第16話 息抜き業務?いいえ、タイムトライアルです
アラームの音と振動でロミオは目を覚ます。
時刻は、何時もの起床時刻。
昨晩エリナが帰った後に速攻寝入ったため、睡眠時間は多めだ。
今日は普段通り出社し、実験体の回収報告書を作成しなければならない。
と言っても、ロミオの口頭報告をジョウが書き起こすだけなのだが。
「旦那はん、おはようございます。ご飯、出来てますから食べてくださいね。」
精白米、工場産の海藻と芽野菜の味噌汁、そして目玉焼。
大根の酒粕漬けもある。
「いただきます…あつっ」
「はいお水です。落ち着いて食べてくださいね。」
「…ふう…ガキの様子はどうだ?」
「ジュリお嬢様は、まだ寝てはります。旦那はんが家ではったらまた様子見に行きます。」
「頼むぞ。」
ロミオは朝食を食べ終えると
唾液と反応して咥内に泡が充満し洗浄する。
高価だが、歯磨きの手間が無くなるスグレモノ。
因みにアルカディアケミカルの目玉商品の一つなので、社員であるロミオには無償で提供される。
最後に泡を吐き出して口を濯げば歯磨きは完了だ。
「旦那はん。今日は何食べたいです?」
「ハンバーグ。牛100パーで。」
「分かりました。それでは、行ってらっしゃいませ。」
玄関先まで鞄を持ち、深々と頭を下げて主人を見送る姿はまさにメイドの鏡。
その姿を何人かの通行人が横目で興味深げに見ているが、ロミオは意に介さず会社へと向かう。
ロミオ達が暮らしている中層の住宅街ではメイドを雇う家庭は少なく、かなり目立つ。
しかも若い男と若いメイドともなれば、ゴシップのネタのようなものだ。
他人を道端の石ころだと認識しているロミオと、主人に尽くすメイドとして完璧なヒロネだからこそ、そうした視線をはねのけることが出来ているのだ。
ロミオは今日も、積層都市を登る。
理由と原動力は唯一つ。
愛しい愛しい金の為だ。
ロミオは淡々とジュリを攫ってきた時の様子を報告する。
その内容を自動書機がインプットし、ジョウの目前にあるモニタに映る。
文字の羅列が連なり、文章となる。
ロミオの口上を分析し、報告書としての体を自動的に整えてくれる。
ジョウの役目は、ロミオに質問し記載内容を増やすことだ。
所要時間、行動経路、侵入ルート・方法、ターゲットへの接近方法、奪取手順、脱出経路に至るまで事細かに質問し、ロミオはそれに答える。
「報告は以上だ」
「ありがとう。うん。それにしても、君はもう
「
ぴしゃりと言い放ったロミオにジョウは肩を竦めた。
「君は本当に金が好きだね。ま、君の場合出自が微妙だからどっちみち難しいかもね。」
「分かっていながら言うなんていい性格してるな。ジョウ。」
「お褒めの言葉ありがとう。さて、今日は午後から血液回収に行ってもらおうかな。場所は下層第四階と第三階で四拠点。アンプル数は二十。よろしく頼むよ。」
「はいはい。全く人使いが荒いことで。……今日は俺一人か?」
「今日はね。ハヤマさんはカラサキ主任と一緒に下層に栄養補給剤を配布しに回っているよ。」
「ってことは、また一週間後に血液回収か。」
会社が栄養剤を配布した後、その影響調査として血液の検査を行っているのだ。
栄養剤が安全であるのは確証済みであり、血液検査は効果が少ない場合に追加の栄養剤を配布するための事前調査…というのがアルカディアケミカルの表向きの理由である。
実際は配布する栄養剤の副作用の確認実験である。
悪影響は滅多にでないが、それでも倫理的にはアウトである。
「ご名答。よろしく頼むよ。夜にはまた君の家にお邪魔してあの子を診察させてもらう。ああでも、今日は会議があってね先に帰っててくれ。」
「へいへい。…今日はなんかエリア広くないか?」
ロミオはジョウに示された回収ポイントに難色を示した。
数は四つと多くはないが、距離が開いている。
まずは下層エリア第四階ターミナルエリアにある民間病院。
次に下層エリア第三階シンマチ地区
その次は大階段を挟んで反対側の北の病院。
会社からの移動を含めると、午後だけで回るには少し厳しい。
