第184話
「天候操作……」
本当にそんなことできるのか?
それはともかく、天候を操るという発想は思いつきもしなかったな。もしかしたら俺も
「ふうむ、そのマジケミクなる技も聞いたことはないが、天候を操るなぞ更に想像し難い。このエンシェントドラゴンであろうともそのような星の息吹に干渉するような真似はできまいよ」
「だが、我々はそれを成し遂げた。禁忌と言ったが、それらは使い方を誤るとこの世界を滅ぼしてしまうかもしれない危険な技術であるからだ。天候を操ることができるということはつまり、悪天候を発生させ敵国を襲撃することも出来るということだからな。もちろん、逆もしかり」
なるほど、超巨大なハリケーンを作って都市を襲えば、その地を通り過ぎた後はきっと更地になるだろう。他にも、大雨を降らせ洪水を起こしたり、日照りで旱魃を起こすなんてこともでき得る。
「アンダネト卿、と呼べばよろしいのかな? だが貴殿らはその禁忌を使ったということになる訳だが、何故危険にも程がある技術の使用に至ったのか。それほどまでに、あの南の地を襲うメリットが何処にあったのかね?」
椅子に深く腰を下ろして静かに話を聞いておられた陛下がマリネ女史にお訊ねなさる。
「禁忌は使用すること自体が危険なものだ。さらに、その代償も大きい。マジケミクはこの地で使われているいわゆる魔法の延長線上にある技術。当然、魔力を込める必要がある訳だが、天候を操るほどの魔力を込めるには如何程の人頭が必要だと思う? いくら強力な武装であろうとも費用対効果が期待通りに現れなければデクノボウと変わらない。しかし、その"費用"を一人で賄える奴がいた。それが、私の副官として同伴していた女性なのだ」
「女性、ですか。しかもたった一人で?」
つまり、エンドラですら使うことのできない魔法を(正確にはそれを発展させた
「まあ天候操作とは言うが、その実態はその事象を別の事象に改変することを指す。つまり、雨雲を操り運搬するとか、雷を一点に落とすなどそんなことが出来るわけではない。あくまで『その場の天候を変更』するものだからな」
なるほど。じゃあさっき俺が思いついた方法も、そんな事細かに制御できるわけではないと言うことか。発生させた竜巻が自軍の方に流れてくることもあるし、雨雲を作ったとしても気温によっては雪になったりもするのだろう。
「それでも飛んでもない業であることは違いないじゃろう。その副官とやらは今どこにおるのだ?」
「死んだ、と思う」
「え?」
「それはどういうことかね、卿よ」
陛下も敵のナンバーツーが知らず内に死んでいたことを訝しんでいるご様子。マリネ女史は一体尋問ではどこまで話したのだろうか?
「私も詳しくは知らないのだが。尋問を受けていると兵士たちが急に慌ただしくなったため一時中断となったのだ。そこでしばらく放置されていた訳だが、たまたま通りすがった兵士の一人に尋ねてみると、どうもポーソリアル軍の陣内で巨大な魔物が暴れていると言うではないか」
「ああ、あのタコのことか」
もしや、あの助け出した女性が件の副官なのか? 俺は尋問を他に任して北へ向かったのでその後の展開は殆ど知らない。せいぜいこうしてマリネ女史が半分保護のような形で捕虜になっていることくらいだ。
「タコ? 確かに触手が沢山生えた魔物だと聞いたが……まあいい。その魔物は、ヴァン君、君が殺したとも聞いた。私がそもそもあのような怪物の姿になったのも、
確かにその推測は正しくはある。だが一つ大きな間違いがあるぞ? どんな理由でかはわからないが、そこの真実は聞かなかったようだな。
「マリネさん、実は」
「まて、ヴァンよ。卿が先に続きを申せよ」
『死んではいない、俺が助け出した』と言おうとしたら、陛下からストップがかかる。何故? そもそもどうして殺しただなんて嘘をつく必要があるのだろうか。
「はあ。ともかく、その殺された副官は、私もよく身分を分かっていない奴だったのだ。急にお父様--つまりは我が国の大統領だが--へ擦り寄り始め、いつのまにか私の後見人のような立場にまで上り詰めていた。ああ、私自身は別にあいつに深い思い入れがあるわけじゃないから、死んだことについて個人的な憤りなどはない。ただ単に一国民が亡くなったことへの哀愁の念は抱くがな」
ううむ? 詐欺師、とかじゃないだろうな。でも天候操作をするくらいの力の持ち主なのだから、その実力を認められたからと考えるのも妥当だろうか。
娘の後見人にするくらいなのだから、大統領はあの髪長女を相当気に入っていたことが窺える。そして今回の戦争に同行させたのも、有能だからと言うだけではなく、後見人として娘がきちんと
「その女は、私達をこの地に連れてくるために必要な重要戦略物質でもあった。どこでどんな方法を使い手に入れたのかは未だに分からないが、とてつもない量の魔力をその身に宿していたのだ。なので、たった一人で幾人もの魔法使いを必要とするはずの禁忌技術を行使してしまえた」
やはり俺の推測通り、あの女は相当な魔力の持ち主なようだ。だから魔物になったわけではなかろうが、でもあのタコの姿で予想以上に苦戦したのは記憶に新しい。姿形が変わっても強者は強者ということなのだろう、当然ドラゴン族も然りだが。
「なるほど、動く魔力の器だったわけじゃな。して、ワシが気になったのは、本来信用信頼に足るものを任命するはずであろう副官という役職のものをそこまで疑うお主の態度じゃ」
「ああ、それなのだが……」
その後、少々話は長くなったが、マリネ女史から己の考察も含めたポーソリアル側の事情を話して貰った。
具体的には、棄民政策がどうとか、白い粉がどうとか……地球でもかつてどこかの国がやっていたことを一国がやらかしたような内容に正直辟易する。
俺的には共和国って某パンジャンな王国とどっこいな国だなというのが話の総合的な印象として受け止められた。中々ダークな面もある所なのだなあポーソリアルという処は。
「ふむ、中々面白い国のようじゃなぁ。国民を平等に扱うという建前のもと、その実は有益と無益を篩に掛け選別しているわけじゃからな」
「耳に痛い指摘だが、正しく一言で言えばそんな国になってしまったと言わざるを得ないだろう。あの女も、私の指摘が事実であるような態度をとっていた」
「ええと、一つ質問なのですが」
シリアスな空気になってはしまっているが、俺はあえて口を挟んでみる。
「なんだ、聞いていいぞヴァン君」
「マリネさん自身は、ポーソリアルのことをどう思っていらっしゃるのですか? もうどうでもいいのか、それとも民にとって良い国になるよう早く帰って反旗を翻したいのか」
「そうだな、いい質問だと思う。私自身がどうしたいか、か……それは」
「あーあー! くたびれてしもうたわ!
と、マリネ女史の覚悟を聞こうとしたところで、何回か耳にした覚えのある少しねっとりとした言い回しの女性の声が謁見の間に響き渡った。
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