第3話
「ここかな」
俺は、冒険者ギルドで聞いた探索者ギルドとやらに来ていた。
左には冒険者ギルドがあり、多くの人たちが出入りしている。
しかし、右の探索者ギルドには、冒険者ギルドほどの人は出入りしていなかった。
早速探索者ギルドに入るが、中はやはり賑わってはいなかった。
受付に女性が一人と、数人があるくらいだった。
中を様子を見ただけでは、本当にここにギルドがあるのか不安になるレベルである。
とりあえず受付に行く。
「冒険者ギルドは隣の建物ですよ〜」
受付にいる女性がやる気のなさそうな声で、そう言った。
その態度を見るとどうやら、冒険者ギルドと間違えて来る人が少なくないらしい。
「冒険者ギルドで言われて、探索者ギルドに来ました」
「おー! 珍しいね君。ほい、とりあえず必要事項は書いてねー」
先程まで怠そうにしていた女性は、シャキっと背筋を伸ばした。
受け取った書類を見ると、内容は冒険者ギルドのものと大して変わらないらしい。
冒険者ギルドで書いた内容と同じことを書いて、女性に渡す。
「【危機察知】ねぇ。初めて聞くスキルだけど、確かに冒険者ってよりは探索者向きかもねー」
受付の女性は、俺のスキルを見てそう言った。
多くの探索者を見てきたであろう受付の人が言うのだから、【危機察知】は探索者向きなのかもしれない。
「探索者ギルドって言うのは、なんですか?」
「あ、知らなかったね。ごめんごめん。まぁ、うちも知名度低いからこればっかりは仕方ないねー」
女性は腕を頭に付けながら、あちゃーと言っている。
俺が知らなかったくらいだし、他の一般人も知らないだろう。
剣と魔法の世界とダンジョンと言えば、冒険者一択だしな。
「探索者ギルドってのはね、簡単に言えばダンジョンの探索を扱っているギルドなの。君、透くんもダンジョンの地図やモンスター情報なんかは見たことあるでしょ?」
「は、はい! もちろんあります!」
冒険者を夢見ていたから、初心者向きのダンジョンやモンスター情報はもちろん調べた。
「その情報を集めるのが、探索者の仕事ってわなのよー。誰も訪れたことのない未踏破のダンジョンを冒険するのが探索者の仕事よ」
「そうなんですか」
話を聞き付けていると、探索者について色々と分かった。
どうやら探索者と言うのは、未踏破のダンジョンに潜って地図やモンスター、罠情報などを調べるのが仕事らしい。
その情報を元に冒険者がダンジョン攻略を行うらしく、とても重要な仕事だと言っていた。
ダンジョンは日々新しいものが誕生したり、攻略されると消えたりしているらしい。
そのため、最新のダンジョンの情報をいち早く集めることが必要になる。
そこで、探索者と言う職業が必要になって探索者ギルドも作られたらしい。
「あ、だけど冒険者にも変わり者がいて、未踏破ダンジョンに潜っちゃう人もいるけどね」
「そんな人もいるんですか」
強力なスキルを手に入れた冒険者は、羨ましい。
スキル一つで、自分の可能性すら無限大に広がるのだ。
「まぁ、冒険者ギルドが物品を扱うとすれば、うちは情報メインの商売ってことになるわねー」
「あ、あの。俺でも探索者になれますか? 冒険者として必要なスキルもない俺でも、探索者にならなれるでしょうか......」
「うーん、求められる能力が違うからねー。探索者は、強ければいいってわけじゃないしね。正確な情報を生きて持ち帰れる能力が必要になるのよ。まぁ、透くん次第ね。決して楽な仕事ではないわよ」
「は、はい!」
俺は、探索者になってみようと思う。
冒険者としてダンジョンを攻略する力は、俺にはない。
だけど、探索者としてならダンジョンを攻略出来る可能性が見えたのだ。
それなら、ここで引くことはありえない。
元々、剣と魔法の世界に憧れて冒険者になりたかったんだ。
冒険者と探索者、役割が違ってもダンジョンに潜るのは変わらない。
「透くんは探索者になるってことでいいのかな?」
「はい! お願いします」
「それなら、まずは探索者についての説明ねー。さっきのは外向けの説明だから、もう少し細かく言うわね」
探索者には、冒険者と同じくEからSランクと実績に合わせたランク付けがあるらしい。
ただ、冒険者と違うのは強さではなく、あくまで実績で判断されるらしい。
同じ実力主義であるのに変わりはないが、スキルで判断されることはない。
また、探索者になると魔力測定計と言うのが与えられるらしい。
これは、ダンジョンに潜りながら魔力を測定することで、そのダンジョンの大まかなランクが分かると言うものだ。
この測定値と内部の様子などを見て、ダンジョンの等級が判断される仕組みになっている。
「これ、ものすごーく高いんだから無くしたり壊したりしたら、次からは自腹だからねー。死んだ場合も損になるから、死なないでね」
そう言われて、魔力測定計が渡された。
見た目は懐中時計のような円形に、デジタル表記されている文字がある。
これをダンジョンの中に持ち込んで、暫く時間が経つと測定出来るらしい。
「探索者の難しい所は、初心者だからEランクダンジョンに行けるって決まってないことなのよー。未踏破ダンジョンだから、どれだけの危険があるのか分からないの」
冒険者であれば、自分のランクに合ったダンジョンを選ぶことが出来る。
しかし、探索者は入るダンジョンがとれだけの難易度なのか分からない。
EとDが初心者レベル。
Cから上級ダンジョン。
BAは複雑な知識と高度な技術が必須になるらしい。
「Sランクダンジョンもあるんだけど、これは滅多にないから説明はいらないわねー。発生しても初心者の透くんに声がかかることもないだろうしね」
Sランクか、いつかそんなダンジョンに行けるようになりたい。
探索者として活動する以上は、狙うのはトップだけだ。
「あんた、面白いな」
ふと、後ろから声がかけられた。
後ろを見ると、赤髪の長身美人が立っている。
「あ、清水さん。帰ったんですね」
「あぁ、今さっきな。」
どうやら名前は清水と言うらしい。
かなり美人な人だと見ていると、話しかけられた。
「お前、名前はなんだ?」
「萩野透って言います」
「探索者はお前みたいなガキが出来る仕事じゃないぞ。スキルはなんだ?」
そう言うと、受付の女性が持っていた紙を取り上げた。
受付の女性は、ごめーんと口パクで謝っている。
「ほう。こりゃあ、確かに冒険者にはなれねぇな。」
「あの、いきなりなんですか? スキルだって......」
馬鹿にされたような気がして、少しイラッとした。
発言途中で言葉を遮られた。
「あたしが面倒見てやるよ。探索者ってのは人気がなくてお前みたいに、適正スキルは中々いないんだ」
「清水さんなら安心ですねー。透さん、これは滅多にないチャンスですよ。探索者は初心者の内は、誰かに教えて貰わないと危険です」
どうやら、受付の女性も認めているほどの実力の持ち主らしい。
態度や言葉遣いは悪いが、経験者に教えて貰えるのは確かにチャンスだ。
それに、初めて聞いた探索者という職業は、独学よりも指導して貰う方が良いだろう。
ここで断るのは簡単かもしれない。
だが、目の前にあるチャンスを消し去るよりも、受け入れた方が賢いだろう。
「あの、お願いします!」
「おもしれぇ。そうこなくっちゃな」
俺に初めて師匠と言うものが出来た。
口が悪く赤い髪をした美人で、なおかつ実力者に教えて貰えるのは運が良い。
冒険者にならなくても、これからは探索者としてダンジョンに潜る。
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