須藤さんの駆除
自宅前の空き地に四年ぶりに須藤さんが大量発生した。何か悪さをする、というわけではないのだが、「周辺の景観を損ねる」と近所の人から苦情が来たので、兄と一緒に駆除することになった。
空き地には、四十過ぎくらいの、肌の黒い男性――須藤さんが三十人ほどいた。須藤さんは姿見の前でおどけたポーズを取ったり、アコースティックギターを弾いたり、カレーライスを食べたり、『進撃の巨人』を読んだりしている。
「どうして、須藤さんは色黒なの」
四年前にも抱いた疑問を、七歳上の聡明な兄にぶつける。
「サーフィンが趣味だからさ。ほら、御覧」
兄が指差す方を見ると、陸地なのにサーフボードに乗り、両手を水平に広げ、バランスを取っている須藤さんがいた。
兄は陸サーファーの須藤さんに歩み寄った。上着の胸ポケットから小袋を取り出し、中に入っている塩をつまみ、須藤さんに振りかける。たちまち須藤さんはしゅわしゅわと音を立てて溶け始め、あっと言う間に跡形もなく消えてしまった。
仲間が駆除されたのを見て、他の須藤さんたちは空き地の中を逃げ惑い始めた。兄は小袋から塩をつまみ出しては浴びせかけ、矢継ぎ早に須藤さんを消滅させていく。
いくら須藤さんとはいえ、ちょっと可哀相だな――。
「俺だって殺したくはないが、須藤さんが増えすぎるのは、人間にとっては勿論、須藤さんにとっても好ましくないことだからね」
まるで僕の心の声が聞こえたみたいに、せっせと塩を撒きながら兄は言う。
「残酷なようだけど、駆除するのが一番だよ」
正論だと思った。駆除される須藤さんが可哀相だと思う気持ちが消えたわけではない。消えたわけでは決してないのだけど――。
僕はジーパンの尻ポケットから小袋を取り出し、近くにいた須藤さんを目がけて無言で塩を投げつけた。その時には、生き残っている須藤さんはもう五人しかいなかった。
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