第12話 異変

 何度も繰り返し叩かれ、赤く焼けたはがねさながらの輝きを放ち出した黒水晶。

 大きさこそ桁外れだが、たくみの仕事はつねと変わらない。かくあれと強く念じつつ一心に槌を振ること。貴石きせきを変質させる魔力は、言いえれば心の力。魔法石は、それを作り出した者の内心の反映に他ならない。

 何度目かの槌を振り下ろしかけた時、ヴェストリは異変を感じて手を止めた。

 魔法陣の中のディニエルが短くうめいて倒れた。その影が大きく伸び上がって黒水晶に触れた。

 唐突に、そこから凄まじい炎が吹き上がった。

 ヴェストリもダノンもディニエルも熱風に吹き飛ばされた。

 祭壇の周囲は騒然となった。禍々まがまがしい黒炎として姿を現したのは、黒水晶の魔力の胎動たいどうに何かを察したのだろう、あの契約の悪魔だった。

『その時が来たようだ。ここでもまたすべてを燃やし尽くそう。我が現身うつしみたる黒き炎で』

 怒声を発したダノンが大槌で立ち向かった。

 だが黒い炎にあえなく焼き払われた。

 孫を傷つけられた怒りにヴェストリも突進をかけた。

 襲い来る炎を転がって避け、二度、三度と黒水晶を叩いた。

 しかし――。

『もう遅い。何もかも焦土しょうどちりと化せ』

 目の前で黒い光がはじけた。

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