行方

 連絡が途絶えたのを心配して、北区の親友宅を訪ねた。留守のようだったが、玄関の鍵はかかっていない。上がり込むと、居間に敷かれた布団の上に小学五年生くらいの女児が寝そべり、テレビを観ていた。頬杖をつき、口を半分開け、物憂げに画面を見つめるその姿は、薬物中毒者を連想させた。

 親友は未婚で、子供もいなかったはずだ。

 女児は私の存在に気づいているのかいないのか、テレビから目を離さない。狭い画面の中で、全裸の白人女性が後ろ手にいましめられ、もがいている。女性の眼前に立った黒人男性が、笑いながら拳銃の引き金を引いた。作り物くさい銃声が轟き、女性の左胸に穴が穿たれた。半歩遅れて赤い液体が溢れ出す。女性は首を垂れたきり、ぴくりとも動かない。女児が観ているのは、親友が趣味で蒐集しているスプラッタ映画の中の一作だった。

 親友は女児を誘拐し、自宅に軟禁しているのではないか、と私は疑った。そういえば、知人が校長を務めている小学校の女子児童が、数日前から行方知れずになっている、という話だった。親友宅を抜け出し、その知人に電話をかけた。

 親友宅にいた女児の特徴を伝えると、行方不明の女児に違いない、と知人は断言した。そして笑いながらこう付け加えた。

「君の親友が女児を軟禁している事実は、警察には絶対に報せないでくれよ。私は、女児が遺体となって発見されて、号泣しながらマスコミのインタビューを受けてみたいんだ。悲劇の人を演じて、己の屈折したちっぽけな感情を満足させたいんだ。だから君、くれぐれも頼むよ」

 親友宅に背を向け、私は歩き出した。スプラッタ映画を視聴する女児の物憂げな横顔が脳裏に甦る。

 あの女児は、私の親友を殺害し、遺体を細かく切断して、近所の空き地にでも捨てたに違いない。

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