第60話
「それで、このドラゴンはどうするつもりなんだい?」
ジャステイズの言う通り、取り敢えず首輪を外して元の状態には戻ったが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
今はなぜかおとなしいが、飼い主がいなくなり野生となったドラゴンの調教方法なんて知らないし。そもそもどうやってこんなの捉えたんだよ、公爵の人脈がきになるな。
ベルが転移させるにも魔法は使えないんだし、やはりもう一度戦闘して殺してしまうしかないのか……?
「そうだわね、追い込み漁の逆みたいに、逃すために少しずつ遠くへ行くよう戦闘して誘導するとか?」
「目的を達成する前に我らがくたばりそうなのである。正直、辛い」
「魔法使いの私にはドラゴンに対して有効となる直接戦闘能力はないわよ、老齢竜の時に一番迷惑かけたのは私なの分かっているから」
「僕たちが死んでしまったら、困っている人たちを助けるのが遅れてしまいますしね。それに商会を置いて死ぬわけにもいかないことですし」
皆、戦闘には消極的なようだ。
「はあ、ドラゴンさんももう少し小さければ可愛いですのにね……」
そして続くようにミュリーがポツリとそう呟くと。
「<我は十分可愛いのじゃ!>」
「「「「!?!?!?」」」」
いきなり小さな女の子が喋っている声が聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
「誰だ!」
「ヴァンっ」
「ああ」
「こ、今度は何よ」
「どこから声が?」
皆で武器を構えつつ、声の発信元を見渡し探す。
「<ここじゃ、ここ!>」
「え?」
どうなってるんだ?
よく聴いてみると、その声は頭の中に直接響いているようだ。場所を言われた所でどこから喋っているかわかるわけがない。
「えーい、ここだといっておろうがああかああ!!! グガギャアアアア!」
「うわああああっ」
「ヴァン!!」
ドラゴンが立ち上がり叫ぶものだから、背中で武器を構えていた俺たちは頭から地面に投げ出されそうになる。
しかし、ベルが咄嗟に転移魔法を使って少し離れた地面に連れて行ってくれたため、ことなきをえた。
「しゃ、喋ったあああああ!?」
俺は驚き、思わずどこかの企業のCMのようなことを言ってしまう。
だが周りの皆んなは手品の種明かしをされてそんなものかと思ったふうな顔をする。え? 驚かないの?
「どうしたんだヴァン、そんなに叫んで」
ジャステイズが逆に俺に驚いたふうに声をかけてくる。
「いやだって、ドラゴンがしゃべったんだぞ!? 普通は誰でもびっくりするだろうが!」
「えっと……そうか、君は老齢竜に出会ったことがないのだから知らなくて当然だった、すまない」
「老齢竜というと、皆んなが、戦ったっていうあの?」
確か、倒すことができずにむしろ向こうから見逃してくれたと言っていたはずだ。
「そうよ。あの時は流石に私たちも驚いたけど、今回は分かっていた分すぐに喋れることを納得できたわ」
「恐らく、ドラゴン族は本当は喋ることができるんだと思います。ただ、なんらかの理由で人の前で声を出すことが滅多にないのでしょう」
ドルーヨが考察を述べる。なるほど、そういう種族ってことか。生き物が喋るなんて当たり前だがこいつが初めてだ。侯爵の時は侯爵が元になったオーガもどきだったしな。
「おいまていっ、何を勝手に喋っておるのじゃ!」
ぶふぉー、と鼻息荒くドラゴンが再び喋る。
「こ、こんばんは」
「どうも……」
赤い鱗をしたドラゴンは、ジタバタと駄々をこねる子供のような仕草をするが、俺たちはどう応対したら良いかわからずに、顔も知らないOBが部活訪問した時の高校生みたいな返事をするにとどまる。
「ああ、こんばんはなのじゃ! …………じゃなーーーーい! 何を普通に挨拶しておるのじゃ? こう、もっと驚くことがあろう。なぜ喋っているのかとか、俺たちに何か用があるのかとか、そもそもさっきの頭の声はなんなんだ!? とか!」
「まあ、確かに」
実は余りにその声が若々しく、というか完全に女子小学生くらいの子の声質であるので、雰囲気が弛んでしまったのだ。
「ドラゴン様、無礼をお許しください。私たちにどのような用がおありなのでしょうか?」
率先して、ミュリーが話を聞く。こういう時は彼女の話し方やオーラは相手を刺激しにくいので助かるな。
「うむ、苦しゅうないぞよ。まず一つ、此度の行い、礼をさせてもらおう」
そうしてドラゴンは、頭をゆっくりと下げる。
「我を苦しめていたあの魔道具は、どういうわけか消え去った。もう誰かの命令を無理やり聞かされることもない、助かったぞ」
「いえ、お役に立てたならば何よりです」
ミュリーはカーテシーをして返す。
「それで、こうしてまずは声を出して話をしておるのだ。ドラゴン族に取って、人間相手に声を出して言葉を伝えるという行為は、最上級の礼儀なのだ。まずはそれを頭にたたき込んでおくがよい」
へえ、そんな風習があるのか。ドラゴン族って結構社会的な生活をしているのか?
