【第16話:カバディーとファーストフード】

 貴宝院さんと初めて一緒にお昼を食べた、その日の放課後。

 僕はなぜか正と小岩井に掴まり、帰り道に尋問を受けていた。


「んで、昼休みはどこに行ってたんだ~? ん~?」


 肩に手を回し、横から顔を覗き込んで話しかけてくるその姿は、きっと傍から見れば僕を恐喝しているように見えるだろう。

 事実、周りは可哀そうな視線をこちらに向けては、そっと目を逸らしている……。


「まぁまぁ、本郷。ここはお姉さんに任せなさーい」


 そう言うと、今度は小岩井がわざとらしく腕を組んで……、


「ねぇ? 兎丸ぅ~? 心愛にだけでも、どこ行っていたか教えて、く・れ・る?」


 と、しな垂れかかってきた。


「ちょ、ちょっとやめろって!?」


 さすがに、ここまで密着されると変な方向で意識してしまう。

 普段は全く意識しない相手だけど、見た目だけはかなり可愛いので、こういう事はしないで欲しい……。


「なによ~? せっかく色っぽく迫ってあげたのに、教えなさいよ~?」


 なぜ、こんな風に二人が揶揄ってくるのかと言うと、どうやら貴宝院さんと僕が、昼休みにご飯を食べていたのを誰かが偶然目撃していたようなのだ。

 その目撃したというのが、どうも他の学年の生徒らしく、今日はクラスで追及されるような事にまではならなかったが、明日を考えると胃が痛い。


 これは、非常にまずい状況だ。

 僕の学校生活的に、いや、もしかすると僕の命的に……。


 だから、こうやって二人が絡んで来てくれているおかげで、実は非常に助かっていたりするのだが、それでも絡まれて鬱陶しい事には変わりは無い。


「ぁぁあ~! もう!? どのみち二人には相談するつもりだったから、ちょっとこの後付き合って!」


「ふっふっふ。兎丸、私の色香に落ちたわね?」


「落ちてないからっ!?」


 そんなやりとりをしながら歩いていると、


「……バディカバディカバディカバディ……」


 例の言葉が後ろから近づいて来た……。


「カバディカバディ……そろそろ良いのかな? カバディカバディカバディ」


 そう。緊急事態という事で、貴宝院さんと話して、後ろからコッソリ……と呼んで良いかどうかはわからないけれど、能力を使ってバレないように、少し離れて着いて来てもらっていたのだ。


 でも、お店に入るまでは待って貰った方が良いので、ゆっくりと首を振って、


『お店に入るから、もう少し待ってて』


 こっそりフリック入力でメッセージを送っておいた。

 もちろん次の瞬間には、スマホが振動し、貴宝院さんから返信が来た事を知らせてくれた。何度もね……。


「ん? どうした? なんかあったか?」


 正が野生の勘で尋ねてくるが、適当に誤魔化し、その後、小岩井も誘って、みんなで近くのファーストフードの店に入った。


 店に入ると、みんなで摘まめるようにと一番大きいLLサイズのポテトを頼み、それぞれ飲み物を注文していく。


「じゃぁ僕はホットコーヒーのSサイズで」


「ん~、私はアイスティーMサイズを」


「俺はコーラのLで!」


「私もホットコーヒーのSサイズをお願いします」


 そして、何故かまだみんなに話もしていなければ、彼女がここにいる事にも誰も気付いていないのに、当たり前のように自分の分も注文する貴宝院さん……。


「あれ? いま……」


「い、良いから良いから! ここは僕の奢りで!?」


「いや、そうじゃなくて」


 何かおかしなものを感じ取った小岩井を、今日は僕の奢りだから先に行って席を取っておいてと、背中を押して追いやる。


「……で……貴宝院さん。ちゃんと順を追って皆に説明してから呼ぶから、もう少し待っててくれないかな?」


 振り返って貴宝院さんにそう言うのだが、何だかその表情は楽しそうだ。


「ふふふ。わかった。じゃぁ、先にいって座ってるからね」


「え? いや!? そうじゃなくて!」


 追いかけようとした僕だったけど、店員に会計を求められ、貴宝院さんを逃してしまう。

 そして遠ざかっていく「カバディ」の連呼……。


 自分の能力のことを話す事を決めたのが、何だか本当に待ち遠しいみたいだ。

 さっきも僕が『お店入るから、もう少し待ってて』ってメッセージを送ったら、その次の瞬間には五通ぐらいメッセージが届いていたし……。


 多すぎて全部見れ無かったので、僕は注文したものが用意されるまでの間に、未読のメッセージを確認しておこうとスマホを取り出す。


 前言撤回。一二通届いていた。


『わかったよ。でも、何だか二人にこの能力のこと話すって思ったら、ちょっとドキドキしてきちゃって。でも……二人なら大丈夫だよね?』


『そうそう。言い忘れたけど、小岩井心愛さんとは、今までも結構仲良く話してたんだよ。彼女はクラスメイトの女子の中でも唯一、分け隔てなく接してくれる感じだったから』


 一メッセージが予想以上に長いから!?

 どうやってあの一瞬で打ち込んだ!?


「お待たせしました~! 三七番でお待ちのお客様~?」


 結局、全部のメッセージを確認する時間は無かったようだ。

 僕はトレーに載せられた四つの・・・ドリンクと、僕一人では絶対に食べきれないだろう量のポテトを受け取り、店の奥へと向かう。


「絶対、座ってると思ったよ……」


 そして……正と小岩井と同じテーブル、小岩井の隣の椅子に座って待つ貴宝院さんの姿を見つける。


「カバディカバディカバ……もう良いかな?」


 いや、他のテーブルも空いてるのだから、隠れるなら他に座れと内心ツッコミをいれながら、僕はそのままトレーを持って正の隣に座る。


「意外と早かったな!」


「ソウダネ……まぁ、じゃぁ、とりあえずドリンク渡していくよ」


 正のその言葉にもうどうにでもなれと思いつつ、そう言ってドリンクを配っていく。


「コーラは正で」


「おぅ! サンキューな!」


「アイスティーが小岩井」


「ありがと♪ 奢りだと思うと、美味しそうに見えるよね~」


「で、ホットコーヒーは僕……と、貴宝院さん」


「神成くん、ありがと」


「「え?」」


 こうして、僕は正と小岩井の二人に、貴宝院さんを紹介したのだった。

 二人が暫く放心していたので、耳に届いていたかどうかはわからないけれど……。

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