第165話

 

 しかし、ずっと同じことをしてもラチが開かない。

 再生するというならば、最初からバラバラに切り刻んでしまった方が効率が良さそうだ。


「みんな、手分けして攻撃してくれないか? 先ずは、身体中を個別に破壊してしまおう!」


「なるほど、その部位をヴァンが貫くのね!」


「おう。これだけ大きな生物なんだ、核があるとすれば、それ相応の大きさになるはず。スラミューイの時はベルの身体に入り込んで潜むほどの大きさだったが、こいつならばそれ相応の大きさがあるだろう」


「<なるほど、では早速!>」


「<あ、お姉ちゃんっ、先走らないでよ全く>」


「!? グギェェェエ!」


 俺がこう説明すると、ルビドラがさっそうと滑空し、右腕にかぶりついて引きちぎってしまう。


「<おい、早くせんか!>」


「あ、おう!」


 そしてペッと吐き出されたナマモノを、彼女はそのまま黒焦げに燃やしてしまう。そこに俺は『浄化の光』を切り口から縦に貫いた。


「むっ、ハズレだ!」


「<えいっ! 気、気持ち悪い……ぺっぺっ>」


 サファドラも嫌がりながらも同じく左腕を千切り、犬肉の切り落とし(炭)を製作する。うーん、ハズレだ。


「グオオオン!」


 怒り狂った怪物は、そこで再び暴れ始める。尻尾を振り回し、口から瘴気のような黒い霧を吐き出した。


「むぐぐぐく!? むーー、むーーー!!」


「ん?」


 俺たちは当然それを避けたが、近くの空中に放置していた拘束している魔族に掛かりそうになっていた。俺は慌てて障壁魔法を張り、霧から守ってやる。流石にここで死なれたら困るからな。傷口は止血してあるし、魔族の方が人間よりも基本的なステータスは高いので後はこのまま放置しておいても大した問題はないだろう。


「めんどくさい攻撃だ」


 俺は、風魔法を使ってその霧を吹き飛ばす……のではなく、逆に中心に凝縮するようにして集め、そのまま怪物の口の中に戻してやる。


「グオッ!? ガ、ギギギギ、ガ」


 すると、戻したその右側の首が、口のあたりから徐々に壊死し始めてしまった。


「なんじゃこりゃ、魔族の魔弾と同じようなものなのか」


 実験程度の感覚でやったお返しであったが、ジタバタと苦しむその怪物をみてさっさと首を切り落とすことにする。

 残った左と真ん中が驚いて隣の首を眺めているが、アイツラそれぞれが独立した意思を有しているのか? 本当に奇怪な生き物だ。


 眺めている二本の首は、その直後に俺の斬撃によって切り落とされる。先ほど攻撃した時には死ななかったので首ではないだろうが一応燃やしてもらい、続いて串刺しにする。が、生首はなんの反応もしない。


「後は、やはり胴かしっぽか?」


 手にないなら、足も確率は低そうだ。と、本命である腹を掻っ捌く。同時に、パライバくんグループが三番の尻尾を切り落としてくれた。そこに、更にドラゴン三体が炎を吹きかけ消し炭に変える。


 尻尾を串刺しにして回収した後、そのまま腹に突き刺す。が、どちらも反応はない。


「!!!、!!、!!!!」


 首がないため声を上げることができない怪物が、暴れてどうにか敵を退けようとするが。腕も首も尻尾も無いので、攻撃手段が尽きている。俺は最後のとどめにと、切り裂いた胸のあたりだろうところに光を差し込み、グリグリと動かしまくる。


「ないぞ? 本当にどこなんだよ」


「<おい、どくのじゃ!>」


「え?」


 ルビドラから指示された通りに大きな首無しトカゲから離れたら、三体のドラゴンが、残った胴体と足を丸焼きにしてしまった。

 そしてそのまま干からびた炭へ変わったところに刺すよう催促してくる。


「ありがとう、くらえ、今度こそ!」


 大分薄くなった胴体を、首の方から差し込むようにしてつらぬき、光を伸ばしてそのまま横薙ぎにしてやる。消炭がウネウネと動いているのは、まだ再生しようとしているのか? どれだけしぶといんだコイツ!

