第99話 ※試験的に第三者目線で書いています


<――――地球ではあの瞬間、私たち以外の三人目が死亡したのよ>


「あらあら、ベルちゃんったら遂に言ってしまったのね」


「どうしたのだ、ドルガよ……」


「これは、マキナ卿。このようなところにわざわざお越しいただかなくてもこちらから出向きましたのに?」


「なに、老いぼれは身体を動かさなくては余計と寿命が縮んでしまうからの。ボケるのは嫌じゃわい」


 見目麗しい妙齢の女性と、見るからにヨボヨボの老人が会話をしている。


 女性は、『神樹の血』に派する両親のもとに生まれ、若くしてその才能を見定められ以降『泉』の世界の一つ、『ドルガ』を任されている女神ドルガドルゲリアス。


 老人は、主神の直属の部下として神界を統治する十二神の一柱である調律神マキナ。その見た目からはもはや男女の境を見分けることはできなくなっており、"老神マキナ"と呼ばれるその立場から如何に長い年月を過ごしてきたかが窺える。


「実は、私の世界の"水差し"が、カオスの一柱と接触し神界について話を聞いているようなのです。"器"の方も一緒になって色々と吹き込んでいるようですね」


 女神は、頬に手を携えながら丸い鏡のようになっている水面を覗き込み、その光景を確認している。


「ほう、ついに動き出しおったのか」


 老神は無表情に徹しており、その感情を窺い知ることはできない。


「みたいですねぇ。ベルちゃんももう少し我慢してくれたらいいのに……カオスの存在は必ず神界を脅かす、その前に出来うる限り懐柔しなければなりません。ですが勇者へ直接働きかけるとは、少々お痛が過ぎるようです」


「ならばどうするというのか?」


「決まっています。邪魔はさせません。私たちの計画も既に煮詰まっています、大事なところなのに中途半端に邪魔をされては困りますから」


 女神は顔を上げ、キリリと顔を引き締める。


「……少々の犠牲もやむを得ないか?」


「不本意ではありますが……越えさせてはいけないラインがありますゆえに」


「ならばワシは目を瞑ろう。神同士の戦闘は御法度、貴殿はこの場で泉のことをずっと監視しておった、そうじゃな?」


 老神は杖を持ち上げ、その先を突き出し女神を覗き込むようにして片目を大きく開く。


「ご迷惑をおかけいたします」


「かまわん、ワシにできることは粛々と計画が遂行するのを見守るだけ。もう少し、もう少しの辛抱なのじゃから……」


「はい、そうですね。あと少しなのに……では行って参ります!」


「うむ、気をつけての? 相手も若い神とはいえそれなりの力を有しておるぞ」


「ええ、ありがとうございます。ですがそのような心配は及びませんわ。私を誰だとお思いですの?」


「かかっ! そうであったそうであった、これは失敬」


 老神は大笑いする。


「では今度こそ」


 女神は、その鏡をまたぐようにして中に飲み込まれていった。


「…………ドルガよ、頼んだぞ」


 老神……調律神マキナはそう呟くと、杖を構え半透明のドーム状の膜を展開する。


 それと同時に、神界の一部分は大爆発を起こし消しとんだ。















「おや、こんなところになんのようだい〜?」


「下級神グチワロス! 大人しくしろ!」


「なんだい急に、物騒だなぁ」


 大福のような楕円に見える三角形の頭を持ち、そこに幼児が粘土をこねたような胴体がくっついている体をもつ神は、たくさんの武器を構える者たちに取り囲まれつつも落ち着いて言葉を返す。


「しらばっくれるな! 女神ドルガドルゲリアスからの通報により、そちらからのNO.0019252への干渉を認めた! 大人しくしろ、さもなくば裁判を経ずとも処刑する権限を我ら治安院は与えられているのだぞっ」


