第79話

 

 >威勢だけは良いですねェ。その余裕もいつまで保てることやら。さあそれでは、さっさと死んでくださ〜ィ!<


 オブジェスラミューイは再び腕を使い攻撃してくる。今度は俺に槍の形をしたものを、ベルにはワーム状の三百六十度トゲがついた口を繰り出してくる。


 >ヴァン様ひどいです、やめてください<


「ふっ、同じ手はもう食らわない!」


 その槍状の腕を今度はソプラの顔に変えてきたが、俺は無視をし腕を踏んづけてひとっ飛びにヤツの頭まで向かう。


 >なっ!?<


「いけえええっ!」


 そして『浄化の光』を、頭のてっぺんから足元にかけて真下に突き刺し、その長さを地面に突き刺さるほどまで伸ばした。


 >グギエエエエエ!! ナ、ヌァヌィウォオオ!?<


 慌てて両腕とも俺に振りかざしてくるが、左腕に出現させたもう一つの『浄化の光』によって一辺に切り飛ばしてやる。

 スパリとつっかえるなことなく切れた腕は、そのまま地面へと落下しベチャリと不快な音を立てる。


「ヴァン、やったの!?」


 頭から飛び退き後方の地面に着地した俺にベルたちが駆け寄ってくる。


 >グキエウォエエエエガグウォォォオオ!?<


 意味不明な言葉を発しながら苦しむオブジェスラミューイ。そして数十秒もすると、動かなくなってしまった。


「……おわった、のですか?」


 ミュリーがステッキを握りしめながらポツリと溢す。


「分からないわ。ヴァン、もう一度切ることはできる?」


「ああ、わかった」


 俯き猫背加減で静止するソレに向かって、もう一度光を突き刺す。今度は腰のあたりから横になぎ払うように攻撃したため、その上半身が地面に崩れ落ち、その衝撃で下半身も大きな音を立てて後ろへと倒れた。


「……何も言ってきませんね、や、やりましたよねこれは!」


「ええ、ようやくやっつけたんだわ。恐らく村の人達全員の命と引き換えにだけれども……残念だわ、こんなことになるだなんて」


「だな。きちんと弔ってやりたいが……エメディアたちの様子も気になるな」


 せめて母さんだけでも、怪我もなく無事でいて欲しいものだ。昨日偵察した限りでは何か事情があったのか盗賊たちからは酷いことをされている風には見受けられなかったが。


「マダ、オワッテ、イマセンヨ……!!」


「えっ!?」


 しかし、そう話をしているうちに。肉塊の一部がゴソゴソと動いたかと思うと、その周りを吹き飛ばすように中から真っ白な丸い球体が飛び出した。


「い、生きているのかスラミューイ!」


「ゲンロウイン、タル、ワタシガ、コノテイドデ、クタバルト、デモ? フフフッ、アサハカナッ!」


 目も口もない直径一メートルほどの球体は、先ほどまでのふざけた調子とは違い平坦で無機質な声をだす。やはりスラミューイのようだ。まだ生きていたとは、なんとしつこいやつなんだ!


「クラエ」


「あっ」


 シッ!! と球体から目にも留まらぬ速さでナニカを突き出したヤツは、ソレをベルの胸元へ突き刺しやがった。高速で突き刺し高速で引き抜かれたため、俺たちは誰も対応することが出来ず、彼女の胸元から遅れて大量の血が吹き出す。


「!!!?!? て、てめえええええ!!!」


 俺は目の前が真っ赤になると、浄化の光を出し、我を忘れたように連撃によってその肉体をバラバラに切り刻む。


「ギャアアアアアア!!」


「あああああああああ!!」


 そして火の魔法により残骸を消炭が見えなくなっても焼き続ける。


 ……しばらくしてようやく我に帰ると、スラミューイの浮かんでいた場所は地面まで真っ黒コゲになっており、その姿は今度こそ跡形もなく焼失したようであった。


「……ハァッ、ハァッ」


 肩で息をするくらい上がった呼吸を整え、冷静になると。


「!! べ、ベルは!?」


 後ろを振り向き、その姿を確認する。と、ミュリーが懸命に治療をしている姿が手に入った。


「す、すまない! スラミューイの方を優先してしまったようだ」


「い、いいえ、追撃を防げたので、良かったと思います。それよりも、彼女を、早くどうにか、しないと」


 逆にミュリーの方が息が上がっており、かなりの魔力を使用しているようだ。


「き、きずが、塞がらないんです、どうして、どうしてなの!?」


「えっ!?」


 ミュリーの言うとおり、回復魔法をかけ続けているにもかかわらず、塞がった傷が逆再生するかのようにまた開き、かと思えばまた塞がってまた開き、と。今は彼女の魔法で無理やり状況を保ってはいるが、少しでも手を抜けば先程の血の勢いだとすぐに出血死してしまいそうな状況だ。