 すると、何度目の正直かようやく手応えを感じ、腹側から伸ばした光が飛び出す。と同時に、消炭が動きを止めようやっと完全に静止した。


「おっ! 当たった!」


「や、やったの?」


「わからんっ」


「<念のために、肉体の破片を集めてもう一度刺しておきましょう>」


「そうだな」


 サファドラの提案通り、地面に落ちた六本の首と三本の尻尾。それに腕と胴体を纏めて二度焼きしてもらった後、『浄化の光』でザクザクと針千本の刑に処してやる。まあ当然実際使ってるのは俺が両手に伸ばす二本だけだが。


「…………手応えはない。やはりさっきので完全にやっつけられたようだ」


 怪物の死体は、スラミューイの時のように灰にまではなっていないものの、真っ黒焦げの原型が辛うじてわかる程度の物体へと変わり果てた。これだけ攻撃したのだから、流石におしまいだろう。


「…………なんだか、締まらないわね」


「ですね」


「<なんか盛り上がりにかけるよ>」


 パライバ組が呟く。が、スラミューイのように激しい戦いになったりしたわけではないので、こんなものだろう。ひたすらチクチクと攻撃していって、ただの作業みたいになってしまったせいも大きい。だが安全かつ確実に退治するにはこれが一番のはずだ。それに俺一人でさっさとやっつけるのではなく、みんなにきちんと倒せましたよという証人になってもらえたし。


「<みなさん、ともかくこちらはもう終わりにして、早く街に戻りましょう>」


「<んじゃな、まだ残りの魔物がどこかに潜んでいたりするかも知れん>」


「確かに、その通りだ。急いで領都に戻ろう!」


 おっと、念のために死体は回収しておこう。放置してなんかあっても面倒くさいし。


「おっ? なんだこれは?」


 魔物や魔族たちは、相変わらず侯爵領都を取り巻くようにしてじっとしていた。


「<なあ、さっさと残りのやつも片付けた方が良いのではないか?>」


「ん、ああ、その通りだな」


 怪物と戦っていたのは、時計で確認すれば体感よりもずっと短い十分程度のようだ。敵のほとんどがこちらをみているのを分析する限り、大半のものはおそらくは俺たちの戦いに意識を取られていたのだろう。

 隙を狙って攻撃したものも当然いたようだが、それは領都内に詰めている兵士がきちんと片付けていたようだ。そもそも八割程度を俺達が殺したせいで残敵は最初の二割ほどに減ってしまっていたし、これ以上俺たちが介入しなくてもどうともなるだろうぐらいには戦力差が出来てしまっているように見受けられる。




 さっきちょろっと話を聞いたら、ルビちゃんが相手をしていた犬は、おれのこうげきによって逃げ出したので、それをみた彼女は深追いをせずにこちら側の敵をひたすら倒していたみたいだし。それが図らずも、先ほどの戦闘へと発展したようだな。




 だが、ここはきちんと最後まで手伝うべきだろう。というわけで。


「ルビちゃんイアちゃんは、このまま周囲にさっきの犬みたいに逃げたり潜んでいる敵がいないか確認。ベル達は、残敵をいっしょに倒してくれるか?」


「<しょうがないのお、引き受けてやるのじゃ>」


「<お姉ちゃん上から目線すぎっ!>」


「<あいたっ>」


「お任せください」


「私も、微力ながら手伝うわ」


「無理するなよ?」


「大丈夫よ」


「<ベルさんは僕が守ります!>」


「ん? そうか、仕方がない。たまには任せてやるか」


「<ふんっ、最初からそういう態度をうげえっ>」


「<パラくんも、ダメでしょう! 全く二人ともどこか似たもの同士なんだから>」


 ベルを連れて戦うのは正直辛いものがある。本人は大丈夫だと言い張っているが、いつまた怪我をするやも知れないし、そうでなくとも安静しておかなければならない状態に変わりはないのだ。ここは、パライバくんの背中の上にいておいたほうが、まだ安全だろう。それに、アルテさんもここまでの戦闘ではだいぶお強い様子を見受けられたからな。


「んじゃあ、残りもさっさと片付けてしまいますか」


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