第251話
突然現れた……いや、そうではありません。
「うそっ、この人たち」
「ミナス、知っているのですか?」
「知っているも何も、有名人よ?! それも、私たちと同じくこの学園を卒業した先輩方……その在学中の功績が既に伝説的逸話となっている今も躍進を続ける全世界が目下注目中のパーティ、『トライソード』のルナミース、ノクタル、ステーラさん!」
やけに興奮した様子の彼女を見るに、相当な有名人らしいのですが……残念ながら私はその手のコトには疎く、いまいちピンと来ません。
ですが、トライソードという名は聞いた覚えがあるような。
「あっ、そうですね! 確かトライソードというパーティのお三方は、我が王国辺境に存在する
王国辺境、南部の端にある村『騎士爵領ナイティス』に突如出現した大規模なダンジョン。その大きさは
ナイティス村は現在、この世界特有の現象である"ダンジョン需要"によって盛り上がりの真っ最中。ある日突然出現することからどこに現れるか、どれくらいの規模なのか事前に知る方法は存在しなく、出てきた所は観光名所が如く全力でダンジョン攻略を盛り立てるわけです。
その理由は一つ。経済的に潤うからというもの。場合によっては何千人もの命知らずドモが駆けつけるわけですから、その分の商業的需要はうなぎ上りとなります。大規模ダンジョンともなると、住み込み同然の長期滞在を敢行する者達も多くなる、すると必然的に他の商品の需要も維持されるという仕組みなわけです。
因みにどのダンジョンにも通常便宜的に名前がつけられるのですが、ソコには『ディープスカート』という名前が付けられています。スカートといっても、お召し物のことではなく"覆い隠す"という意味の方です。地の果てまで続いているかのような、真の深淵の存在を思わせるそのダンジョンに畏怖と期待を込めて名付けられたものだそうです。何せ、現在攻略中の五十二層ですら既に全ダンジョンの最高記録なのですから。そしてそんな記録を打ち立て続けている目の前の彼らは、この場にいる十歳の生徒たちからすればまさに憧れの英雄そのものなのでしょうね。
……もし、私が彼らと精神年齢までが完全に同年代だとすれば、もっと興味を持って知っていたのでしょうが、私の知る限りの情報は興味がない分野を調べすぐに出てくる手合いのもの。この世界に来てからいくらか今世での肉体に精神や思考が引きずられているとはいえ、やはり完全に周囲に馴染むことはできていないのです。
「もう、なんでそんなに興味がないの? あのトライソードなんだよ?!」
ミナスにしては珍しく大はしゃぎなようです。やはり彼女も私にそう苦言を呈すくらいには興味津々なのでしょう。大商会の娘として、ダンジョンという一大産業について触れる機会も多いのでしょう。その過程で、スリルかつ夢があるあの世界に憧れを抱くのは自然なことなのかも知れませんね。
「そうは言われましても……」
「まあまあ、ミナス。誰にしも興味のある無しは存在する。ミナスは、私やエンデリシェの趣味の内容を全て理解できるのか?」
「それは、そうかも知れないけど」
「ならいいだろう」
「おーい、そろそろ雑談は終わりだ!」
と、そのタイミングで先生から前方に注視するよう促されます。
「さて、知っての通り、このトライソードの彼らは我が学園の卒業生。しかも三人とも俺の教え子なんだ! ははは、すごいだろうっ!」
ちゃっかり自慢してしまう先生。先生方の中でも誰が教え子か、などでマウントの取り合いが起こったりするのでしょうか? 将来のことなんて、結局は本人にしか決められないことだと思いますけどね。
「で、今日は休息日ということで。たまたまこの学園を訪れていたこいつらに頼み込んだわけだな。そしたら快諾してくれたということで、今日はいきなりではあるが実戦形式で諸君らの実力を今一度測ってみようと思う! ああ、先に言っておくが負けたからと言って減点することはないから安心しろ、あくまでも戦闘中の行動を加点方式で評価するだけだからな! でも、倒してしまっても構わんぞ?」
