爆買いの終焉

 家電量販店に足を運んだ私たちは、欲しかった商品を無事に手に入れた。菊ちゃんはハンドタイプの電動マッサージ器、私は単三の乾電池。どちらもセール品だ。レジの順番を待っている間、私たちは上機嫌に無駄話に耽った。

 ふと我に返ると、いつの間にか、カートを押した青年が私たちの前に並んでいる。カートには商品が山のごとく積まれている。

「長蛇の列が出来てるからって、割り込むんじゃねぇよ。最後尾につけ、最後尾に」

 菊ちゃんはドスの利いた声で青年に注意を与えた。青年は肩を竦めて頭を振った。

「分からない、日本語。僕、中国人だから」

 まずい、と思った。菊ちゃんは怒りっぽい上に喧嘩っ早い。青年に突っかかっていくのではないかと危惧したが、杞憂に終わった。表情を見る限り、青年に対して怒りを覚えているのは確からしいが、黙っている。相手が外国人だから大目に見たのかもしれないが、菊ちゃんとしては異例の対応だ。

 支払いを済ませ、中国人の青年は店を後にした。すると菊ちゃんが、俺の分の会計も頼む、金は後で払う、と私に告げ、小走りに店を出て行った。嫌な予感がした。会計を済ませ次第、私も店を出た。

 菊ちゃんを捜して歩き回っていると、本人から電話がかかってきた。S商事ビルの駐車場にいるという。

 現場に駆けつけると、コンクリートの地面に中国人の青年が大の字に倒れていた。顔面が潰れ、右腕が有り得ない方向に曲がっている。菊ちゃんはビルの外壁にもたれて紫煙をくゆらせている。

「そいつ、中国人じゃないぜ。すげぇ流暢な日本語で命乞いしてきやがった」

 菊ちゃんは吐き捨てるように言って、短くなった煙草を地面に放った。

 私は電動マッサージ器に乾電池をセットし、スイッチを入れ、振動する先端部を青年の頬にそっと押し当てた。

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