第258話
時が進むのは早いもので、既に十月。私たちが入学してから三ヶ月が経ちました。そしてやってきたのは、そう、例の催し物。いよいよ『王立学園学年別武闘大会』が始まります。
そして今日はその初日。開会式及び一回戦が一斉に行われることとなっています。
「そろそろ空気も冷たくなってきたね」
「だな」
「ですね。春は風が吹き、夏は日が照り、秋は色が付き、冬は白が覆う。この世界はどこにいようとも同じ季節を体感することになりますから」
「ん? それが当たり前じゃないのか? 場所によって季節が違うだなんてあり得ないだろう」
「そうですが、ええ」
「へんなエンデリシェ」
危ないところでした、余計なことを言いそうになりました。もうこの世界に来てもう十年以上だというのに、いまだに時々前世の感覚で話をしそうになってしまいます。気をつけなければ。
マリネの言う通り、この世界はすべての地が同じ季節を共有しています。どのような仕組みでそうなっているのかは全くわかりませんが、当然月の満ち欠けや日の出入りもすべて同じ。つまりは地点によっての時差も存在しませんので、遠出する時には計算が簡単なので便利かもしれませんね。
「ついたよ」
「うはぁ……」
「なかなかの大きさですねこれは」
そしてそんな大会が催されるのは王都内ではありません。郊外に存在する『ピラグラス平原』と呼ばれる広大な草原の一部に建設された
この施設群は通称ピラグラシオンと呼ばれており、かつてこの国に存在した侯爵領都の跡地に存在しています。草原一帯を領土としていたピラグラス侯爵家は何百年も前に粗相から王家の怒りを買いいわゆるお取り潰しに遭いました。そして遺った都市も流入が相次ぎ荒廃していき、今ではただの平地が存在しているだけとなっています。
その後あれやこれやと紆余曲折を経ながら王都直轄領としてほとんど野放しになっていて、数十年前から再利用としてこの元領都の名前を持った施設群が作られたわけです。
そして私たち王立学園が利用するのは、そんな中の施設。闘技場が複数建設されているエリアとなります。ここでは私たちだけではなく賭け事を含めた様々な闘技が繰り広げられており、この武闘大会の間だけ学園が借り上げる形となっています。
「ここに入ればいいんだよね?」
「そうだな」
「ええと……あ、あそこですね!」
そしてその中でも一際大きな建物に集合することになっている私たちは、入ってから周りを見渡します。すると、クラスメイトの姿が見えたので近づきます。
「おはようございます」
「おはよ〜」
「おはようございます!」
お互いに挨拶をしあい、そして世間話や今日から始まる大会について不安や期待の入り混じった会話が弾みます。
「エンデリシェ様は今回の催し物、どのくらいまでいこうと考えてなさるのでしょうか?」
「私ですか? そうですね……出来れば第一の予選は勝ち抜きたいところです」
「そんな、エンデリシェ様は主席なのですよ? もっと上を狙われてもよろしいので?」
「そうは言いましても、私としましてはこの学年全員というところに不安を感じずにはいられません。私の得意魔法は攻撃特化ではなく魔法を付与するものですので、結局は物理攻撃に頼るしかありません。なんでもありとはいえどこまでいけるものか……」
「大丈夫だ、エンデリシェ。寮でも言っただろう? まずは挑戦あるのみ! ウジウジするよりかは当たって砕けろだ!」
「その例えが合っているかは置いといて、確かにそうかもしれませんね。すみません、せっかくの機会なのです、頑張っていきましょう」
自分でも気合を入れてきたつもりなのですが、いざこうして戦いの場を目の前にすると途端に自信がなくなってしまいます。しかし、王族として、そして個人的にも勝ち上がる意欲を持ってここまでやってきたはず。拳や剣やもしくは魔法を交える前から下を向いていてはならないでしょう。
「そうそう」
「ですね!」
「エンデリシェ様流石です!」
「そんなに持ち上げないでくださいっ。何度も言っているではありませんか? 恥ずかしいですよもうっ」
「かわいい!」
「天使!」
「女神!」
「くんかくんかすーはー」
「はすはす」
何やら怪しげな言動をしている者もいますが、許容範囲……ということにしておきましょう。
<もうすぐ開会式の時間となります、生徒、教師及び関係者の皆さんは速やかに移動をお願いします>
「あっ、行かないと」
「ですね」
ということで、雑談もほどほどに用意された施設の中でも一際大きな、
そんな大闘技場の収容人数は三万人。中等部全学年九千七百二十人を収めてもまだ二倍ほどの余裕があるくらい大きな建物です。円形のそれは、地球でいうところのコロセウム。しかし違うところは、屋根が存在し戦闘場と客席とは魔法による防御障壁で完全に括られており物理的にも魔法的にもお互いに行き来ができなくなっているところでしょうか。
そして例の如く、私たちは一年生なので奥の高い所にある席に座ります。クラスごとにまとまって座り、円形の区画全体の三分の一ほどを学園で。残りの三分の二を来客で埋めるのです。
ーーそうなのです、この武闘大会には何と観客が存在するのです!
とは言っても、ほとんどの見物客は決勝トーナメント前くらいから観に来るらしく最初の、しかも一年生の試合をわざわざ見に来ようとするものはそう多くないでしょう。
「いやあ、それにしても本当に大きな所だなあ」
「ですね。私達だけでも一万人ほどが既にここに入っているはずなのに、客席には全然余裕があります。これが全部埋まる中で決勝を戦うなんて考えただけでも緊張してしまいますね」
「エンデリシェはもうそこまで勝ち上がるつもりなんだな! 流石だ」
「いえいえいえいえっ、拡大解釈しないでください! 確かに健闘はしたいと考えてはいますが、まさかそこまで勝ち登れるとは思っていませんよ。というよりもあんまり根を詰めすぎたくないので行けるとこまでで」
「本当か?」
「本当ですよ、なにを疑うことがあるのですか?」
「でも確かにエンデリシェってしらっととんでもないことをしでかそうだよね」
「ミナスまで!」
二人とも何故か私が心の内でメラメラと闘志を燃やしていると思い込んでいるようです。
<えー、では只今より開会式を行います>
「おっと」
「静かにしましょう」
すると、いよいよ開会の挨拶が始まります。そして叔母様改めて学園長の挨拶をもって、今年度の武闘大会の赤テープが切って落とされました――――
<では一回戦第五試合! この三人による対決です!>
私の目の前には、同じ学年の男女が一人ずつ。そして私を含めて三人となります。
「ふっ、学年主席様だろうと、僕が倒して見せますよ」
「イキってんなよクソガキ?」
「アハハ……あの、お二人ともお手柔らかに」
<試合開始!>
「オラァ! 死ねや!!」
「下品な女だ、君の方こそさっさと退場願いたいものだ。この学園の品位がぶふぇえええええっ!!」
「うらっしゃああああああ! ドーテーがナマ言ったところでこんなもんよ? なあお姫様?」
「あ、はあ……?」
どうやら一回戦から穏やかにはなりそうにありませんねこれは。
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