聖夜の行列

 クリスマスイブの夜、美味いと評判のケーキ屋に行くと、長蛇の列が出来ていた。列を構成しているのは、最後尾に並ぶ男を除けば若い女ばかりだ。

 列に並んですぐ、前の男の様子がおかしいことに気がついた。やけに激しく貧乏揺すりをしているのだ。よく見ると、その前に並んでいる女も妙だ。尻を大きく突き出すような姿勢で立っているのだ。

 二人は、驚くべきことに、性交していた。

 手持ち無沙汰にかこつけての情交かと思ったが、違う。女は恐怖と嫌悪に顔を歪めている。男が女を犯しているのだ。

 蛮行を止めるべく行動を起こそうとして、思い留まった。警察を呼べば、事情を訊くために署に同行を求められる。列から離れることを余儀なくされ、ケーキを買うためにはまた一から並ばなければならなくなる。そう考えたからだ。他の客も、男の犯行自体には気がついているものの、並び直さなければならなくなるのが嫌で、被害者を救うための行動に踏み切れずにいるに違いない。

 強姦された女は、並び続ける気力を失い、列から離脱するだろう。それに伴って、自分の順番が一つ早まる。前に並ぶ女を犯せば犯すだけ、自分の番が来るのを早められる。そのような計算のもとに犯行に及んだのかと思うと、私は男の悪魔的な頭脳に畏敬の念を抱かずにはいられなかった。

 性交が終わった。女は泣きじゃくりながら着衣の乱れを直したが、列から離れる素振りは見せない。男は出ていたものを仕舞うと、すごすごとその場から退散した。思惑が外れたのか、それとも端から強姦だけが目的だったのか、それは知る由もない。確かなのは、ケーキ一個のために長蛇の列に並ぶことからも分かるように、女の精神力は強靱だ、ということだ。

 やがて私の番が訪れた。ケーキを一つ買い、帰宅後に食べた。

 美味くも不味くもなかった。

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