「下層の足は?流石に徒歩じゃぁ厳しいぞ。」
「
「競合他社?それって、俺の邪魔してた奴らか?」
「それもいるし、他のも数社。まあ彼らもウチと同じような実験をしているみたいだけど。うちの人間が何人か
「精々気をつけるよ。んじゃ、昼飯食べたら下にいく。ジョウ、飯は?」
ジョウは腕時計で時刻を確かめると立ち上がった。
「ちょうど切りもいいし、一緒に食べよう。今なら食堂も空いているだろうし」
二人は上層階にある社員食堂に移動した。
社員食堂はガラス張りの開放的な作りになっており、窓からは隣のビルや上層階の整然とした街並みが見える。
時刻は十一時。
昼食には少し早い時間だか、食堂は開いている。
「ロミオ、また肉ばっかり摂って。少しは野菜も食べないと。」
「最近は朝夜とヒロネに野菜ばっか食べさせられてるからヘーキヘーキ。」
ロミオがチョイスしたのは唐揚げ定食(大盛り)、対してジョウは焼き魚定食と海鮮サラダ。
肉好きのロミオと、健康志向のジョウらしいチョイスだ。
見晴らしのいい席に腰を下ろして二人は手を合わせた。
「「いただきます」」
下層最上階である第四階にロミオは足を踏み入れた。
何百台もの大型貨物車両が整然と並び、積荷が行き交う巨大な貨物ターミナル。
薬品は勿論、医療機器、健康食品までドーシュで生産されるあらゆる製品がこのターミナルから近隣都市に出荷される。
ドーシュで開発される薬は先進高機能薬品として需要が高く、全国各地に運ばれる。
特にロミオが所属しているアルカディアケミカルは販売規模も大きく、ターミナルに停留している車両の三割はアルカディアケミカルが所有している専有車両だ。
荷物の積み下ろしは完全に機械化されている。
駐車スペースは一台ごとに細い柱で区切られていて、無数のロボットアームが接続されている。
このアームがコンベアから運ばれてくる商品を隙間なく荷台に詰め込んでいくのである。
トラック自体は自動運転装置のものもあるが、大半はドライバーが存在している。
彼、もしくは彼女達の健康管理を行う施設が、ロミオの目的地である。
一般市民相手の血液採取が
ターミナルエリアの病院は中層エリアからリフトで降りたすぐの場所にあるため、難なく回収ができた。
ロミオは足早に一軒目の病院を後にし、
華やかなシンマチ地区を離れると下層第三階の『真の姿』が現れる。
ドーシュの人口の約八割が居住する、街である。
下層第四階の物流ターミナルの作業員や、ドライバ、都市農場に務める肉体労働者が主な住民だが、彼らを相手に商売をする小売店、娯楽施設、そして彼らの子どもたちが通う学校施設が雑然とひしめき合っている。
シンマチ地区の医療施設では、やはり幸福の籠が話題に上がったが、特に変わったことはないらしい。
『御神体』が攫われてまだ一日。
いなくなったと信者にバレれば教団は崩壊する。
ムラサキを一とした教団幹部は今頃血眼になって探しているだろう。
ロミオの姿は見られていなし、もし見られていても黒ずくめの怪しい人物でしかない。
故に、
「あそこか」
見え始めた市民病院にロミオはスピードを落とす。
ベッド数二〇〇程度の規模で、歴史は古い。
人口に対してベッド数が少ないのは、正規居住者人口を考えて作られたからである。
駐車スペースに
看護師が一人、ロミオを待ち構えていて診察室まで案内をした。
「これが今回の検体になります。お収め下さい。」
「ご苦労さん。…数はOKだな。」
アルミケースに収められた血液サンプルを回収し、ロミオは足早に病院を後にした。
次はここと対岸にある施設。
荷物が増えた分バランスが悪くなり、スピードは落ちる。
夕方に近づくにつれて人通りは多くなる。
スクータには
荷物を落として破損でもすれば、報酬どころかペナルティをもらってしまう。
仕事はきっちり、報酬はがっぽり。
ロミオのモットーである。
北の市民病院からも検体を受け取り、ロミオは大階段を目指す。
時刻は既に十七時。
終業時間には間に合わない。
