第23話大天導師
『昨日、東の都第五区、
現在分かっているだけでも、死者60名に達しています。
尚、未だ治療を受けている方も多く、清導天廻は今朝、「医療施設と共に迅速な対応に励む」と発表しております』
テレビの向こうでは険しい表情を浮かべながら、女性キャスターが昨夜起こった出来事の近況を報告していく。
そして、清導天廻では昨晩から大天導師達がモニター越しで会議を開き、天導師達が対処に追われていた。
夜通し動いている為、その表情からは疲労が全面的に主張しているのが分かる。
「既にメディアにて知らされておりますが、場所が場所だっただけに住民の被害、感染の被害が大きく、人手が不足している状態です」
東の大天導師、
「天導士達も数十名が穢れに落とされ、第三部隊・第四部隊が壊滅。
討祓での怪我などで治療中の者が数十名と、今攻め込まれればかなりマズい状況になるでしょうね」
会議に出席していた天導師の一人が更に詳しく状況を報告していった。
『まさか東の都を狙うとはな。 先日狙われた北の都……南とこちらも警戒レベルを引き上げよう』
西の都の大天導師である
「引き続き各大天導師は地域の防衛強化、警戒、天導士の力の底上げに努めて下さい。
主が動いたと確定した以上、こちらも全力で対処しなくてはなりませんからね。
お願いしますよ」
『『『はっ』』』
天導元帥がそう告げ、会議は終了する。
「初音」
「はい」
総葉の言葉に近くで待機していた女性が一歩前に出て返事をする。
20代後半、ビシっと固めた黒髪を後方で束ねたクールな女性だ。
大天導師である総葉の秘書を務め、時に代行として公務を行なう場合もある、非常に優秀な人材だ。
「主と戦っていた者達……天草家の二人を呼んでくれますか?」
「天草……紫苑様と桜華様、で宜しいでしょうか?」
「ええ、お願いします」
「畏まりました」
初音が一礼をすると、扉を開けて外へと出て行く。
「さて、何から伝えましょうか……既に主から何かしらを聴いていると情報も入ってますしね……」
総葉は自分の机に腰かけると、ふぅっと一息ついて窓から外を眺めた。
・
・
・
天草宗家では、怪我を負ってしまった静世と春道が治療を受け、各自の部屋で休んでいる。
その上で紫苑と桜華が当主である桔叶へと報告を行なっていた。
「本当に、よく無事で戻って来てくれたわ……」
「お母様、お父様は……?」
桜華は心配そうな表情で桔叶へと尋ねる。
「大丈夫よ。 重たい一撃を受けただけだし、肋骨が折れた程度だからすぐに治るわ」
「そう、ですか……」
「静世も同じ。 まあ骨折はしてないけど打撲ね」
桔叶の言葉に紫苑も少し安堵したが、それでも怪我人が出てしまった事実は複雑だった。
「天草家に死者は居ないわ。 重症もね。 ただ、今回の討祓戦で天導士の数が一気に削られてしまった。
清導天廻は急いで天導士の増幅を計ると思うから、二人も更に実力を上げなさい」
「「はい」」
話しを終えると、ちょうど良いタイミングで「失礼致します」と草部が大広間へ入ってきた。
「桔叶様、お客様がお見えになりました。 紫苑さん、桜華さんに用があると」
「私達?」
「どなたでしょう?」
紫苑と桜華も心当たりがなく、桔叶が「通してちょうだい」と告げると、草部が部屋を後にし、数秒後には客人を連れて戻って来た。
「失礼致します。 こうしてお会いするのは初めてですね。
清導天廻東支部統括、総葉偃月の秘書をしております、初音と申します」
「総葉様の秘書!?」
桔叶は姿勢を崩して座っていたのだが、突然現れた大天導師の名に慌てながら姿勢を正すと、しっかりと向き合った。
「それで、今回はどの様な御用件でしょうか?」
桔叶が突然の事で少し警戒をしつつも初音に尋ねる。
「昨晩の討祓戦にて、主との戦闘を行なった紫苑様、桜華様に総葉様直々に招集の命が下りました。
ですので、お迎えに上がった次第です」
「えっ!?」
桔叶と総葉の会話に二人はキョトンとしている。
実際、大天導師直々に天導士ではない者を呼び出す事は非常に稀なのだ。
まして二人はそうした事実を知らない事で、自分達の置かれている状況に現実味がないのだ。
「分かりました。 紫苑、桜華、大天導師様がお呼びだからすぐに用意しなさい」
「「はい……」」
「詳細に付きましては移動中にお話しします。 それと、そこまで畏まらなくても大丈夫ですよ」
初音が優しく伝えると、「外で待ちます」とその場を後にした。
そして、初音が出て行くと桔叶は突然の出来事にどっと疲れ、再び姿勢を崩したのだった。
・
・
・
移動中の車では、どちらかと言うと大天導師という存在、清導天廻の意義と活動内容など、そして現在どの様な状況なのかを二人に話していった。
そして気付けば車が清導天廻の前に停められ、中へと案内される。
普段通っている清導廻とは違って建物自体非常に大きく、入り口には大きな鳥居が構えていた。
中は大企業のビルの様に受付があり、沢山の人達がいそいそと走り回っている。
「こちらになります。 逸れると迷子になるかと思いますので、しっかり付いて来て下さいね」
