第174話
「なに?」
アルテさんが、そんなことを?
先ほどから俺には、ハイジョシマスなどの平坦な音声しか聞こえてこないんだが。なにを言ってるんだベルは?
「ベル、訳のわからないことを」
「嘘じゃない! 訳わからなくなんかない! これは、アルテの声なの。間違いなく、アルテが自分で、トドメを刺してくれとお願いしてきているのよ!」
ベルは喚くばかりで、とても正常な精神状態とは思えない。
「とどめってどういうことだよ、うおっと、くそっ」
話をしようにも、明らかに先ほどのアルテさんよりも、今の天使状態の方が能力が高い。ステータスがまともに覗き見ることができなかったのも凄く気になるが、今はとにかくどうにかして活動を止めないと、俺も人間なんだからいつかは限界が来てしまう。そうなれば、これほどの強さの敵、一体誰が止められるというのだろうか?
「ベル、落ち着いて、くれ。どういう、ことを、言っているのか、せめて、詳しくっ……!」
「わ、わたしの……わたしの『破魔の光』でしか倒せないって言ってるのよ。彼女はいま、支配された意識を無理やり呼び覚ましているの。そして彼女をそんな状態にしたのは……神? アルテ、今神って言ったの?」
「神、だと?」
まさかそんな、ドルガ様が? どのような理由でこんなことを。
いやまて、それとも違う神が? ポーソリアルには俺たちが知らない神を信仰する文化があるみたいだし。
どちらにせよ、何故アルテさんをこんな状態にする必要があったのか。そしてそもそも、本当に神なのか。神と名乗る何か別の存在が、例えば他国のスパイなんかが洗脳技術を使って、彼女を王国の内部から崩壊させるための存在として仕向けたとも考えられる。
「うん、うん、辛いよね、うん。そうなの?」
「おいベル、どうしたらいい?! そろそろ、本気で対処法を考えないと、後何時間もこうしていやしないぞっ。本当にその、神を名乗る人物が神だという保証はどこにあるんだ? そしてなんで、俺の光が通用しなくてベルの光が通用するんだ?」
「それは----」
「なにをしているんだ、お前たち! その敵をさっさと片付けてしまわんか!」
だ、誰だ? あれ、あいつは……ジャムズか、もう動いてもいいのか? 殆ど無傷だったグアードとは違い、命に別状はないものの結構な怪我を負ったと聞いたが? まだそんな何時間も経っていないうえに、敵も天使以外はほぼ片付いた今更こんな前線に出てきてなにをする気なんだ。
「で、ですが」
「なんだ、なにをへこたれている、それでも栄えあるファストリア王国軍の兵士なのか!? あんな羽の生えた女ひとりくらい、さっさと倒さんか」
「ええっ」
言動から推測するに、どうも今さっきこの場にやってきたようだな。それで、俺だけが戦って兵士たちが尻込みしているのを見て気が立ったと。恐らくは、彼女を自分に怪我をさせた魔族の仲間だと思って、私怨も含めた討伐の催促をしているということだろうな。
そもそもジャムズ参謀長は王国軍の中でも数少ない俺のことをよく思っていない一派だし。
しかし、兵士達は彼と違って俺やドラゴンズが苦戦しているところをずっと見ている。自分たち生身の人間じゃ到底敵わない相手だということは既に充分に理解していることだろう。現場を知らない指揮官が唐突に現れて、あれこれ指示を出し始めても困惑するのは当たり前だ。
「ええい、順わんか! 従わん奴は、今この場で首にするぞ!」
「「「ええっ!?!?」」」
おいおい、そんなこと勝手に言っていいのか? 一番偉いのはグアードだし、彼も参謀長という役職についてはいるが人事権はなにも持たないはずだ。ここ数時間で起きた未曾有の危機に対抗する重要な立場にあることはわかるが、流石に混乱しすぎじゃなかろうか?
「ベル、どうしたらいい! めんどくさいのが増えたぞ!?」
「でも、本当にいいの? ……そんな」
ベルは相変わらず、何かを話し込んでいるようだ。だが俺にはやはりというか、アルテさんの話している内容は一切聞こえてこない。ベルの頭の中にだけ響いていると考えるのが妥当だろう。いくらなんでもストレスで頭がおかしくなったとは考えにくいし考えたくない。
「…………わかったわ。覚悟を決める。本当に、本当に心の底からそれがあなたの望みなのね?」
んん? どうやら、話が終局に近づいている気配を感じるぞ?
「--うわああああああ!!!」
え?
「なっ、ちょっと!?」
ベルがようやく、何か腹を括った感じの顔つきに変わったというのに、その直後、兵士の一人がこちらに向かって特攻してきた。
「おい、やめろ! おっと」
慌てて兵士を跳ね除けようとするが、両手の剣に加え三枚の
「ああああああがふっ」
「しまった!!」
俺の剣を押し戻され、一瞬できた隙に。ダイヤの先端から発射された光線が、兵士の身体を貫いてしまう。
「な、なんてことっ! 大丈夫?!」
慌ててベルが近づくが、そこにさらに光線が……!
「うおおおお」
俺は地を蹴り、間に割って入る。
だが、光線を一発撃ったダイヤは、また瞬間的に場所を移動し、
「やばっ、あっ!」
残った二枚のダイヤが、俺の視界を遮るように現れ、こちらもまた野太いビームを発射してくる。俺は障壁を展開して攻撃を防ぐが、代わりに最初の一枚の射線を逸らすことが出来なくなってしまう。
「きゃあっっっ!!」
「ベル!?」
「「「「「ぎゃああああああ」」」」
そしてさらには、周りが見えないのでどうなっているのか全くわからないが、ベルの叫び声が聞こえてきて、それと同時にたくさんの兵士達の断末魔も響く。
「なぜ私がアアアアアアアアアッ!」
そこには、先ほどから聞き覚えのある卑屈な声色も混じっている。直接見えなくても、なにが起こったか大体察せられてしまう。
が、俺を襲う光線は十数秒もすると、突然収まった。そして同時に視界が物理的に塞がれている前以外はだいぶ開け、斜め上前方に、光が空に向かって伸びていくのが見えた。
「な、なんだ?」
「うわああああああ………ああ、あれ?」
断末魔も消え去り、後には恐怖で叫ぶ兵士達の声だけが響く。だがその叫び声も、数秒もすればだんだんと疑問形の声色に変わっていった。
「!」
俺は隙ができた二枚のダイヤを剣で弾き飛ばす。そして城の方向を見据えると、王都の周り、そして簡易防壁の手前の二層に分かれ、巨大な障壁が展開されているのが確認できた。
「障壁、一体誰の?」
だがそちらにむいた意識も、また俺のすぐ近くへと引き戻されることになる。
「----ごめんね、アルテ…………!!」
「ガッ、ガガガガガッ!」
ベルの声がし、無事だったのかとそちらを向くが。彼女は漆黒に塗られた『破魔の光』を顕現させ、天使の胸元に深く突き刺していたのだ。
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