第28話 絶望!?お嬢様の決意
幸いにもエリナは、アルカディ・アケミカルから派遣されカラサキを中心とする
会社に戻ったエリナは、すぐにホノサキに呼び出された。
「ハヤマさん、まずは無事で何よりよ。」
「ご心配をおかけしました。」
「ええ、本当に。あなたに何かあれば、あなたのお父様に申し訳が立たないもの。」
ホノサキはエリナが無事に戻り胸をなで下ろした。
彼女は銀行一家の末娘で、彼女の父が長を務める銀行は、アルカディア・ケミカルの取引先の一つでもあった。
彼女の親戚縁者も、このドーシュや近隣都市で何らかの影響力を持っており、エリナに何かあれば、会社に対して社会的な報復もありえるのだ。
危険な『駒』ではあるが、上手く操れば莫大な恩恵をもたらす存在でもある。
社員ではあるが、エリナは『人質』だとホノサキは考えていた。
「ホノサキさん。ジュリちゃんは、あの…」
一方のエリナは、ロミオが言っていた『孤児の誘拐と実験』が頭から離れなかった。
ジュリ以外にも、下層から拉致された子供たちがここにいるという。
それは、真実なのだろうか?と。
「あの子はあなたに懐いていたものね。悲しい気持ちは、分かるわ。でも、あの子はもう死んでしまった。遺体も、あの男が持っていったわ。残念だけど、気持ちを切り替えて前を向かなきゃいけないわ。」
言葉とは裏腹に声色は淡々としていた。
加えて、悲しみと言うよりは、残念だ、と言わんばかりにため息をつく。
そして、ホノサキの次の言葉にエリナは耳を疑った。
「まあ良いわ、下層には掃いて捨てるほどいるもの。また別の実験体を手に入れるわ」
ぶわりと、鳥肌が立つ。
ホノサキは、ああそう言えば伝えてなかったと、エリナに目線をやる。
「実験体は、死んでしまうものもごくたまにいるのよ。まあ、彼女以外にもたくさん『いる』から、また今度、会わせてあげるわ。」
「どういうこと、ですか?子供たちを、実験、にって?」
「あの子以外にも、似たような境遇の子供たちを私達は『保護』しているの。勿論、ただの慈善事業ではなくってよ?私達アルカディア・ケミカルの目的は『利益』。ほんの数人の犠牲で、我が社は多くの富を得る。それに、その富を得る過程で多くの人が救われるのよ?あなたの理想と、なんら乖離はしていないわ。」
ホノサキはエリナの青臭い正義感に嘲笑を与える。
何かを成し遂げるには対価が必要だ。
多くの場合、金で事足りるが、それでは不十分な時もある。
実験体達は、それを満たす存在なのだ。
「この都市には、なぜだか突然変異の子供たちが生まれる確率が高いの。中には発火能力者も居たわ。まあ、すぐに死んでしまったけど。…それを利用しないなんて、この都市にいる意味はないわ。」
「!酷い、人を、人とも思わないなんて。」
部屋を出ていこうとするエリナにホノサキは叫んだ。
「馬鹿なことは考えないで頂戴!ジュリに関わった段階で、あなたも既に共犯者よ!この事が公になったら、あなたのお父様にはどうなるかしら?」
警察にと、考えたエリナの思惑は把握しておりしかも、社会的地位の高い、彼女の父親の失脚を匂わせた。
「娘のあなたが犯罪行為に加担していたんですもの。今までどおり、という訳には行かないでしょうね?」
ニヤリと、ホノサキは歪んだ笑みを浮かべる。
対するエリナは、怒りと絶望が入り混じりただ固まっているだけであった。
「お帰りなさいませ、お嬢様。お話は聞いております。先ずはバスルームで汗をお流し下さい。」
家に帰ったエリナを
エリナが短時間とはいえ、拉致されたことは既に家人に行き届いていて、乳母や父親の秘書はエリナに労りの言葉をかけた。
汗と下層で着いた臭いを洗い流したいエリナは素直に従った。
世のため人のためと思った仕事が、その実、子供たちを虐げていたなど。
しかも、自分の目の前に被害者とも言える子供がいたのに救うことが出来ず、死なせてしまった。
知らぬとは言え、関わってしまった以上エリナも共犯となってしまった。
公になればエリなだけだなく、彼女の父親にも害が及ぶ。
「(せめて、以前からという証拠があれば…)」
アルカディア・ケミカルの誘拐がエリナが入社するより前に行われたという証拠があれば、保安当局と司法取引ができる可能性がある。
上手く父親に掛け合えば、伝で大掛かりな捜査ができるかもしれない。
ロミオには、父親の庇護下で何一つ不自由なく暮らしていると言われた。
その通りだ、自分一人ではアルカディア・ケミカルに入ることすら出来なかっただろう。
そして今も、父親の力に頼らなければ巨悪と立ち向かうことも出来ない。
しかしエリナは、それに反発するほど子供ではない。
ホノサキに脅されて所長室から自宅への道すがら、冷静に考え抜いた末の結論。
利用できるものは利用する、とロミオを見習うことにしたのだ。
力はある。
あとは証拠を集めていかなくては…。
「…?」
浴室から出て、脱いだ服を片付けようと持ち上げると、上着のポケットに違和感を覚えた。
胸ポケットに入れた覚えのないペン。
サイドポケットには、スティック型の
どれもエリナの所持品ではない。
「まさか、コンゴウ先輩…?」
エリナは急いで服を着ると、髪の毛も乾かさず自室へと引っ込んだ。
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