【第20話:かばでぃとひくわ~】
僕がデザート化した、たこさんウインナーと格闘していると、徐々に周りが騒がしくなってきているのに気づいた。
「あ、もしかして……」
「そうね。そこのグループの子たちが、葵那のことに気づいたみたい」
貴宝院さんが今座っている位置だと、どこからも後ろ姿しか見えないはずなのだけど、予想以上にあっけなくバレてしまったようだ。
やはりオーラと言うか、その存在感が僕とは段違いだ。
……まぁ僕の存在感が皆無なのは置いておくとして……とりあえず、ただご飯を食べているだけでも話題になってしまう貴宝院さんのこの現状に、少し色々と考えてしまう。
たぶん、僕ならたとえ貴宝院さんの異能が使えたとしても、きっと一週間も耐えられないだろうな……。
そんな事を考えていると、申し訳なさそうに貴宝院さんが口を開いた。
「その……ごめんね。なかなか落ち着いてご飯食べれないよね」
僕はその消え入りそうな言葉を聞いた瞬間、
「……そんなこと無い……貴宝院さん、僕たちはもう友達になったんでしょ? だったら、だったら堂々としておけば良いんだよ! 友達にこれぐらいのこと甘えられなくてどうするんだよ!」
気づけば前のめりになって、そう捲し立てていた。
「あ……いや、あ、その……ぐぁっ!? い、痛たぃ……」
そして、その事に気付き、恥ずかしくなってもごもごと言っていると、突然背中に衝撃が走った。
「おぉ! とまっちゃん、よく言ったぜ!」
「た、正……は、犯人はおまえか……がくっ……」
絶対背中に赤いもみじマークが出来てるよ……。
でも、僕はひりひりする背中の痛みに耐えながらも、すぐさま同意してくれた正の言葉がちょっと嬉しかった。
「まぁ確かに本郷の言うように、兎丸にしては良いこと言うじゃない」
そして、言い方は置いておくとしても、小岩井も追従してくれた事に、二人と友達だった事に内心感謝の言葉を述べておく。
「あぁ、でも惜しいことしたな~。さっきの兎丸の姿、動画撮っておきたかったよ。もう今世紀中は兎丸のかっこいいセリフとか聞けないかもしれないしね」
「今世紀中って、それ、次のかっこいいセリフ言う時、僕まだ生きてるのか……?」
「あぁ、ごめんごめん。最初で最後のかっこいいセリフだったわね」
前言撤回しても良いだろうか……。
「あ、あの!」
小岩井と馬鹿な会話をしていると、突然、貴宝院さんが声をあげた。
「あの……神成くん、みんな、ほんとにありがとう……」
潤んだ瞳と微笑みが僕をとらえ、艶のある黒髪が風に揺られて、さらりと靡いた。
その時、僕の心臓が跳ねた気がした。
ちょうどタンクの影がずれ、顔をあげた貴宝院さんの笑顔を日が照らしたのだが、その姿は本当に「神が起こした奇跡」なのではないかと見惚れてしまうほどだった。
「ふっふっふ……ちょっと~、兎丸~、な~に見惚れてるのよ~」
「へっ? あっ、いや、そそ、そんな、みほろとなんて!?」
何が「みほろと」なのかわからないが、動転してとりあえず否定こそしたが、僕は胸のどきどきがおさまっていなかった。
しかし、それを貴宝院さんに否定されてしまった……。
「そ、それは無いんじゃないかな? 神成くんって、あたしにあんまり興味ないような感じだしね?」
そうだ……ちょっと僕に異能が効かないって縁があっただけで、こうやって小岩井みたいに、友達として接することが出来ているだけで、それだけでも奇跡みたいなものじゃないか……。
そう思うと、揺れていた気持ちも次第におさまり、僕の心は静かになっていた。
「ん? どうした~? 食べねぇのか?」
そこへ、ちょうど良いタイミングで正が話しかけてくれたおかげで、あとの会話は結構普通にすることができたと思う。
ただ……周りまで普通にというわけにはいかなかった。
こちらにきて貴宝院さんに話しかけたそうな、そんな視線を、男女問わず投げかけてくるのを感じるのだ。
そのため僕は、今日のテーマ「おこちゃま」のお弁当を周りにバレないように、必死に隠すように食べなければいけなかったが、それは置いておくとしても、多くの視線にさらされながらの食事というのは、なんとも落ち着かないものだった。
「ったく……うぜぇなぁ……」
それは正も同じだったようで、そう呟いて周りにじろりと視線を向ける。
すると、視線を向けられた奴は、顔面蒼白になって必死に目を逸らす。
だけど……それでも貴宝院さんへの興味が視線の恐怖を上回るのか、その場を離れるような気配はなかった。
なんだ視線の恐怖って……。
「もう、本郷はほんと野蛮なんだから。周りなんて気にしないで食べれば良いじゃない? ねぇ葵那~?」
「え? あ、うん! 心愛、ありがと!」
まぁ小岩井は口は悪いが、ほんとに根は良い奴だよな。
調子乗るの目に見えてるから、絶対に口に出さないけど。
「そうだよ。小岩井もたまには良い事いうじゃないか。せっかくのお昼ご飯なんだから、周りの事なんて気にしないで、楽しく食べれば良いよね」
「神成くんもありがと。そうだね。周りの言葉なんて気にしなくて良いよね!」
しかし……やはりひそひそと囁く言葉は、耳に勝手に入ってくるのが困り者だ。
「ねぇねぇ。あのお弁当……お子さまランチみたいじゃない?」
「うわぁ、男があんなお弁当食べるとか、ひくわ~」
気にしないように努力するけど、とりあえず泣いて良いだろうか……。
「でも、貴宝院もこんな注目浴びまくってたら、気が休まる暇もねぇよな?」
「ん~? でも、もうだいぶん慣れちゃったかな? はは……」
「まったくね~。葵那は人が良すぎるのよ。別に芸能人やってるわけじゃないんだから、迷惑なときはハッキリ周りに伝えなきゃダメよ?」
「そ、そうだね。でも、みんな悪気があってやってるわけじゃないだろうし、その……私にはアレがあるじゃない? だから、まぁ何とかなるかなぁって」
確かに、貴宝院さんには異能があるので、こんな状況でもなんとかなっているのは事実なのだろう。
でも、それだけに頼っていたら、どんどん周りはエスカレートしそうな気がして、なんだかちょっと危ない気がした。
「まぁ確かにアレはすげぇよな~。俺も何かこう熱い奴が欲しいぜ! こう見るだけで人を倒すようなのとか?」
「え? それ、も近い能力持ってるんじゃない?」
正、人混みの中を歩いていても、ちらっと見るだけで、海が割れるように道ができるしね。
「なにぃ!? 俺も実は持ってるのか!?」
「本郷もすぐに信じないの! っていうか、兎丸も一概に全否定しずらいボケはやめてよね」
「なんだよ~俺も貴宝院みたいなの欲しかったのによぉ」
こんなんでも成績が意外と優秀なんだから、正は本当によくわからない奴だ。
「ふふふ。みんな面白いね」
「いやぁ、貴宝院さんの例の
「ひぅっ!? うぅぅ……そ、それは……」
こんな感じで、いつしか楽しく会話も弾み、みんなお弁当を食べ終えた時だった。
「おぉぉおぉぉぉおま、おま、おまえりゃー!」
よくわからないカミカミマンが現れたのだった。
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