わがまま幼馴染は、理不尽だけど大好きです。
@orima129
第1話 再会は、理不尽の味
いつもの歩きなれた道を通って、バイト先である喫茶店に向かう。今日は、昼過ぎから閉店までがシフトだ。今は春休みなので、バイトし放題。まあ、一生に一度の高1の春休みをこれだけで過ごすのはどうかとは思う。だが、その分特に使い道はないがお金は貯まっていくので悪いことではないだろう。たぶん。
大通りからそれて少し行けば、春の花の優しい香りが漂ってきた。働かせてもらっている喫茶店の店長が、店先に植えているものだ。
毎年、この時期になるとその香りを楽しませてくれる。
店長とは、小さい頃からの付き合いだが今思えば、この花の名前も聞いたことがない。今度、聞いてみようか。
ドアに付いている聞きなれたベルをカランコロンと鳴らしながら、店の中に入る。
落ち着いた雰囲気の店内に座っているひとは誰もいない。どうやら、この時間にはお客さんはいないようだ。
見えてきたのは、カウンターの奥に女性が2人。1人は当然見知った店長で、もう1人も見覚えがある。
「あ!やっと来てくれた。達也くん、ちょっとこっちきて!」
「何ですか、美香さん。」
何かと聞きながら、見覚えのある彼女のことだろうと思いカウンターの中に入っていく。
いつもの何倍も良い笑顔で手招きしている彼女は、このちょっと大通りから逸れた場所にある喫茶店「ハートストライプ」の店長である内藤美香さん。
俺が、小学生の頃に高校生だったので結構若い。俺たちは、その頃からの付き合いで、家が近いこともあり、当時は結構遊んでもらっていた。
そんなこともあって、今は美香さんがお父さんから継いここで雇ってもらっている。ちなみに、「ハートストライプ」という名前は、美香さんが店を継いだときにつけたものだ。
「紹介します。今日から、達也くんと一緒に働いてもらう早織ちゃんです!」
「あ、初めまして。佐々木達也と言います。よろしくお願いします。」
「ちょっと、初めましてって何よ!私のこと忘れたって言うの!」
もちろん、忘れたわけでも、初めましてでもない。腰に手を当てて分かりやすく怒っていますアピールをしている彼女のことは、むしろよく知っている。
少し茶色に染まった髪を後ろで一つにまとめている彼女の名前は、多田早織。
小さい頃美香さんに遊んでもらっていたもう1人の方。幼馴染というやつだ。
昔は、よく一緒にいて、わがままで理不尽な彼女に振り回されていた。中学のあるときから、訳あって疎遠になっていたが。
久しぶりの再会で少し驚いたこともあり黙っていると、早織はゲシゲシと足を蹴り出した。
「忘れてないって、ごめんごめん。だから、足を蹴るのは止めて。」
「ならいい。次はない!」
「うんうん。仲がよろしくて結構!最近は、一緒にいるところを見ないから心配していたけど大丈夫みたいだね。」
美香さんは嬉しそうに、少し懐かしそうな表情を見せながら頷いている。
だが、昔と同じ彼女の態度には、疎遠になった原因がこちらにあることもあり、やはり戸惑ってしまう。
だが、思い返してみればいつも喧嘩したときに、最初に仲直りのきっかけを作るのは、早織だった。
彼女に原因があっても、俺にあってもだ。早織のいいところであり…苦手なところだ。
「なに?そんなに私のことをみて。」
「いや、何でもない。」
考え込んでいるうちに、見すぎたようだ。早織が怪しげにこちらを見てくるので、目をそらした。
そうこうしているうちに、美香さんがパンっと手を鳴らして、俺たちの名前を呼んだ。
「はい!お二人さんもそろそろ仕事しようか!私は、裏で午後の仕込みしているから、表はお願いね。」
「美香ねえ、私は?」
「早織ちゃんは、達也くんに表の仕事を教えてもらってね。」
「はーい!」
どうやら、わがまま幼馴染の教育係は俺のようだ。ここで働き始めて半年は経っていて大体のことは分かるし、俺たち以外のバイトもいないのでそうなるだろう。
荷物を置いて、早織の横に立つ。美香さんは、既に奥に行ったので今は二人きりだ。
2年くらいまともに話していなかったので、まだ若干の気まずさを感じながらいると、やはり早織の方から話しかけてきた。
「さあ、達也!しっかりと仕事するわよ。」
「ああ、そうだな。それで、どこまでできるんだ?」
「何も、知らないけど?」
「え?」
「今日が始めてなの。だから、早く達也が教えるのよ。」
なんて理不尽な!と思いかけたが、普通だった。自信満々の彼女の態度を見ていると、昔の感覚に引っ張られてしまう。
小さい頃、早織が風邪をひいたり、用事があったりして遊びに行けなくなったときには、大好物の美香さんのカプチーノをおごらされた。私は、不満だ!といった感じで。
だから、小さいときの俺はちょっと理不尽だろと思っていた時もあった。
そんな感じで、昔と変わらない早織を見ながら仕事を教えていると、いつの間にか初めは感じていた気まずさは、感じなくなっていた。
「うーん。覚えること多い!達也、カプチーノ!」
「やっぱり、理不尽!」
そう言いつつも懐かしい感じに、だんだんと心地良さを感じだす。疎遠になっていたことを、これまで以上に後悔するくらいに。
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