阿呆の折り鶴

 大災害が発生した翌日、福島絆はボランティア活動を行うためにチェルノブイリを訪れた。チェルノブイリの被災者を少しでも元気づけられればと、大量の折り鶴を持参して。

 避難所を訪れ、被災者の男の一人に折り鶴を差し出すと、男は福島絆を怒鳴りつけた。

「阿呆! しょうもない紙細工やのうて、食えるもんを持ってこんかい!」

 福島絆はチェルノブイリに関西弁を話す人間がいたことを意外に思った。国際化が進んでいるんだなぁ。そんな思いを胸に、ボランティア活動を行うことなく帰国した。

「オードブルに箸をつけなければ、メインディッシュにはありつけないものなのにね」

 翌日、私の自宅を訪問した福島絆は、そんな一言と共に話を締め括った。

「そうやったんか。それは知らんかった」

 いきなり部屋のドアが開き、男が入ってきた。チェルノブイリで福島絆を罵倒した被災者の男だ。被災者の男は福島絆の手から折り鶴を引ったくると、丸呑みした。その途端、被災者の男の体が見る見る変容し、3.11秒後には折り鶴になっていた。空色の折り紙で折られた、キュートでファインな折り鶴に。

「折り鶴になってしもうた」

 折り鶴から被災者の男の声が発せられた。その声は震えていた。

「オードブルに箸をつけたらメインディッシュにありつけると思うたのに、折り鶴になってしもうた」

 チェルノブイリの被災者は阿呆だなあ、と私は思った。福島絆が言った「オードブルに箸をつける」とは、差し出された折り鶴を受け取ることであって、折り鶴を食べることではない。折り鶴を食べてもメインディッシュにありつけるはずがない。

「阿呆だなあ、チェルノブイリの被災者は」

 面罵されたことへの報復か、福島絆は大声で折り鶴を罵った。

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