第168話
王都全域を包むように障壁を設置した俺は、そのさらに外側に王都を取り囲むよう建設されている簡易的な防壁に向かう。これは、魔王軍の侵攻が本格化すると同時に作られたもので、築二十年程度は経っているものだ。
障壁はあくまで設置型。念のための最終防衛ラインとして展開したものであって、攻撃を受け続けるといつか崩壊してしまう。出来るだけ頑張ってこの簡易防壁で魔物や魔族の侵攻を止めなければ。その為にも、指揮官と話をしにいく。
「指揮官はいるか!」
「ん? あ、ヴァンさん! お久しぶりです!」
「おう」
俺は以前陛下の命で国軍指導官を担っていた。ので、当然国軍の奴らには顔を知られているわけで。
「指揮官でありますか? 元帥閣下は現在作戦司令室で会議中であります」
「元帥というと……もしかしてグアードが戻っているのか? そうかわかった、ありがとう」
そして王城内に転移をし、軍の会議室へ向かう。当然部屋の前には警護の兵士が立っていたので、誰何を受ける。
「む!? 誰だ!」
「ヴァンだ」
「あっこれはナイティス卿! どうしてここに?」
まあ当然、先ほどのように俺の顔を知っているので向こうはすぐさま武装を引っ込めたが。
「ああ、至急グアードに会わせて欲しい」
「はっ、少々お待ちを」
そうして部屋の中とやりとりをし、許可が出たようで中に案内される。
「おお、ナイティス卿!」
「グアード、戻っていたのか」
「ああ、と言っても、実は以前からここにいたのだ。具体的には、ポーソリアルの件で転進してからな」
作戦司令室には当然他にもたくさんの人がいるのでいつもの通り、タメ口モードだ。
「それじゃあ、既にあの時には王国軍とは離れてここに詰めていたと?」
「そうだ。何せ、陛下は現地に赴いておられる。私がここに残って指揮を取らなければならなかったからだ」
「なるほど、それもそうだ」
軍の指揮権を有している人間が二人とも同じところにいるのは不味い。それに、王都や周辺地域の警備。及びポーソリアル軍や魔王軍残党が万が一ここに攻めてきたときの指揮なども含めた事前の策だったという。そして後半は現実になったわけだ。
確かに思い返してみれば、彼の姿は特に現地で見受けられなかったように思える。というかそもそも俺は殆ど一人で戦っていた為、誰がポーソリアルとの戦いに参加していたのか碌に把握していないという問題もあるが。
「それで、騎士爵は如何様でここに?」
「ああ、そうだそうだ。まず一つ、この王都に魔法障壁を張らせてもらった」
「ん? どういうことだ? 王都に?」
「ああ。全域にだ」
「王都全域!? ヴァン君は一体どれほどの魔力の持ち主なのだ」
他の参加者が驚きをあらわにする。ん? 君? よくみれば、バロメフェイスじゃないか。
「バロメフェイス、なぜここに?」
「ああ。王族がたやその関連する施設の警護に人を出しているのでな。今後の軍の方針と連動して指揮をする必要があるからだ」
「なるほど、陛下をお守りする為に出向しているものも多いだろうしな」
「その通りだ」
「ふん、騎士風情が何を偉そうにこの場でのうのうと喋っているのか……」
すると、部屋の後方、壁に体を預けている人物からそんな言葉がボソリと聞こえてくる。
「ええと、貴方は確かジャムズ参謀長」
「ああ、それがどうしたというのだ、少年? 我らが栄えあるファストリア王国軍が命を削ってことの対応に当たっているというのに、こやつら近衛騎士は城の中でぼっと突っ立っているのみ。同じ軍人を名乗るなど実に浅ましき行いであると、常々我は思っているのである!」
いつか、陛下と謁見をした時にグアードと共にいた奴だ。まるでデンネルを嫌な奴に仕立て上げたような性格をしている。
「何を言い出すのだ、貴様! いまがどのような事態が分かっているのかっ!」
バロメフェイスも売り言葉に買い言葉だ。二人は口論を始めてしまう。
「さ、参謀長、ちょいとお待ちを」
「あん? なにか用であるか、大将」
そこに、グアードの反対側に陣取っていたデブが話しかける。彼は確か……グテーだっけ? ソテーだっけ? バターだったかも?