「それはそれは、ありがたく存じます」
「ですね。ということは、老齢竜の時も、僕たちに礼儀を伝えたいがために声を発したということだったんですね」
ドルーヨが納得のいく表情をする。
「なるほどね、あの時は戦いぶりに感服したとか言ってたけど、あながち嘘ではなかったみたい。木端の人間相手に遊ぶのが飽きたのかくらいの認識だったし、そんな重要なことだったなんてね」
普通はエメディアのいうように捉えるだろう。俺だってこのドラゴン族という強者の中の強者のような存在が本心からそんなことを言っているとは到底信じられない。
「老齢竜というと、もしかすると……貴様らは勇者パーティ、とやらじゃあるまいか?」
「え?」
「どうしてそれを」
「なるほどなるほど、そうであったか。お爺様の言う通りなかなか見込みのある人間たちじゃの!」
「お爺様?」
どういうことだ?
「うむ、お爺様も深くはお話ならなかったようなので教えてやろう。お前たちが今老齢竜と呼んでいるお爺様は、ドラゴン族最強のお方、エンシェントドラゴンなのじゃ! そして、我はその直系の孫にあたるルビードラゴン。その名を知れたこと、感激するがよいっ!!」
ルビードラゴン、か。確かに赤いもんな。
「ルビードラゴン様、そうだったのですね。その節にはお爺様には大変失礼を」
「いやいや、あのお方も喜んでおられたぞ? 久方ぶりに楽しい運動になったとな」
「た、楽しい運動……あれが……?」
ジャステイズはよほどショックだったのか、引き立った顔を隠せない。それほどまでに本人たちに取っては激しく厳しい戦闘だったというのだろう。
「まあ、そういうわけで。改めて礼をいおうぞ。これで我が声を出して話をしていることの重大さがわかったじゃろう?」
「ええ、それはもう。最強のドラゴンのお孫様から礼を言われるなんて、素晴らしいことでございますわ」
「うむうむ。そうじゃろうそうじゃろう! 因みにお前たちが最初驚いていたあれじゃがな、念話と言って頭に直接話しかけることができる魔法なのじゃ。びっくりさせてしまったようじゃな、だがそれも仕方がない。人間が使うには高度すぎる魔法じゃからな、他の生き物でも我らドラゴンの他にはごく一部しか使えないものじゃから、存在自体知らなくて当然じゃ。念話の方が楽なので普段はそちらで会話しておるがの」
そうなのか、ドラゴンの世界は思ったことがダダ漏れで大変だろうな。
「おいそこの、今思ったことが筒抜けだろうな〜好きな子とかすぐにバレちゃうな〜とか思ったじゃろ!」
ドラゴンは急に顔をこちらに向けてそう吠える。
「えっ!? い、いや別にそこまでは」
「顔に描いてあるぞ。まあいい、そんなことは起こらんと言っておこう。念話は伝えたい話だけを伝えられるように設計されておるからな、だからその複雑さゆえに人間には使えないのじゃ」
「ふーん……」
電話みたいなものか。
「ふう、少々疲れたわ。やはりこの姿で人間の言葉を話すのは大変じゃの、少し待っておれ」
「え?」
するとルビードラゴンの全身が光に包まれ、
光が収まると、全裸の女の子が現れた。
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