「「あっはい!」」
足早に歩いていく初音に必死に付いていく紫苑と桜華。
「ねぇ、桜華ちゃん……初音さんって足早くないです?」
「そうね……しかも足音が一切ない……かなりの手練れ!?」
流石秘書なのか、それとも秘書だからといって天導士としての実力はかなり高いのか、秘書という存在が二人の中でかなり謎めいたものになっていく。
やがて、建物の一番奥にある専用エレベーターに乗って辿り着いたのは20階。
この建物の最上階だ。
エレベーターを降りると廊下には真っ赤なカーペットが敷かれ、所々に豪華な壺などが飾ってある。
そして歩いていくと、大きな扉の前に三人が立った。
コンコン
「総葉様、紫苑、桜華の二人をお連れ致しました」
『入りなさい』
ギギっと大きな扉が開くと、天草家の大広間の数倍はあるであろう大きなフロアが広がった。
中央には建物内や街の各所に設置されたカメラからのモニター、テレビのニュースなどが映し出されている。
「よく来てくれました。 突然の招集に応じてくれて、感謝致します」
昨晩、主との戦闘時に見た時とは違って顔はしっかりと出されていた。
黒く長い髪に所々白いメッシュが入っている。背は小柄で、見た目だけで言えば20代だ。しかし、その瞳は全てを見透かしている様な感覚を覚え、上に立つ者としてのオーラが無意識に解き放たれている。
「は、初めまして……天草宗家当主、桔叶の娘、桜華と申します」
「あっ、えっと天草影時の娘、紫苑、です」
「清導天廻東支部統括、大天導師の総葉偃月です」
ニコっと微笑むと先程までの威圧と言えるオーラが消え失せ、優しそうなお姉さんオーラへと変化した。
「ささっ、こちらへどうぞ。 初音、お茶をお願いします」
「用意出来ております、どうぞ」
いつの間にお茶の用意をしていたのか、総葉に案内されたソファへ座ると間髪入れずに出来たてのお茶が目の前に置かれた。
「そう固くならなくても大丈夫ですよ。 天導士、であれば上下関係がありますからある程度は姿勢、態度など見ますが、貴女達はまだここに所属してません。
ですから、そうですね……近所のお姉さんに会いに来た感覚で大丈夫です」
「ふふふっ」と何故か嬉しそうにそう告げる総葉に、紫苑は以前、初めて清導廻へと訪れた際の理事長、草結李円を思い出した。
「何だか、李円さんに似てますね」
「あら、李円ちゃんもこんなでしたか? まあ、あの子も私の事大好きでしたからねぇ」
総葉の言葉に、紫苑、そして桜華も「なるほど」と何か納得した。
「それで、本日ここへ呼んだのは他でもありません。
昨晩の主との戦闘についてです。
もう報告はしてるかと思いますが、詳しく教えて下さいますか?」
キリっと表情を変え、真剣な表情で総葉が二人に向き合う。
「あの、その事で一つ伺いたいのですが……」
すると、紫苑が総葉に対して挙手をする。
「何でしょう?」
「えっと、これは報告内容には居れてなかったのですが、主と話した時……私の父、影時の事を知ってました。
それで、『真実は解明するもの、全てを知った時どんな選択をするのか』と言われました……これってどういう事なのでしょうか?」
「なるほど、これは主等に一杯食わされましたね……」
「何か、知ってるんですね……?」
紫苑は総葉の言葉に疑いの眼差しを向けた。
「良いでしょう。 お話しします。 桜華さん、貴女にも関係する事ですからね」
「えっ、私もですか?」
「ええ、寧ろ天草家に関わる事でもあります。
こちらに付いて来て下さい」
そう告げると、総葉がゆっくりと立ち上がり、フロアの壁際へと移動した。
そして、壁に掛けてある絵を傾けるとガタンっと音が鳴り、天井から階段が降りて来た。
「こちらです。 初音、来客があったら知らせて下さい」
「畏まりました」
三人がその階段を昇っていくと、そこは先ほどまで居たフロアの半分ほどの大きさの隠し部屋。
沢山の書物が置いてあり、中央には机が置いてある。
「これから二人には公表されていない事実を知って頂きます。
本来、天導士でもない二人に見せるのは問題になりかねませんが、既に主が動いている以上、真実を知った上で二人も選択して下さい」
総葉もまた、あの時の主と同じような言葉を二人に投げ掛けると、奥から数冊の本を取り出し、机の上に広げた。
表紙を見るに、穢れ人の歴史、天導士の歴史が掛かれている様だ。
しかし、その中の一つに穢れ人でありながら天導士にも見れる一人の存在が描かれた本があった。
「初めに、この事実は公にしない事。
勿論、話したとしても信じる者は少ないと思います。
そして、その事実を知ったからと言って一人で行動しない事。
以上を約束して頂けますか?」
「「はい」」
二人は緊張した表情で返事を返すと、総葉がニコっと笑みを浮かべて机の上にある本を広げた。
「「っ――!?」」
そこに描かれていた内容に二人は絶句する。
「これはっ……」
「これは真実の入り口に過ぎませんよ」
「しかし、これはまるで……」
「そう……人と穢れの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます