第4話

清水さんとの約束の日、俺は探索者ギルドの前にいた。

あれから一度別れて、後日改めて会うことになったのだ。


「清水さんはまだみたいだな」


時間に遅れないようにと、予定よりも早めに探索者ギルドの中へと入る。

今日も人は少ないようだった。

どうやら、前回来た時だけ少ないのではなく、やはり冒険者ギルドと比べても認知度は低いらしい。


「お、早いな」


椅子に座って待っていると、時間通りに清水さんが来た。

俺は椅子から立って、清水さんの方へと向かう。


「清水さん! よろしくお願いします」


「清水さんって......それに敬語もなしだ」


「なら師匠!」


名前を呼ぶわけにもいかないし、師匠で良いだろう。

そう思って、そう呼ぶことにした。


「うーん。まぁ、さんよりはましだろ。早速行くぞ」


「どこに行くんですか?」


「ま、敬語は追い追いだな。まずは装備屋だな。今の透の格好じゃダンジョンは無理だ」


癖で敬語になってしまうのを見て、師匠は半笑いしている。

今の服装は、ジーパンにパーカーと普段の格好をしていた。


話ながら歩いていると、目的地である装備屋に着いた。

師匠が装備屋に入ったのを見て、俺も続いて中へと入る。


「いろんな装備があるんですね」


「まぁ、この一年でいろいろと変わったからな。装備屋もそれに合わせて作ってるらしい」


装備屋には、ダンジョンで必須となる防具が置かれていた。

防具にはたくさんの種類があり、色や好みでも選べるようになっている。

たった一年しか経っていないのに、これだけある所をみると需要はあるらしい。


「いらっしゃい」


師匠と話をしていると、奥から店主が出て来た。

店主は、40代くらいのいかにも装備を売っていそうなおじさんだ。


「今日は何を買いに来たんだ?」


「透、こいつの装備を整えにな」


師匠は、俺の頭に手乗せる。

その手で髪の毛をクシャクシャにしながらそう言った。


「ってことは冒険者じゃなくて探索者ってことか」


「あぁ、貴重な人材だ。だから少しは安くしてくれよ」


師匠と装備屋のおじさんの会話を聞いていると、二人は知り合いのようだった。

おじさんは、やれやれと言いながら店の奥に行った。


「ところで透、探索者にはどんな装備が必要だと思う?」


「うーん、防御力の高い装備とか? スキルが無い分装備を固めないとダンジョンは危険だと思います」


冒険者であれば、強いモンスターの素材を使った装備が必要となる。

同じダンジョンに潜るのだから、探索者も同じだと思った。


「そりゃ違いねぇな。だが不正解だな。探索者には動きやすい格好が必要だ。重くて動きを制限する装備なんかは意味がねぇ」


「何でですか?」


「そりゃ、探索者は冒険者とは違うからな。戦闘用の装備は必要ない」


師匠の話を聞くと、冒険者と探索者で求められるものが違うらしい。

冒険者は、強いモンスターを倒すために強い装備が必要となる。

しかし、探索者はモンスターを倒す必要はないので、強い装備よりも動きやすさ重視らしい。


「特に初心者なんかは間違えるんだがな。それで死ぬ奴も少なくない」


そう言うと師匠は、店内を見始めた。

俺は、自由に装備屋に置いてあるものを見ることにする。


装備屋には、強い装備から弱い装備までたくさんあった。

ゴブリンが持っていたボロ布を使った装備や、オークの皮を使ったものまである。

ここにあるものは、初めて見るものばかりで見ていて楽しかった。


「高っ」


好奇心から、値札を見て驚愕した。

どれも学生である俺に払えるような物はなく、社会人だってきついくらいの金額だ。


「当たり前だ」


声がした方をみると、先ほどの店主のおじさんがいる。


「あまり流通していない素材は金額が高い。まぁ、これくらい冒険者なら稼げるだろう。探索者にはきついかもしれんな」


おじさんは続けてそう言った。


「そうなんですか......」


「だから初心者には、安くてモンスター素材に比べると強度は劣るが、カーボン製とかを勧めとる」


ほれ、と言いつつカーボンを使った靴を見せて来た。

そして、その靴を受け取る。


「軽い、カーボンってこんなに軽いんですね」


