第81話
「ふう。残念ながら、生き残りの方はいらっしゃらないようでしたね」
「……そう……だな」
「ヴァン……元気出してっていうのはちょっと酷かもだけど、まだまだやらなきゃいかないことが沢山あるわ。亡くなった方達のためにも、今できることを粛々と進めましょう」
「あ、ああ。そうだよなエメディア。うん、がんばるよ」
火葬が終わった後、村を改めて見て回ったのだが、声かけに返事をする者はおらず、また瓦礫の隙間などにも誰も見当たらなかった。そのため生存者の捜索は打ち切りとなった。
地球ならば一軒一軒重機で云々と時間がかかる捜索活動も、魔法の力があればすぐに終わる。なにせ魔法で残骸を持ち上げればいいのだし。それが余計と作業の虚しさを加速させていた気もするが。一つ呼吸をする間にも希望がどんどんと薄れていくのは辛いものだな。
「ふう。なあ、ルビちゃん、ここから王都までどれくらいで飛べる?」
「え? 何かするのじゃ?」
ベル達が寝かされている場所へ戻り、ドラゴン族の少女にそう訊ねてみる。
「ああ、できれば俺達をあそこまで運んで欲しいんだ。ベルが気を失っている以上転移魔法は使えないし、かと言ってここでじっとしているわけにもいかないしな。一度村から離れて王都へ報告しなければならないことが多すぎる」
「行った後どうするのじゃ?」
「俺はひとまず陛下に一部始終をお伝えできればと思うのだが……母さんも今は臨時領主代理だし一緒に行った方がいいだろう」
「僕はどうしましょう」
「ドルーヨは俺が王城へ着いた後、エメディアと一緒にベルとミュリーをジャステイズ達のように神聖教会本部へと連れていってあげて欲しい。勇者パーティの仲間がこれだけ集まれば、向こうも多少経費がかかっても無碍にはしないだろう。使えるネームバリューは遠慮せずに使えばいい」
「わかりました、お任せください。あそこまで運ぶことができればもう、大切な彼女様はきっと元気になりますよ」
「すまない、ありがとう」
ドルーヨは笑顔を浮かべ、俺の気を紛らわせるためにかちょっとふざけた物言いをする。
「私も王城に……緊張しますけれど、これも臨時領主代理としての務めですよね。あの人の為にも村の再興を出来るか色々と手を尽くさないと」
お母様も少しは立ち直れたようで先ほどよりも顔色がマシになってきている。俺の倉庫魔法から簡単に食べられる料理などを渡して食べさせたおかげもあるかもしれない。
「それじゃあルビちゃん、頼む」
「わかったのじゃ」
そうしてルビちゃんはルビードラゴンへと変身する。
「こう間近で見ますと、すごい大きさですね」
お母様は驚いたようにその巨体を見上げる。
「<さあ乗るのじゃ! 早く向かおうぞ!>」
「ああ、よろしく」
俺はベルの体を持ち上げ、尻尾伝いに背中に乗ってゆっくりと下ろす。ミュリーはドルーヨが運び、エメディアがまだ乗り慣れていないお母様に手を貸す。
そうして総勢六名を載せたドラゴンは、翼を羽ばたかせ宙に浮くと王都へと高速飛翔し始めた。
「ひゃあっ! すごい速さねっ!」
お母様が身を乗り出し地面を見下ろしながらそう叫ぶ。
「まあな! これでも一応は最強のドラゴンの孫らしいから、身体能力も高いんだとよ!」
「<一応とはなんじゃ一応とはっ。お主ら振り落とすぞ?>」
「ごめんごめん」
ルビードラゴンは魔力の膜の応用で、俺たちに風が当たらないようにしてくれている。なので空での高速移動も快適な旅路となっているのだ。
こうしている間にも、一週間かけてやってきた土地をどんどんと逆戻りしている。目が回るような景色の変わり映えだと言うのに、お母様はよく平気で眺めていられるなあ。
「そういえば、スラミューイのやつから結局情報を聞き出す角が出来なかったな。すまない、俺もカッとなってしまって。ルビちゃんのことを悪く言えないな」
「<本当じゃ! じゃが、あやつは我でも見たことのない存在じゃった。下手に情けをかけて被害が拡大するよりはまだマシじゃろう。しかし我が損をしたのも事実、後でたっぷりとお詫びの印を見せてもらうぞ?>」
「はいはいベルちゃん。なら私がなんでも奢ってあげるわよ」
「<な、なんでもじゃと!?>」
ルビードラゴンの背中を撫でるエメディアがそんなことを言うと、興奮した様子で念話の音量を大きくする。ちょっ、流石に頭が痛いぞ……!
