そのスタンブルを輝きに変えて
茂由 茂子
北斗七星はまだ見えない
オリオン座が夜空に輝く真冬のある日、俺は近くの公園の駐車場に来ていた。北斗七星は、まだ見えない。
カシオペアが、北極星の居場所を教えている。街頭の色が橙色のせいか、息を吐くと、きらきらと橙色に光る。
駐車場に併設されている階段を登ると、芝生のグラウンドが広がっている。そのグラウンドの脇には、雨風を凌げる、立派な公衆トイレが設置されている。
俺はそのトイレの軒下につくられているベンチに座った。そして、家から持ってきたカッターナイフをポケットから取り出す。
カチカチと音を立てて刃先を出すと、刃が橙色の光に照らされて、きらりと光った。
息を飲み、左腕のスウェットの袖をまくった。日焼けもしていない白い腕。こんなに弱弱しかっただろうか、と疑問に思うほど、俺の腕は華奢になっていた。
どの辺がいいだろうか、と、まじまじと見つめてみる。手首の血管は、赤紫色に浮き出ている。一気にいかないと死ねないだろうから、一番太い血管にしよう。
……いよいよだ。
刃先を血管が浮き出ている皮膚に当てると、ひやりとその冷たさが伝わってきた。それはとても、無機質な冷たさだ。大きく深呼吸をする。
痛いかな。きっと痛いだろうな。
目を瞑ると、今までの人生が走馬灯のように思い出された。
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