孤独な日常

ぱんけーき

孤独

最近、ふと考える。

どうして時間を巻き戻せないのか。

いつも後悔ばかりしてきた。

その度に嫌になる。


でも、同時にこうも考える。


時間を巻き戻して、未来から過去に来た上で、未来での記憶を失った状態にあるんじゃないか、と。


前者だろうが、後者だろうが、私のこれから先に何が起こるのかは、分からない。

少なくとも、私自身には。





私は、しがない学生だ。

あくまで主観での意見だが、至って平凡だ。そこらにいくらでも、代わりが転がっていそうなくらい。


"誰かの代わり"になんて他の誰かじゃ絶対になれない、と言う人がいた。

確かにそうかもしれない。

でも、それを証明することは出来ない。


社会が、人間という歯車で回っている、と言う人がいた。

これも比喩としては分かりやすい。

でも、その歯車に替えのパーツがない訳じゃない。

今、パーツとして使われていない歯車は、たくさん予備にある。

その一つが、自分なのだろうと。


平凡、と先に言ったが、少しばかり突飛な経験に遭遇したことがある。


何でもない話かも知れないけれど、私の目の前で、本当に突拍子もなく、人が死んだ。


何年前だったのか、もうぼんやりとしか覚えていないが、2、3年前だった気がする。

いつもの帰り道で、信号待ちをしていた。

車通りの少ない交差点、のはず。


交通量は少ないのに、やたらと長い赤信号を一人、待っていた。


長いのはいつものことだし、馴れっこだ。

いつもと同じで、何も考えないで、でも、何かを考えていた。


ふと肩越しに、前触れもなく声を掛けられた。男の人だった。

「こんにちは」でもなく、「一人?」でもなく、「気を付けてね」でもなかった。


一言、「…真似するなよ。」


そういってその人は、一瞬の躊躇もなく、飛び出した。

ものすごい勢いで人が、視界の端から端に飛んでいく。


ぼーっと見ながら、このときはいろいろと考えていた。

何で話しかけてきたのか、とか

あの人はなんで飛び込んだのか、とか

あっけないなあ、とか


…いろいろと。


そのときのことで覚えているのはこれくらい。


でも今、分かることがある。

あの人の、思っていたことだ。

たぶん、あの人もこんな気持ちを抱えてたんじゃないか、と思う。

やりたくてやった訳じゃなかったはず。

きっと、やりきれなかった想い。


考えながら、

交差点に近づく。

ひとりの、信号待ちの女の子。


あの日の自分の姿と重なった。


未来は分からない、と言った人がいる。

替わりはいない、と言った人がいる。


今の私にだけは、未来が分かる。

きっと、代わりもいる。


数歩近づいて、声を掛けた。


「……真似、しないでね。」

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孤独な日常 ぱんけーき @kmyno_0916

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