ならばできるだけ帰宅時間を伸ばして残業代を…となりそうだが、ロミオはあえてそれをしない。
それで稼げる金額はたかが知れているし、血液サンプルは時間が経つにつれて劣化していく。
それに無駄な時間を過ごすくらいなら家で黄金を愛でいたほうがよっぽど有意義である…とロミオは思っている。
「どうもお疲れさまです。電動スクータの調子はどうでしたか?」
「助かったぜ。自分用にほしいくらいだ。」
「それはありがとうございます。ですがこれは非売品で、勿論、どうしてもと仰るなら」
「あ、金取るならいらん。んじゃな」
試算をし出した男に別れを告げてロミオは
今の時間では、夜の享楽を求める流れに逆らう形になり、なかなか前に進めない。
シンマチ地区の疑似太陽は既に今日の役目を終えつつあり、黄昏の光を天井に広げている。
薄暗く、すれ違う人の顔も目を凝らさなければ分からない。
まるで地上の黄昏時のよう。
登りきったところで大階段を振り返れば、
ロミオにとっては食費を稼ぐ場所になっているが、この街を支配する製薬企業にとっては巨万の富を生む巨大な実験場。
栄養剤と称して配布される薬の目的は、外に売り出す前の実証実験、栄養補給の効能の検証と悪影響の確認。
故に、薬を配布してから一週間以内に、配布対象者に血液採取の声がかかる。
実験の結果が問題なければ謝礼が支払われ、万が一何らかの悪影響があれば、疾病の疑いありと、アルカディアケミカルと関係が深い病院に紹介をされ治療と言う名の隠蔽作業が行われる。
更に遺伝子が特異で、しかも身寄りがなければ…アルカディア・ケミカルが『保護』し『経過観察』を行う。
警察機構は上層階の治安維持にのみ注力し、下層で行われていることに関しては管轄外であった。
「おいそこのヒリョガリ、なぁにこっちみんてんだ?」
故に、弱者と見るや襲ってくる輩も決して少なくない。
ロミオに絡んできたのは、いかにもゴロツキといった若い二人組の男。
だがロミオは無視して階段を登りきる。
下層市場の狭い通路を何度か曲がり、追いかけてきた男たちを引き離した。
ロミオが家に戻ると、肉の焼ける良い香りが玄関まで漂っていた。
そして、ぱたぱたと足音がして、靴を抜いでいたロミオをエプロン姿のヒロネが迎えた。
「旦那はん、おかえりなさいませ。ご飯にします?お風呂にします?それともぉ」
頬を紅潮させて目を潤ませたヒロネに鞄を渡してロミオはバスルームに向かった。
「先に風呂、次飯。あと八時過ぎにジョウが来るから相手よろしく。」
脱衣場のドアが閉まり、程なくして水音が聞こえる。
「んも~、旦那はん、ほんま忙しないわぁ」
ヒロネは鞄をロミオの書斎に置きに行くとすぐさまキッチンに戻った。
風呂から出てきたロミオがすぐに食事がとれるように配膳を始める。
特売品の牛挽肉のみを使ったハンバーグを皿に盛り付け、すりおろし大根と刻んだ紫蘇を上にのせる。
肉汁で作った醤油ベースのソースを掛け、皿の端には人参のグラッセと茹でたブロッコリーを多めに。
副菜の食物繊維強化豆腐の白和えには栄養価が強化された工場産人参と法蓮草。
塩分控えめだが、豆腐も野菜も水分がしっかり取れて味はぼやけていない。
そしてヒロネが今朝下層市場で見つけた、O2産菜の花のおひたし。
工場野菜とは違い、露天で育てられる貴重な品だ。
苦味があるため、好みは分かれるがヒロネが好きな食材の一つである。
スープはセロリと玉ねぎのコンソメだ。
カトラリーも用意したところでロミオが風呂から上がってきた。
「美味そうだな。んじゃ早速」
「待って下さいだんなはん。せめてもうちょい髪の毛拭いてからにして下さい!」
雑に水を拭き取っただけのロミオの頭をヒロネは優しく、新しいタオルで拭き取った。
「ドライヤーは後でしますからね…はい、どうぞ。」
軽くブラッシングして、前髪を後ろになでつける。
「ありがと、んじゃ。いただきます。」
手を合わせたロミオを尻目に、ヒロネは茶碗にご飯をよそる。
「はい、どうぞ。」
「…そういえば、ガキは?」