「ブテー、話してみろ」
「は、はい」
ああそうそう、ブテーだ。久しぶりすぎて忘れていた。というかどうにも印象に残らない見た目なんだよなあ。有能なんだろうけど、明らかに軍人らしくない肥えた体が役職と結びつけにくくしてしまっている気がする……
グアードの仲介によって、大将が話し始める。
「今は、言い争っている場合ではありません。既に前線に魔物の大群が現れてから2日近くが経っています。兵士達も徐々に消耗し始めており、このままでは後三日ほどで前線の戦線は瓦解してしまうでしょう」
「ううむ、それは困るのである。くっ、話はまた後でだ、自称騎士よ」
「いい加減うるせえぞ、そちらこそ金輪際口を紡ぐな、肩書だけの無能め」
「なにをいうか!」
「ああん?」
「二人とも、そこまでだ」
"元帥閣下"が慌てて間に割って入り、なんとか二人は矛先を納めた。
「グアード、それでこれからどうする?」
「ああ。ブテーの言う通り、まずはもう少し機動的な兵士の運用方法を早急に策定しなければ。そして同時に、ナイティス騎士爵以下遊軍の協力も仰ぎたい」
「それは既に行っている。俺の友人であるドラゴン三体に加え、勇者ベルとそのお供の計五人だ」
「おお! ドラゴンが三体も!? さらに勇者様までとは!」
周りにいる幹部達が騒ぎ出す。グアードも予想外の戦力にその難しげな顔にも緩みがある。
「静粛に! それならば話は早い。我々は我々で、王都を守護する。そちらはそちらで、思う存分暴れてもらっても構わない。何せ相手は人間ではなく人類の敵たる魔王の手先なのだ。もちろん当の魔王は既に滅ぼされているが、それでも残党軍も同じ扱いをするのは当たり前だろう」
「その通りだな。それともう一つ話があるのだが……」
と、あの魔族のことを伝える。
「もうそこまで手を出していたとは恐れ入ります……いや、恐れ入る。こほん、ならば身柄はこちらで預かっても? 神官の魔法で束縛及び尋問を行えるか神聖教会に話を通してみようと思うのだが」
「わかった。誰に渡したらいい?」
いまアイツは、ルビちゃんの尻尾の先で釣り餌のようにぶら下がっているはず。
「取り敢えずは、一旦身柄を王城にある魔物管理用の檻で預からせてもらおう。その後正式に、教会に働きかけるとする。王城にも詰めている神官はいるゆえ話をすれば理解は得られるはずだ」
なるほど、俺の『浄化の光』を実験した時のアレか。確かにその時に魔物を何体か使用したため、檻に空きが出ているはずだ。そこでひとまず神官や兵士に見張を任せ、のちに移送するわけだな。
「んじゃあ今から呼ぶよ」
「呼ぶとは?」
「ああ、ドラゴンの一体に管理を任せているんだ」
「そうなのか。随分と親しいようだな」
「まあ色々あったんだよ。深くは突っ込まないでくれ」
そうして周りが魔王軍残党に関して意外にも様々な話題について話を続ける中、ルビちゃんに念話を送る。
「ルビちゃん、いまから魔族を連れて来られるか?」
「<ん、わかったのじゃ! どこじゃ?>」
「えーと、取り敢えず城の中庭に頼む」
「<了解したのじゃ! では>」
そして数人の兵士をつれて中庭に転移をし、数分もすると、赤いドラゴンが降り立ってきた。
「<ほい、こいつじゃな>」
「ああ、ありがとうルビちゃん。それじゃあそろそろ、暴れていいぞ」
「<本当か! ぶっちゃけ、我慢の限界だったからの。遠慮はせぬぞ?>」
「大丈夫だ。何体殺しても誰も怒らないし、むしろ褒められるぞ」
「<ならば余計とじゃの! また後でなヴァンよ>」
「おう! 俺もすぐに合流するよ!」
そして再び飛翔するドラゴンを見送り、その場に残されたダルマ状態の魔族を見定める。
「さて、ついてきてもらおうか」
口にはめ込んでいた石の枷をはずす。うぇええ、ベタベタして気持ち悪いぞ……
「な、何をする気だ?」
「別に、俺は知らない。一言言える事は、命の保証は全くできなあということだ」
「な、なんだとむぐっ」
騒ぎ始めそうな気配を感じたので、再び石を突っ込んでやる。
そして牢代わりの檻まで同行し、こちらにも念のため投げ出さないように障壁を展開して、俺も空や地上から魔物や魔族の討伐に加わり始めた。
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