「ええ。でもまずは私たちのことをしっかりと届けてね?」
「<もちろんじゃ!>」
そういうと、その運行速度をグンと上げる。一瞬衝撃がきたため、皆ひっくり返りそうになった。び、びっくりしたあ。
「話を聞けなかったのは確かに残念だけど、それでも気になる単語がいくつかあったわ。これだけでも陛下に伝える意義はあると思うわ」
「ですね。僕も商会網を使って似たような事件がどこかで起きていないか、また魔族が潜伏している場所がないか捜索を強化させます。まさか人間に化ける者がいるなんて、おちおちと商談もしていられませんね」
ドルーヨの言う通り、今回の件で奴らは人間の生活圏内にすら忍び込めることがわかった。早く魔族をどうにかしないと、人間の世界がますます脅かされたままになってしまう。
魔王を倒したら終わり、そんな絵本の中の出来事のようにうまくはいかないものだ。物語には『書かれていない続き』というものがあり、それは大抵ロクでもない。
そしてもう一つ気になるのは、カオスという存在。もしかして彼らはスラミューイが言っていた『元老院』に関係あるのか? それとも魔族とは全く別の存在で、実はこの世界はもう既に三つ巴の争いに巻き込まれているのか?
早く解明しなければならないことが多すぎるが、カオスに関しては魔族とは違い探し出しても現れないが、こちらが求めていない時にやってくる。先が思いやられるな。
そして1時間もし、そろそろ朝日が上りきる頃になるかという具合で、ルビードラゴンがスピードを落としたのを感じると同時に王都が見えて来た。
「もうすぐのようですね。まずは王城でいいんですよね?」
ドルーヨが聞いてくる。
「ああ、本当はベルのことを直接預けたくはあるが、そうすると後髪を引かれそうだ。ここはきっぱりと自分の仕事をしてくるよ。だから頼んだ」
俺はベルの頑張った分も合わせて成すべきことをなす。伝えるべき情報はしっかりと伝え、今後の道筋を建てなければ。
「お任せください」
「任せて。ジャステイズやミュリー、デンネルの働きもきちんと報告しておくのよ。勿論私たちのもね?」
「わかっているさ。お母様を助けてくれて本当にありがとう、改めて礼を言わせてもらう」
「私からも。どうもありがとうございました、皆さん」
親子揃って頭を下げる。
「いえ、ヴァンのお母様がしっかりした方だったからこそ、私たちも助けることが出来たんです。世の中にはちょっとしたことで騒ぎ立てる貴族も大勢いるというのに」
この前の公爵のようにな。
「私もあのような土地で暮らしていますから。街に住む貴族のような贅沢は言っていられませんよ。それに、あの人と村人たちとの暮らしで十分でしたし。今はもう戻ってくるものではありませんが……ですがその最期を私は報告をする責務があると感じておりますので」
「お母様……共に頑張りましょう。俺もいます、一人で何でもかんでもやる必要はありません。人脈、財産、地位。使える物は、こういうときこそ消費していくべきですから」
「ありがとう、ヴァン。頼もしい息子で嬉しいわ」
「いえ、俺なんてまだまだですよ。お父様の分も、少しでも働かなきゃですからね」
「うふふ、頼りにさせてもらうわ、次期当主様」
俺とお母様はそれぞれの片手を握り合う。
「! さあもう着きますよ……と、あれは?」
「<なんじゃ? ドラゴン??>」
いよいよ、王都目前へと迫り。後は王城の中庭に着陸すればというところまで来たのだが。
ドルーヨが指を刺す先には、王城の周りをぐるぐると飛び回る一匹のドラゴンのすがたがあった。
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