先生がニヤリとしながら三人を見やると、トライソードは苦笑いとも不適な笑みとも取れる、(中途半端という意味ではなく)微妙な顔つきをします。そして真ん中に立つ黒髪の男性が一歩前に出て自己紹介を始めます。
「どうもおはよう諸君。私はこのトライソードのリーダーを務めているノクタルだ。パーティ内ではタンクを担当している、よろしく頼む」
前世日本ではきっとイケメンボイスと言うのでしょうか、若々しく凛々しい男性の声でそう述べられます。話し方から感じられた性格はなんとなくではありますがマリネに似ているでしょうか? はっきりとした強い意志を感じさせますね。
ノクタルさんは腕も含めて首から下を黒いマントで覆っており、見えるのは膝から下くらいです。その襟首や靴、マントの裾から少し覗いているズボンなども真っ暗で、吸い込まれそうな黒髪に黒い目と相まってまるで夜がその場に突っ立っているかのような格好ですね。
「私はルナミース。このパーティにおいては前衛を担当しています。どうぞ今日はよろしくお願いします」
二人目、ノクタルさんの右手側に立っている金髪碧眼の女性が話します。ノクタルさんと同じくマントを着けてはいますが、しかし通常の範囲に収まる空を飛べば風にたなびくであろう普通のマントです。印象的なのは上下とも光り輝く金色の鎧を身につけていることですね。そして頭には兜を被ってはおらず、前髪を抑えるように後頭部まで囲うサークレットを装着していらっしゃいます。そうしているのは私たちに顔見せをするためでしょうか?
それと、ノクタルさんはマントのせいで武器が分かりませんが彼女はなんと腰の脇に剣を携えています。一般的な直剣形の西洋剣です。しかもその剣までもが金色という徹底ぶり。その格好はまるで夜空に浮かぶ満月の光のようです。
「やっほー! 私の名前はぁ、ステーラ! みんなぁ、よろしくね〜〜」
最後、手を細かく横に振りつつ挨拶をするのはノクタルさんの左手側に立つ白髪赤眼の女性。ワンピース……というよりかはドレスでしょうか? 真っ白なフリルのついた続きの服を身につけていらっしゃいますね。そしてこちらは特に武器のようなものは見当たりません。強いて言うならば、その暴力的な胸こそがある意味強力な武器であるでしょうね。穏やかな風が通り抜ける平原を思わせるルナミースさんと対照的です。
それにしても元気なお方です。私の身の回りにはいなかったタイプですね、男子達がメロメロになっているのが気になるところですが、この世界ではああいう女性がモテるのでしょうか?
「と言うわけで、先ほど先生から指示してもらった通りみんなは既に三人組を作っているはずだ。なぜ三人組なのか、もう理解しているとは思うがこちらと同数で戦ってもらうためだ。それに、この学園のシステム上バディと呼ばれる二人一組が重視されるわけだが、今後戦闘行為を行う際にそれ以上の人数と共闘しなければならない場面は余りあるほど出てくるだろう。そのための第一歩として、今日のこの模擬戦を糧にしてもらいたいのだ。さて、ではどの組から戦うかな?」
ノクタルさんが私たちの顔を見渡します。
すると、一人の生徒が手を挙げました。
「私たちが」
「ほう、いいだろう。それでは前に来て、他の生徒は観客席に散らばってくれ」
手をあげた生徒を含めた三人が、トライソードの皆さんとともに練習場中央付近に向かいます。その間私たちも、通称観客席と呼ばれる建物の端の方にあるセーフエリアに向かいます。ここは少し階段型の壇上になっており、サッカーや野球のスタジアムほどではありませんが見やすい角度で試合を観戦することができるようになっているのです。
「では始めよう。先生よろしくお願いします」
「うむ、任せろ! これより、トライソード対魔法学科一年Aクラスの模擬戦第一試合を始める!!」
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