 代表と思わしき者が、グチワロスの頭にくっつくくらいまで武器を突き出し脅しをかける。


「ああ、そうだったねえそうだった」


 グチワロスは、ちゃぶ台に置かれた湯飲みを手に取って呑気にズズズと音を立てる。


「き、貴様、状況が分かっているのかっ!?」


「わかっているよ〜、今から僕は捕まるんでしょ? でもそんな慌てなくてもいいじゃない。君たちが今しているのは、一分一秒を争うほどの仕事なのかい?」


「我らを愚弄する気か? 神界の治安を維持するためには対象がいかなる神であろうとも同様に厳しく対処するのみ。それに時間の問題ではない、貴様のした行為が問題なのだ! さっさと我らと共に来るのだ」


「んん〜〜〜、それは出来ないかなあ」


「!! なんだとっ!?」


「だって、これは僕一人でやったこと・・・・・・・・・だからさ。今ここで処刑されようが、裁判にかけられようが、結果は同じ、どの道擁護するような人たちもいないし、死ぬ間際くらい好きなことしていたいよね〜って話」


「つ、つまりは今ここで殺されてもいいと、そういうのか?」


「まあね」


 グチワロスはよっこいしょと畳に手をつき立ち上がる。


「それに、裁判って言っても、開廷するまで捕まっている間に色々尋問するんでしょ? でも無駄だよ。本当に僕一人でやったことだし、話すこともなにもないからこっちにとってもそっちにとっても、時間がもったいないだけじゃない。それにそもそも君達くらい、僕一人で片付けられるし」


「!?!?」


 すると瞬間、六畳一間の空間を光が満たした。














「なんだって? トラック事故で三人目の死者が?」


 少年は、今日何回目か自分でもわからないほどの驚きの表情を浮かべる。驚きすぎて反応が薄くなっているほどだ。


「そうよ。そしてその三人目は私たちと時を同じくしてこの世界へと転生した。じゃあいったい誰なのか? …………あなたのよく知っている人なんだけどね」


「俺の?」


 少女はその柳眉を斜め三十度に釣り上げ、一大決心したように深呼吸をし次の言葉を紡ぐ。




「それは、ここファストリア王国の第三王女、エンデリシェ=メーン=ファストリアよ」




「え、エンデリシェ様が!? て、転生者だったって!?」


「ええ、嘘ではないわ。本当に彼女は、地球のそれも私たちと同じ高校の生徒だったけれど、この世界に生まれ変わったのよ」


「様々な思惑が重なった結果、不幸な人間を生み出してしまったのだ。ドルガが余計なことをしなければもっとスムーズに事が運んでいたはずなのにっ」


 弓を背負った別の少女がイラついた口調でそう呟く。


「今更言っても仕方ないことよ。むしろ私たちに言わせれば、無理な計画を無理なタイミングで無理やり実行しようとしたあなたたちの方こそ非難されるべきだと思うけど?」


「なんだと?」


「お、おい、二人とも今は言い争うのはやめてくれ。ただでさえ話を整理し切れないのに」


「ご、ごめんヴァン。じゃあ続けるわね。それでね、私がこれらの話を知っているのは、死ぬたびにドルガ様とお話をしていて、だんだんと仲良くなったからなの。今ミナスと私が話したことに、それ以外にもまだまだ神の世界の仕組みや人間の扱われ方など様々なことを教えてくださったわ。そのおかげで私も色々考える機会を得ることができた。普通は、勇者って死んだらそのまますぐに生き返らせるのだけど、私の場合はなぜか、その魂が自分の母性反応をくすぐるからって理由で懇意にしてくださったわ」


「あっ、それってもしかして」


 少年は何故か後ろめたそうな顔をする。


「何か心当たりが?」


「あ、いや、別にっ!」


 慌てて両手を振りかざして否定するが、怪しさ満点だ。


「そう? 心当たりがあったらなんでもいいから言ってよね」


 少女はそれを見てなんとなく察したようだがあえて突っ込まずに話を続ける。彼は彼女から後でどのような報復を受けるのだろうか?


「はい」


 と、少年が返事をしたその時、




 部屋の中を神々しい輝きが包み込み、一人の女神が顕現した。


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