「お嬢様は先に召し上がりましたよ。今はお部屋でお休みです。」
「そうか。」
「ハンバーグはちょっと胃にくるかと思いまして、お粥と白和え、だし巻きを用意しました。喜んでくれはりましたよ。」
「どれくらい食った?」
「お粥は生米にして三十グラム、白和えは五分の一丁程度。だし巻きは、三個で作って四分の一程度です。…食費としても計算済みですから、ご心配なく。」
口に出してみて、ヒロネはとんだ人間に仕えているものだと、ため息を吐いた。
「さすが俺のメイド!その調子できっちり記録しておけよ。後で会社に請求するからな。」
そして自分の予想通りの答えが主の口から出るとヒロネは出そうになったため息をこらえた。
「承知してますー。あ、キリシマはんのご飯、今日も用意してもええです?」
「そうだなぁ、ガキの食費にやつの分も含めておくならいいぞ。」
「はーい。それとなく加算しときますー。」
絞れ取れる機会は逃さない金の亡者。
ジョウ本人に請求しないだけ、まだマシだとヒロネは諦めることにした。
「血圧オッケー、うん脈も昨日よりだいぶいいね。食事も三食食べたのかな?」
「はい。主食は全部七分粥で、朝は梅粥、昼は鰹節で、夜も梅粥でしたけどそれに白和えとだし巻きを食べはりましたよ。」
ヒロネはジュリの一日の食事量と飲水量をジョウに伝えた。
ロミオからジュリがどれだけ食事をしたか金額を控えるように言われたために記録していたのだが、ジョウにとってはジュリの食欲、強いて言うならば胃腸の調子を見る大切なバロメータとなった。
「固形蛋白を食べて平気なら、明日からは普通の主食でいいかもしれないな。油の多いものと刺激物は控えて、普通の食事でいいかな?」
ジョウの問いかけにジュリは小さく頷いた。
「なにか食べたいものあります?後で本持ってきますさかい、選んでくださいね!」
「…」
少女は枕元の紙と鉛筆を握ると、『ありがとう』と文字を書きヒロネに感謝を伝えた。
「どういたしまして。…キリシマはん、お嬢様の喉、どうにかなりません?」
「炎症や、疾病ではなさそうなんだけどね。呼吸はできているし、精密検査をしないとなんとも…。」
「そうですか。」
食欲があるとはいっても、ジュリの体重は年齢平均よりも下回っており、長い間拘束されていたせいか、体力も筋力もかなり低下している。
ジョウの見立てでは、まず一週間、十分な栄養と休養。
その後に家の周辺を歩くなどのトレーニングをしていき、徐々に身体機能を回復させる必要があるという。
アルカディア・ケミカルとしてはただの『実験体』をそこまで厚遇する理由はないのだが。
ジュリの診察のあと、ジョウはロミオが待つリビングに戻った。
「例の競合先だけど、社の方針で吸収合併に向けて動くことが決まったよ。」
「…へぇ、それはまた、金の掛かりそうなこって。」
「ま、潰すよりは吸収する方が後腐れないしね。株式の売買と完全な掌握まで一ヶ月かかるそうだ。で、ジュリちゃんだけど少なくともそれまでここに匿ってほしいそうだ。」
「一ヶ月か。そんなに長い間なら、食費に加えて部屋代ももらわにゃあな。今、ヒロネの部屋使ってっし。」
「あの金額から更に上乗せするつもりかよ。…そういえば、今ヒロネちゃんてどこで寝ているんだ?はっ!まさかロミオ、お前ヒロネちゃんと一緒に寝ているんじゃ…!」
下世話な想像をし始めたジョウを一睨みし、ロミオはため息を吐いた。
「で、一応聞いておくが、ガキの『
ロミオの質問に、ジョウが笑みを浮かべる。
「ああ、素晴らしいよ本当に。血液中なら十二時間程度は生存することも分かったし今は遺伝子解析している最中さ。ただ残念なことに培養手段はこれから探らなきゃだけどね。」
「感染力が高いわりに、すぐ死ぬんだな。」
「そういうこと。皮膚接触で感染するけど、『宿主』以外の体内では死滅する…今の所、生存できるのがジュリちゃんの体内だからね。定期的に採血しないと行けないのが心苦しいよ。」
「よく言うよ。あれだけ、ガキどもで実験しておきながら。」
