カルナヴァル

@Pz5

第1幕

場所

 指定無し


人物

 女1

 女2

 男

 医師


 その他無数の女(用意できるだけ)


第1幕

 下手にテーブル、中央に扉、上手奥に台。台の前には半透明のフィルターを掛ける

 照明無し

 上方より声のみ響く


女1 我独り、惑い離れし、日天を、翻弄流浪、プルゥトフ王。


 照明点灯

 女1下手より登場。黒い衣装に若女わかおんなの面をつけている。


女1 (落ち着かない様子)何故あの人はこちらの言い分を分ろうともしてくれないのでしょう。(中央に歩き出す)何故、私の助言を聞き入れようとしてくれないのでしょう。(中央付近を行き来する)こんなにも愛しているというのに。こんなにもこんなにも大切にしようとしているのに。


 女2下手より登場。曲見しゃくみの面をつけている。


女2 あら貴女。そんなに惑って如何されたの? 

女1 (しばらく右往左往してから女2にふと気付き)惑う?ああ、私は惑っているのですね。これが惑うのですか。

女2 ええ、そうよ。それが惑っていなくなんだと云うのです?

女1 私は、私が怒っているのだとばかり思っておりました。(両手に泥眼でいがん舌出乙しただしおとの面を持ち見比べながら)私は自分の感情がよく判らないので。

女2 なら、今の貴女は惑いですよ。

女1 そう、これが惑いなのですね。(面をしまう)

女2 ところで、何がそんなに貴女を惑わせていると言うのです?

女1 何と言って、あの人です。(女1上手の方を向く)


 男上手奥の台の上に登場。着飾り、博士イル・ドットーレの面を着けている。

 スポットライトを男に当てる。


女1 (女2に向き直り)あの人はいつだって、口では私を好きだと云うのに、行動がいつもあべこべで、私の話や助言等おかまい無しなのです。しかも口ばかり達者で隙あらば言い包め様としてばかりなのです。

女2 あら、そうなのですか?

女1 ええ、そうなのです。ある時はこんな感じで……


 女1、2への照明を落とす。


男 成る程。確かに君はそれをしてくれるなとは云った。そして僕も諒解した。でも「それをしたいができない」と云うのは構わないだろう?現に僕はそれをしなかったし、今後もしない。でも「したい」と云う気持ちを表す事の何がいけないんだい?


 女1、2へ照明点ける。以下繰返し。


女1 あんな在り様なのです。

女2 あら。随分な詭弁ですのね。

女1 そう、詭弁なのです。また、別の時など……


男 僕は反対意見を聞きたいだけだよ。(右手を上げながら)先ず僕の中のテーゼが有って、(右手の中に何か有るかの様に見ながら)これは勿論、相手からみたらアンチテーゼな訳だけれど、で(左手を出す)相手からのアンチテーゼ、相手にしてみればテーゼだね、が来る。この二つが(両手の平を併せ音を出す)ぶつかり合う弁証法の内に僕のテーゼが強化されたり、或はもっと良いジンテーゼが出て来たりする。それは素晴らしく楽しい事じゃないか。或は僕が見落とした某かを拾えるかも知れないし、相手にとっても何かの発見が有るかもしれない。だから、僕は何も相手に攻撃を加えようとしているのではなくて、ただお互いの状況や意見に対するコンセンサスを摺り合わせようとしたり、より深い話をしたいだけなんだよ。


 女1、男の台詞の間に移動して、台の上下手側に登場。


女1 (童子の面に換えて)そうは云っても、そこにある気持ちとかは如何するの?相手の感情やだいたいの意味を分った上で問いただすなんて意地悪じゃない?

男 だから今説明したじゃないか。君は特にあの時の事を云っている様だけれど、正にああいった時こそ、お互いの感情や憶測を極力廃して、足場をしっかり確認して先に進めないといけないんだよ。だから僕は、僕が知っている事を総動員して話合いに臨んだのだし、そこで手を抜くのは却って失礼じゃないか。

女1 あの場面で求められていたのは、貴方が「諭される側」になること。それくらい解っていたでしょう?

男 待ってくれ。何故一方的に僕がそう云う立場に立たされていたんだい?(台の上手側めいっぱいに下がり、足で音をたてる)あれは対等な話合いの場だろう?大体、あの人だって(女2を指差す)、あんな事を生業にしようと云うのなら、あの程度の事を知らなくて如何すると云うんだい?大体、君は僕の居ないときのあの人達との会話を引き合いに一方的に僕を断罪する様だけれど、何故そんな卑怯な事ができるんだい?そんな一方向からの、しかも間接的な意見だけで以て相手を判断するなんて、それこそ意地悪と云うモノだ。まして、あの人達の中での僕の像でもって実際の僕に関わりの無い処で話を進めて、そんな不誠実な事で悩んでる人を助けたいだなんて、よくも云えた物だな……(声を小さくするも後ろで何か言い続ける)


 男への照明落とす。


女2 ああ、それは私も憶えが有りますわ。

女1 (元の位置に戻り、若女の面に戻す)そうでしょう。万事がこの調子なのです。それでも私はこの人が愛おしくて、良く成って貰いたいと様々云うのですが、それでも全てにこの調子。このままで宜しいのかと懊悩してしまうのです。

女2 では一つ、拝見致してもよろしくて?(タロットカード1パックをテーブルの上に出す)

女1 よろしくて。(タロットカードを混ぜ始める)

女1・2 さて!(女1、女2が纏めた山からカードを2枚引く)

女2 あらあら、あらら。(一枚一枚改めながら)「杯の5」「剣の8」……

女1 「関係や愛情の終わり」を邪魔だてするのは「五里霧中の無力感」……厭な札達ですわね。

女2 何に対してか判じかねますので、もう一枚引いてみては?

女1・2 さて!(女1、もう一枚引く)

女2 (引かれたカードを見て)あらまぁ。「吊るされた男」……

女1 「謀叛者」……?

女2 或は「臥薪嘗胆」ですわね……(女1の仮面を見る)もう、見えて来たのではなくて?

女1 見えましたか?

女2 あら、貴女が「愛情」と感じているのは「前途不明瞭への恐怖からの執念」ではなくて?

女1 私が、怖がっている……?

女2 「何をされるか判らない」のは恐怖で当然ですわ。

女1 それは、そうですわ。

女2 この「謀叛者」は貴女にとって如何程の価値が?

女1 そも、是程迄に懊悩させる「反逆者」に何故価値を見出したのでしょう。

女2 胸の内の澱は、少しは取れましたでしょうか?

女1 ええ、この「剣」の札の様に「邪魔者」を切り捨てるべきなのでしょう……(男の方に目を向ける)

女2 すっきりできたのでしたら幸い。


 女2下手より去る。


女1 (カードを般若の面に持ち替えて)切り捨てる……べきなのでしょう……(般若の面をじっと見つめる)


 女1、客席に背を向け般若面を若女面の上に重ねる。

 そのまま、若女面を捨てる。


 照明落ち、暫く後幕降ろす。


第1幕終了

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