「……イチかバチかやってみよう。俺が『浄化の光を』突き刺してみる」


「! もしかしたら、先程の攻撃でスラミューイが何か仕掛けていたのかも知れませんね!」


「ああ、俺の光は本来は対象を傷つけるんじゃなくて元の状態に戻す力だと考えている。だから何か悪い影響が体に現れているのだとしたら、それを取り除くことができるかも知れないからなっ」


 人体を直接切ったとしても、その体を傷つけることはない。なので怪我をしていても大丈夫だろう。


「お、お願いします!」


「ああ! 頼むぞ、俺っ……!!」


 そして出現させた光を、ベルの胸元に向けて突き刺す。


 すると、パリンという音を立てて何かが破壊される感触がした。


『ギョウェェェ!! ク、クソッ、ニンゲンドモメエエエェェ!! ワレラマゾクハカナラズ、カナラズゥゥゥゥウウウ!!』


「スラミューイ!? まさか、ベルの体にスラミューイ自体が侵入していたのか?」


 どこまでしつこいやつなのか。今聞こえた悲鳴は間違いなくヤツのものだろう。ベルを乗っとるつもりだったのか?


 ゴキブリ並みのしぶとさだ。俺の力が効いてくれて本当に良かった。


「ヴァン様っ、見てください!」


 すると、ベルの胸に空いていた傷が、今度こそ塞がっていく。そして、ようやくその跡が見えなくなった。


「……ふわぁ……」


「おい、大丈夫か?」


 ミュリーはベルの傷が治るのを見た瞬間、気が抜けたのか魔力を使い果たしたのか、地面に倒れそうになる。俺は慌ててその体を支えた。


「え、ええ、すみません。継続回復魔法をギリギリの最大出力でかけ続けていたので、少し魔力を使いすぎたようです……いえ、神に祈りを捧げなくては。そのお力をお貸しいただいているのに不快でしたね」


 とミュリーは顔を青ざめさせながらも笑う。


「とにかく一旦横になって。ルビちゃんたちが帰ってくるまで俺が見張りをするよ」


「すみません、よろしくお願いします」


 そして彼女を地面に横たわらせるとすぐに意識を失ってしまった。俺がそんな二人を見守りながら数分後。


「ただいま三人とも!! あれ、なにこれ!?」


「なんということでしょう、これは想像以上の凄惨な光景ですね」


 エメディアとルビちゃん、ドルーヨの三人が思ったよりも早く帰ってきた。ルビちゃんはルビードラゴン形態となっており、その背中に二人が乗っているかたちだ。そしてもう一人。


「ヴァン! ヴァンなの!?」


 数年ぶりにその姿を見るお母様は、記憶にあるそれよりも少しやつれていらっしゃる。が、ご健在なようできちんと自分の足で歩けている。ああ、良かった……


「お母様っ、お久しぶりです! ご無事でよかったっ」


 ルビードラゴンの背中から降りたマリアお母様とお互いに抱きしめ合う。


「貴方もですよ、ヴァン! 本当に良かった。私もあの怪物の姿を見てひっくり返りそうになりました。それで一体なにがあったのですか? それに、この村の様子は一体……」


「ですね。僕たちも森の中で婦人を助け出してこれから帰るという時に不気味な怪物が現れるのが見えて。そのタイミングで潜んでいた盗賊の残党を急いで討伐し、こちらに向かってきたのですが」


「見たところなにかの肉片のように見えるけど……まさか、魔物が現れたの? それともあのスラミューイとかいう魔族が何かした?」


「我も見たことのない生き物じゃった。まるで無理やり肉をコネて作った人形のように見えた。森の方まで死と血の匂いを感じたぞ? 我の最悪な想像が杞憂だといいのじゃが」


 お母様とエメディア達は、村に散らばる肉塊やらを見て顔をしかめる。


「ああ、実は……」


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