「軽いだけじゃなくて、クッションもしっかりしとるし頑丈でもある」


カーボン製の靴は、二足合わせてもとても軽かった。

値札を見ても、これなら俺でも買える。

安いし、店主のおすすめなら良い物だろうし、靴はこれにしよう。


「靴はこれにします!」


「うむうむ」


店主は満足したように返事をして、また奥へと行った。

あの見た目でも、初心者である俺に気を配ってくれているらしい。


「おーい透、この靴なんてどうだ? っておい、同じの持ってるかよ」


師匠が近付いて来て、先程紹介されたばかりの靴を勧めて来た。

どうやら、初心者を騙しているわけではなく、本当に良い物らしい。


「靴があるなら、次は手袋なんかどうだ?」


「手袋って何に使うんです?」


「馬鹿か、探索者に手袋は必須品だ! 理由は後で教えてやる」


どうやら、探索者に手袋は必要らしい。

こうして師匠と装備屋にいると、知らなかった知識が増えていくようで楽しかった。


「何笑ったんだ透。手袋は適当に選んでおくから、次は服装と鞄だな。先に見ておけ」


師匠は手袋コーナーでうーん、これかな、などと声を出しながら悩み始めた。

俺は言われた通りに、服と鞄を見に行くことにする。


防具ではなく服にもいろいろな種類のものがあった。

一見、布切れのように見えるのにとんでもなく高い物から、普段着のような物まである。


初心者におすすめ! と書かれているコーナーを見つけた。

近付いて見ると、吸水性と速乾性に定評のお手頃価格商品と言うものがあった。

見た目はその辺に売っていそうな普通の服であったけど、装備屋にあるってことは何か違うんだろうか。


うーん、と悩んでいるとある項目を見つけた。

特殊な配合に成功したカーボンを使っています、と。

ここでもカーボンかい、と思いながら商品を見る。


「おー、服はどんな感じた?」


悩んでいると、手袋を持った師匠が現れた。

どうやら師匠の方は、良い手袋が見つかったらしい。

それは、見るからに安物でないのな分かる品だった。


「今、これを見てました」


「ふーん、中々良いじゃねぇか。何より軽いし頑丈そうだしな。探索者なら軽装重視だぞ。後、これ手袋な」


「ありがとうございます」


師匠が渡して来た手袋は、手にぴったりとハマるタイプのものだった。

これなら手袋をしたままでも、物を掴んだらしやすいだろう。

ダンジョンで潜る際にも、邪魔にはならないと思う。


「そこそこ高い物だが、今回はあたしが出してやるから気にするな」


どうやら装備の資金は、師匠が出してくれるらしい。


「よし、ある程度は揃ったな」


「はい!」


師匠と買い物をしたおかげで、ある程度の装備を揃えることが出来た。

服は動きやすく吸水性と速乾に優れている物、手袋は師匠が選んだ物、靴は店主のおすすめ。

どれも防御力こそないが、軽装重視なのでその分動きやすくなっている。


「こうして見ると、全体的に黒多いですね」


「そりゃ最初の内は金もないから好きなの選べないしな。初心者は地味な格好になりやすい」


俺の装備は全体的に黒が多めになっていた。

装備屋には、派手な装備も多かったけれど、資金面に余裕のない俺には無理だ。

今回だって師匠が支払ってくれなければ、必要最低の装備だって揃わなかっただろう。


「後は鞄が必要だな」


「どんな物が良いとかあるんですか?」


最後に鞄を選ぶことにする。

どれが良いのかも分からないので、師匠に聞いた。


「そうだな、あまり大きな物は動きを制限するから必要ないな。おすすめはウエストポーチだな」


「ウエストポーチですか」


ウエストポーチか。

あれなら小さく、動きを制限することはないだろう。


「あぁ、小さいが出し入れしやすいからな」


店に売っていた探索者用のウエストポーチを買うことにした。

しっかりと固定されていて、動く際にも邪魔にならず、小さいながらも多くの物を入れることが出来る。


「装備は整ったな。次は魔道具屋に行くぞ!」


師匠はそう言うと、店の外へと歩き出した。

次に向かうのは、聞いたことのない魔道具屋という店らしい。

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