【第7話:かばでぃとシャーシャ】

「それで、そのお人形さんってどんなお人形なのかな?」


 まずは何か特徴が無いかと聞いてみたのだが……。


「シャーシャ! すんごく可愛いんだよ!」


 困った。さっぱりわからない……。

 何かのキャラクターの名前だろうか?

 でも、もし自分で人形につけた名前だと、そこから推測するのも厳しい。

 そもそもスマホが電池切れなので、キャラの名前かどうかも調べられないが……。


「そ、そうなんだね。……あ! それじゃぁさ。そのシャーシャは、どれぐらいの大きさなのかな?」


 それならばと大きさを聞いてみると、両手で小さな隙間を作って、


「これぐらい?」


 と言ってかわいく首を傾げた。


 手と手の間はだいたい一〇センチぐらいだろうか。

 意外と小さい。

 女の子は小さなリュックを背負っているので、もしかするとキーホルダーみたいにぶら下げていたのかもしれない。

 そう思い、背中のリュックに視線を向けてみると、何かキーホルダーの残骸のようなものがぶら下がっていた。


 どうやら、リュックにつけていた人形が、気付くと落として無くなっていたという事のようだ。


「そっか。そのシャーシャはリュックにぶら下げていたんだよね?」


「うん……でも、気付いたらいなくなっちゃってたの……」


 あ、やばい……泣きそうになってる!?


「そ、そうなんだね。きっと、ちょっと遊びに出かけているだけだから大丈夫だよ! でも、今頃、シャーシャも待ってると思うからさ、だから一緒にお迎えにいこうか?」


「うん! 迎えにいく~!」


 従妹に小さい子がいるので少しは慣れているつもりだったが、二人っきりで相手をするのは中々に大変だ……。


 その後、小さな公園なのでぐるっと一周して探してみたのだが、どこにもシャーシャらしきものは落ちていなかった。


「えっと、この公園には、どっちの方から来たのかな?」


 公園の外となると簡単には見つからないかもしれないが、どっちの方向から来たのかを聞き、


「あっち~!」


 その子が指さした方に、二人で歩いて行く。


 すると……公園を出てすぐの歩道の脇に、何か小さなロボットのようなものを見つける。


 人形ではなくどう見てもロボットなので違うとは思うが、一応、確認してみよう……。


「ねぇねぇ。アレはシャーシャじゃないよね?」


 どう見ても変形合体しそうなロボットだったのだけど、


「シャーシャ!!」


 歩道の脇にその姿を見つけると、その子は走り出していた。


「ははははは……中々かわった感性を持った子だね……。でも、あっさり見つかって良かった」


 女の子は嬉しそうにシャーシャこと変形ロボを手に取ると、満面の笑みを浮かべて戻ってきた。


「お兄ちゃん、ありがとう!」


「それがシャーシャなんだ。すぐに見つかって良かったね」


「うん!」


 余程見つかったのが嬉しいのか、変形ロボシャーシャを両手で抱えて、高い高いをしている。


「あっ、そうだ。ちょっとシャーシャ貸して貰ってもいいかな?」


 僕がそう尋ねると、一瞬だけ悩んだ素振りを見せて、


「お兄ちゃんになら、良いよ~」


 と言って、シャーシャを渡してくれた。


「ありがと。じゃぁ、ちょっと後ろを向いて貰えるかなぁ?」


「こぅお~?」


 女の子は、素直に後ろを向いてくれたので、僕はリュックに残っていたキーホルダーに残った歪んだリングをつまみ、シャーシャの頭についていたリングに通すと、


「ふぬぬぬ」


 力いっぱい握って元に戻してあげた。

 隙間が無いかチェックしてみたが、意外と綺麗に直ったようだ。


「これで直ったよ。大事にしてあげてね」


「お兄ちゃん、ありがとぉ!!」


 よほど嬉しいのか、背中についたシャーシャを見ようと、くるくる回っている。

 凄く可愛いが、内心、尻尾を追いかける犬の姿が頭に浮かんだのは内緒だ。


「どういたしまして。でも、もう遅いし、早く帰らないとダメだよ? 家は近いの? 一人で大丈夫?」


 まだ夕焼けは色濃く残っているが、あと三〇分もすれば暗くなるだろう。

 スマホが見れないので正確な時間がわからないが、たぶんもう一八時ぐらいにはなっているはずだ。


 そう考えると、急に心配になってきた。


「だいじょうぶだよ! あっ、お兄ちゃんはお名前なんて言うの~? さやかはさやかだよ~」


 ほんとに大丈夫だろうかと、まだ心配だったが、そう言えばまだ名前を言ってなかったと、遅まきながら先に自己紹介しておく。


「さやかちゃんかぁ。良い名前だね。お兄ちゃんの名前は『神成しんじょう』だよ」


「さやか、良い名前だよ~! しんじょうもそう思う~?」


 まさかの呼び捨てに、「神成お兄ちゃん」とか言っておけば良かったかと少し後悔。


「う、うん。神成もさやかちゃんって良い名前だと思うよ。ところで……本当に一人で大丈夫? お家まで送って行こうか?」


 やはり心配なのでもう一度尋ねてみた。


「一人でもだいじょうぶ~! でも、しんじょうが送ってくれるなら、さやか嬉しい!」


「わかった。じゃぁ、神成が送ってあげるね」


 もしこのまま、この子の言葉を鵜呑みにして家に帰って、帰りに事件に巻き込まれたりしても嫌だしね。

 まぁ絶賛迷子中の僕が言うのも何だけど、この子の後をついて行くだけだから、何とかなるだろう。


「あのね。しんじょうには教えたげるけど、みんみんがあるから、ほんとはひとりでもだいじょうぶだったんだよ? でも、みんなには内緒だから!」


 ん? みんみんってなんだろ? 防犯ブザーとかのことかな?

 そんな事を考えていると、さやかちゃんが僕の服の裾をきゅっと握り締めた。


「みんみんするとき、ぎゅっしてると大丈夫なの!」


 うん。さっぱりわからない……。


「そ、そうなんだね。じゃぁ、遅くなったらダメだから、お家に帰ろうか。さやかちゃんのお家はどっちなのかな?」


 僕はみんみんについては適当に誤魔化して、彩香ちゃんに家の方向を尋ねると、とある建物をまっすぐ指さした。


「あの、たっかーーーーーいマンションだよ!」


 さやかちゃんが指をさしたのは、さっき僕が貴宝院さんを送って行った超高層マンションだった。


「え? まさか……」


「じゃぁ、いっくよ~! みーんみーんみーんみーんみーんみーんみーん」


 あっ、絶対そうだ……。

 この子、貴宝院さんの妹だ……。

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