと思ったが、そうすると暴力を振るわれるおそれがあるので、儂は地図を手に自宅を発った。

 店は簡単に見つかった。ハーブお安くお売りします。店頭の看板にはそう書いてある。

 扉を開けると、店内は薄暗く、ヤング・メン向けのアップ・テンポな音楽が大音量で流れていた。店の奥から、愛想笑いを顔に貼りつけたヤング・メンが現れた。

「しゃーせー。なにかお探しですか?」

「ダッポウを買ってこいと孫から言われたのですが、置いてますかのう」

「菊池寛ってどんな作家だったんですか?」

 脈絡のない質問に、儂は困惑して店員を見返した。店員はにやにやしている……。

「流行作家だったんでしょ、菊池寛。俺、平成生まれなんで、よく知らないんですよね。教えてくださいよ、菊池寛のこと」

 儂は弱ってしまった。キクチカンなる人物が何者なのかが分からなかったのだ。店員はにやにやしている……。

 返答に窮した儂は、懐から携帯電話を取り出し、孫の携帯電話にかけた。一つ訊きたいんだが、キクチカンという作家を知っているか、単刀直入に尋ねると、おっせぇんだよ爺、さっさとダッポウ買ってこいや、怒鳴られ、通話を切られた。

 キクチカンとは何者なのか? ダッポウとはなんなのか? 頭の中で疑問符が阿波踊りを踊っている。店員は相変わらずにやにやしている……。

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