「実験とは人聞きの悪い。まあ、科学の発展には多少の犠牲は仕方ないよ。でも、ジュリちゃんみたいな可愛い女の子が苦しむ姿は見たくないけどね。」
利己的なやつ、とロミオは自分を棚に上げてジョウを揶揄した。
「一ヶ月間、ちょっと長いけどジュリちゃんを頼むよ。彼女の存在が、会社の、いやこの世界の医療を根本から変えるかもしれないんだからね。」
「んな大げさな。」
「本当のことさ。薬、手術、再生医療最近ではナノマシン治療もようやく定着してきたんだ。それに加えて、ジュリちゃんのウイルスのように、生物を使った新しい医療が生まれるかもしれないんだ。興奮せずには…」
ブツブツと呪文のように医療用語を唱え始めたジョウに、ロミオは眉をひそめた。
「妄想は
「!それはありがたい。会議で無駄にエネルギーを使って腹ペコなんだ。今日は…ハンバーグ?」
「そうだ。ありがたく食せよ」。
ロミオは皿に盛り付けた。
そしてジョウに差し出したのだが。
「ロミオ君、僕の気のせいかもしれないが、人参とブロッコリーしか見えないんですけど。」
「安心しろ。ソースには肉汁が入っている。」
「うう、食べられないなら食べられないで良いけど期待させておいてこの仕打はひどいよ…」
「…分かった分かった。ほら、一個入れてやるから。」
ロミオはフライパンの中から一番小さなハンバーグを取り出し、ジョウの皿に載せた。
「おお!ありがとう。白米は自分でつけるよ~」
「一五〇グラムまでだぞ。」
「相変わらず細かいなぁ。」
ジョウは、なれた様子で食器棚から来客用の茶碗を取り出し、ご飯を盛り付けた。
「いただきます。…うん!やっぱりヒロネちゃんの料理は最高だよ~」
「それ食ったらとっとと帰れよ。」
「分かってるって。…ジュリちゃんの問診だけど次は明後日、ハヤマさんにお願いしたよ。」
「げっ、またあいつか。」
「苦手なのかい?まあ確かに、邪心の塊の君にとって、純真無垢な彼女はやりにくい相手だとは思うけど。」
「邪心の塊とは失敬な。誰構わず女に鼻の下伸ばしているお前よりは遥かにマシだ。」
「んぐんぐ…しかし、お前の周りは可愛い子ばっかあつまるよな。ヒロネちゃんにハヤマさん、それにジュリちゃんも。成長したらきっと美人になるぞ。」
「それは、良かったな。」
ロミオにとって、ジュリは金塊と交換されるただのモノである。
ジョウのように、女性の外見や挙動に感情を左右されることはない。
「…本当にお前は、金以外には全く興味ないんだな。」
「女なんてカネがかかるだけじゃないか。ま、ヒロネは別だがな。」
「私が、なんです?」
ジュリの寝かしつけが終わったのか、ヒロネがリビングに戻ってきた。
「ヒロネちゃん、今日のご飯もとっても美味しいよ!」
「まあ、キリシマはんいつも褒めてもろてありがとうございます。で、私がなんですって?」
「ヒロネはカネが掛からなくて良いって話だ。」
「そんなストレートに…ひどい言い方だよねヒロネちゃん。」
「まあ、旦那はんはそういうお人やし。私も分かってて、一緒にいますさかい。」
苦笑するヒロネだが、その表情は嬉しそうだ。
「(…結局両思いかよ!)」
金の亡者で女に興味がないと
常識はあるが良識と倫理感が壊滅状態で、自分勝手で口も悪い。
唯一褒められるところは食事に関する所作が綺麗なところくらいなのに、何故!?
と長年付き合っているジョウでも、ロミオとヒロネの関係は不明であった。
「キリシマはん、食後は紅茶です?珈琲です?」
「あ、珈琲でお願いします。」
「はい。旦那はんは?」
「白湯」
「了解です。」
ジョウが帰り、ロミオはようやく日課に勤しむことができた。
書斎に閉じこもり、金庫を明け、彼の恋人とも言える、輝くそれを優しく取り出す。
「はぁ…一日の疲れも吹っ飛ぶぜ……一ヶ月したらお前達の仲間が増えるぞ…」
ぐふぐふと、不快極まりない笑い声が今夜も部屋に響いた。
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