京都グルメ探訪殺人事件・①

近衛源二郎

第1話 ドタバタトリオがまた

西暦794年、都に遷都されてから千年におよぶ王城の地となり、江戸幕府開府以後も、それなりに繁栄してきた京都の町並み。

数々の名店が出来るのも、また当然。

京都の人達は、よく応仁の乱より昔に創業したお店を老舗と呼び、それより新しいと老舗と認めないような感じがある。

もちろん、庶民派グルメも多数あるので、心配はいりません。

京都府警察捜査1課課長本間警部のテーブルの電話がけたたましく鳴った。

『ハイ・・・

 捜査1課木田・・・

 人が死んでるみたい・・・

 場所は、北区紫野・・・

 今宮神社の駐車場に駐車し

 てある自動車の中・・・

 練炭が見える・・・

 なるほど、とりあえず行き

 ますわ。』

木田警部補が電話を置くのを見計らったように走り出す真鍋勘太郎・・・

本間警部と木田警部補は、やれやれ、また魔界になるのかと、あきれ顔で、駐車場に向かった。

駐車場では、いつもの勘太郎の覆面パトカーがアイドリング運転中。

日産SR26DETT型直列6気筒DOHC方式ツインタービンエンジンの重い排気音が響いている。

『さぁ、警部・・

 何本いけますか。』

勘太郎の唐突な質問に、本間と木田は、吹き出した。

『今回は魔界やのうて、グル

 メやな・・・

 腹は膨れへんぞ・・・。』

本間が笑いながら言う。

『萌にも、買って帰らんと後

 が怖いです。』

『お前もかい・・・

 お互い、尻に敷かれとる

 なぁ。』

木田は爆笑している。

今宮神社は、まがりなりにも京都市内の観光地。

GTRだからといって速く走れるわけではない。

今宮神社の参道に入ってすぐのところに鑑識の資材車が止まっている。

その横に、覆面パトカーを停めて、歩いて奥に入ると鑑識作業員が、ライトバンだろうか。ステーションワゴン車かもしれないが、ドアの鍵を開けようと奮闘していた。

新人なのか、どうも手際が悪い。

勘太郎が、近くにいた佐武巡査長に到着を告げた。

『おうサブちゃん・・・

 久し振りやん・・・

 お前が来てくれたら、鬼に

 うまい棒・・・

 自殺か殺しかわかったか。』

鑑識課主任作業員佐武巡査長は、勘太郎と同期の仲間であるが、京都府警察伝説の鑑識作業員、佐武藤四郎の長男である。

『本間警部・・・

 木田警部補・・・

 ご紹介します。

 鑑識課作業主任の佐武巡査

 長です。

 僕と同期です。』

本間も木田も、存在を知っていた。

『おう・・・

 君が、あの鬼の藤四郎さん

 の息子か・・・

 よろしくなぁ・・・。』

佐武巡査長、さすがに緊張してしまった。

目の前に、京都府警察捜査1課課長がいる。

まだ、鑑識作業を始めたばかりなのに。

『警部・・

 報告します・・・

 殺人の可能性が高いです。

 首筋に、ナイフか何かの刺

 し傷が見えますので。

 荷台に練炭が置いてありま

 すが、着火した形跡があり

 ませんので、殺しやと思い

 ます。』

一瞬にして、本間と木田と勘太郎の表情が凍りついた。

新人君は、まだもたもたしていた。

『代わろう・・・

 教えたるわ・・・』

と佐武が道具を受け取った直後、

『こうして、L字をここにこ

 うして差し込んで・・・

 こう捻る。』

と、ガチャっと音がして、ドアが開いてしまった。

『あの技は、門外不出にさせ

 なあかんな。

 流石は、藤四郎さんの息子

 やけど。

 あれほどのスゴ技を、万が一

 にも車上荒らしに見られたら

 と思うと、ゾッとする。』

佐武が道具を受け取ってから5秒とかかっていなかった。

そんな早業で車上荒らしをされたら、とてもじゃないが防ぎようがない。

『警部・・・

 どっちにしましょう・・

 かざり屋さんか一文字屋和

 助さん。』

今宮神社参道にあるあぶり餅のお店。

通路を挟んで向かい合っている。

今宮神社の建立と同時の創業ということなので、正暦5年の創業。

正暦5年とは、西暦994年平安時代中期、つまりこの両店、創業千年を越える、とんでもない老舗である。

あぶり餅とは、親指ぐらいの大きさの餅にきな粉をまぶして炭火であぶり、白味噌のタレを塗って串にさした和菓子である。

平安時代から、今宮神社の名物として親しまれている。

餅をさしている串に、今宮神社に納められた奉納の串を利用していることから、食べるとお参りしたと同じくらいのご利益があると云われている。

それほど大きくないので、10本程度で、お腹は膨れない。

『すみません・・・

 お土産50本お願いし

 ます。

 領収書は、祇園乙女座で。』

勘太郎の発注に、女性店主が。

『あら・・・

 乙女座さん言うたら、あの

 美人の女将さんのいてはる

 クラブはんですやろ。』

『ハイ・・・

 女房をご存知ですか・・・

 女将の真鍋萌は、私の妻で

 すけど。』

『あら・・・

 女将さん、いつも旦那さん

 のこと自慢してはりますさ

 かいに。

 どんなイケメンさんかと

 思てました・・・

 私がもう少し若かっ

 たら・・・。』

と、冗談を言ってケタケタ笑っている。

本間と木田も、お土産をオーダーしている。

本間は、捜査1課の事務職員にまで。

『休憩時間に、お茶菓子にな

 るやろう。』

よく気のつく上司である。

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