性器について

 妻から頼まれていた商品を買い終えた私は、ベンチに腰を下ろして一休みしていた。すると背中合わせに設置されたベンチから、二つの若い女性の声がこんな会話を交わしているのが聞こえてきた。

「ペニスって、人体から取り外して持ち運べたら便利じゃない? 性的な意味で」

「なにその発想。超斬新なんだけど。でも、それだと大人のオモチャと変わらなくない?」

「いや、生のペニスだから、大人の玩具と違って、外的な刺激の有無で勃起したり萎えたりするの。臨場感があってよくない?」

「なにそれ。便利なんだか不便なんだか分からないんだけど」

 いかにも今時の若者らしい、物質的な物の考え方だ。仮に男性器が取り外し可能になったとすれば、便利は便利に違いない。

 だがその発想には、人間にとって最も大切なものが欠如している。

「私はそのアイデアには賛同できないな」

 振り向いて私は言った。会話をしていたのは、制服姿の二人の少女。どちらも驚いた顔をしている。

「性をそういう風に物質的に捉えるのはいかがなものかな。セックスは、生身の人間同士が面と向かってするからこそ、セックスなんだ。その前提をなくしてしまうのはどうかと私は思うよ」

 二人は顔を見合わせた。二人同時に再び私の方を向き、片方が言った。

「じゃあおじさん、逆に女の人のあそこが取り外せるって考えてみてよ。出張先でも奥さんとエッチできるんだよ。超便利でしょ?」

 確かにそうだな、と思った。反論の言葉が見つからず、口を閉ざす。

 二人は顔を戻し、性器を取り外した後の排尿の方法について意見を戦わせ始めた。

 彼女たちの論議の邪魔をしないよう、静かにベンチから腰を上げ、愛妻が待つ我が家へと急いだ。

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