第4話 食費を稼げ!副業へ行ってきます!
中層エリアは全部で五つの階層に分かれている。
第一階は倉庫街、第二階から第四階は工場と都市農場であり、多くの労働者が勤めている。
残る第五階は居住環境に割り当てられており、中心部が集合住宅が密集する地区で工場や都市農場で働く半肉体労働者に割り当てられている。
そして人工地盤の外側に近付けば近付くほど住居のグレードは上がり、『空』が見える最外縁部には一軒家が立ち並んでいる。
僅かな庭と自由な上空が
それでも、上層エリアの高級住宅街と比べれば狭く、住宅自体のグレードも雲泥の差である。
ロミオが住んでいるのはこの中層エリア第五層の外縁部である。
上層エリア企業に務める家族向けの3LDKのガレージ庭付き一軒家だ。
ロミオの会社とその報酬からすれば、上層エリアの高級高層住居に住むことは可能なのだが、彼は敢えて住居のグレードを落として中層エリアに留まった。
その理由は彼の『副業』に関わっており、今も彼はその『副業』の為に下層エリアへ向かっていた。
目的地の下層エリア第三階へは
更に第四階から
利用は無料であるためロミオは好んで使っていた。
上層エリアへ行くには『
複数の階層を貫く巨大な輸送塔の周囲を螺旋を画いて電車は下降する。
中央輸送塔はそれ自体に運搬装置はついていない、いわば都市の支柱とされている。
輸送塔の周りを、まるで蔦のように線路や道路が巻き付いており、人やモノを各階層に運んでいるのだ。
中層エリア第一階の倉庫街はその名の通り倉庫が立ち並ぶエリアで、都市で製造された薬品やその他の商品を保管するエリアである。
第二階から第四階の工場階層に比べれば日中は賑も少なく、訪れる者は倉庫管理者くらいなのだが、夜に近付くにつれて下降輸送電車の本数は多くなり、ロミオが乗っている車両もそれなりに混んでいる。
理由は明白で、また暗黙の了解である。
倉庫街の幾つかの場所では下層エリアへの下降リフトを備えており、物流拠点のある下層エリアへ物資を運搬しているのだが殆どリフトは物だけで無く人も運んでいる。
つまり下層エリアへの交通手段として下降リフトは使われているのだ。
『南倉庫街第三リフト前~南倉庫街第三リフト前~』
人の流れに乗ってロミオは電車を降りる。
寒々とした倉庫街において、下降リフト近辺のみ明るい。
下層エリアへの便を待つ人々を対象にした屋台がいくつか並んでおり小腹の空く時間というのも相まってそれなりに賑わいを見せている。
『外都市直入!天然米焼お握り!』『外海産烏賊醤油焼!』といった暖簾や売り子の掛け声を無視してロミオはリフト乗り場に向かう。
「間もなくリフトが到着します~間もなくリフトが到着します~」
聞こえてきたアナウンスに自然と足が早くなる。
屋台街を抜けて資材置き場を少し進めば大型クレーンが連なるリフト昇降所。
リフトは垂直下降型で十メートル四方。
その周囲には金属ブイが立ち並び、奈落に落ちないための柵となっている。
ロミオが最後尾に並ぶと、丁度シャッターが開き出した。
鳴り響く耳障りなアラーム音と体を震わせるほどの振動とともに現れたのはおおよそ旅客を目的としていない運搬装置。
元は大型重機や工業機械を下層エリアから中層エリアへと運搬するために作られたものだ。
本来の目的を終えた後は、物資や人の運搬に使用されている。
ロミオの前には数十人か並んでいるが、余裕で乗り込めるだけの大きさである。
係員に運賃を渡したところで大きな振動一つ。
ガチャンと金属が噛み合う音が幾つか。
「リフトが参りました~お乗りの方は順番にお進みください~」
乗車を促すアナウンスにしたがってロミオはリフトに乗り込んだ。
並んでいた全員が乗り込んだところで笛の音が一つ。
「間もなく発射します!リフトの縁には近づかないでください!」
耳障りなアラームと、金属が弾かれたような音と、大きな振動。
そしてリフトはゆっくりと下降し始めた。
旅客を目的としていないだけあって、振動も轟音も激しいがそれに文句を言うものは誰も居ない。
それよりも、リフトの先の世界に思いを馳せていた。
リフトの先は下層第四階。
ドーシュで生産された製品を外の都市に運ぶ物流センターの役割を担っているのだが、その一角に街が形成されている。
外の世界から運ばれてくる荷物の中には『注文外』の物品もあり、それらを売る闇市がまず始まった。
その規模は爆発的に拡大し、数年後にはまるで計画的に作られた市場のようにある程度整然とした、店舗も入り交じる『下層市場』が出来上がったのだ。
そして下層第四階の中央には第三階へと降りる階段状の公園施設、通称『
大階段の先には、また街。
元はドライバー達の宿泊施設が立ち並ぶ地区となっていたのだが、彼らを相手に夜の蝶たちが集まり、彼女たちの住まいや店が非合法に建設され…とあっという間に歓楽街が出来上がった。
今では男性だけでなく、女性を対象としたホストクラブも多く、ドーシュの夜を彩る重要な場所となっている。
そしてロミオの目的地もこの歓楽街・シンマチ地区であった。
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