第50話
私はヴァンに薬を飲ませた後、わざと彼と出会うように仕向けたりしていた。
普通ならばここで『もう静かに見守ってあげれば』なんて意見も出るところではあろうが、私的には真摯に反省してもらうにはそこそこの"痛み"を伴ってもらうしかないと思ったのだ。
なのでわざとチラ見えする服を着たり、定期的に添い寝をしてあげたりと、普段あまりしないような
その結果、ヴァンの身体は喜んでハートの模様を量産していった(勿論本人の意識は勘弁してくれの一言ではあったろうが)。日を追うごとに身体のあちこちに黒とピンクのスタンプが増えていくのは周りから見れば実に滑稽だったろう。
そしてお仕置きを続けていたのだが、ある日添い寝をしていると我慢できなくなったのか泣き出してしまったので、ちょっとやりすぎたかなと反省して、私はそれ以降は添い寝もラフな格好もしなくなった。
そうしてまた一週間後、既に謹慎処分が解けていたエンデリシェがお得意の薬の実験も禁止されていてストレスが溜まっていたのか、珍しく外に出る気分になったというので城の一角でヴァンと三人で軽いティータイムと洒落込んでいた。
「うふふ、ヴァン様もベルには頭が上がらないようですね」
「ううっ、早くも尻に敷かれた気分だ」
「でもヴァンが悪いよね? ね?」
「アッハイ」
流石に私を他所に他の女にデレデレしている気分ではいられないらしく、エンデリシェを見ても今のところは薬の効果が現れてはいないようだ。このままきちんと私だけを女性として見るようになればいいのだが。
ヴァンに飲ませた薬は、謹慎が解けた後エンデリシェに解毒薬を作ってもらい、女の子に色目を使うと黒いハートが出る効果だけ残してもらっている。
国軍指導官の任もあるためこれ以上は他の効果はやめておこうという結論に至ったからだ。
「でも私ならば、ヴァン様を縛ったりはしませんけどね」
「……は?」
「あの、エンデリシェ?」
すると会話の流れで突然、エンデリシェがそんなことを言い出す。
「なんでしょうか、私何かおかしなことを?」
彼女は澄ましたツラで優雅に紅茶を口に含む。
「いや、今何か不穏なことを言ったような……気のせいか?」
気のせいじゃないよ、ヴァン。明らかに喧嘩売ったよね?
「私も何か聴き間違えたのかも、エンデリシェもう一回言ってくれる?」
といっても、別に本当にそう思っているわけではない。これは女の世界においては『弁解するチャンスを与えてやる、もう一度口を開いてみろ女狐』という意味だ。
「あらやだ、ヴァン様も色々も大変なんですわよ? 国軍の指導役の任務、だけじゃなく、勇者様の慰め役までやらなければならないだなんて」
「言ってくれるわね」
私は我慢ならずガタン、と椅子が倒れる勢いで立ち上がると。
「あら怖いですわ、ヴァン様っ」
「ひいっ!」
「「え?」」
エンデリシェがヴァンに抱き着こうとしたのだが。彼は悲鳴を上げて身を引いてしまう。これはまさか、お仕置きの効果が現れているのかな?
「あの、ヴァン様、何か冗談で?」
「や、やめてくれ、すまない。ベルと約束したんだ、もう他の女性とは絶対に紛らわしい真似はしないって……それにもうあの薬は飲みたくないっ!」
「あの薬……例の三色の、ですわね」
彼女はキッとこちらを睨むと、立ち上がってこちらまで近づいてくる。
「ベル、貴方とは良き友だと思わせてもらっています。こんな私にも優しく接してくれて、引きこもりがちだった私もこうして外で活動するようになりました。けれど、ヴァン様のこととなれば話は別ですわ、無理に束縛するような関係はお互いにとってよろしくないと思いませんこと?」
なるほど、そうきたか。
「それは何、ヴァンのことを労る様子を見せて、自分は私とは違う、理解のある女ですアピールってことなのかな?」
「別にそのような意図は。ただ、幾ら恋人がいる状態で他の女性に目移りしたからといって、薬を飲ませてまで調教する必要はありません。まるでいうことを聞かないサーカスの動物みたいに、この方は曲がりなりにもナイティス家の長男なのですわよ?」
「だから?」
「え?」
「だから、なに。ヴァンは私と一生一緒に居てくれるって約束してくれたもん。私と結婚して、私のことを愛して、子供も作って幸せに暮らすって二人で決めたもの。今更そんな横取りするような真似をするそちらこそ、酷いのでは?」
勿論だが、薬の効果を無くした後、彼とは改めて今後のことを話し合った。
きちんと結婚して共に支え合うことを誓ってくれたし、勇者ではなく一人の女として扱ってくれると、他の女に目移りは絶対にしないと約束してくれた。今度こそ、私だけのヴァンであると。
「そもそもさっきから私が何か悪い感情を持っているかのような言い草ですわね? 横取りって、なにを根拠にそんなこと」
「見たらわかるわ、貴方、ヴァンのこと好きなんでしょ」
「へっ?」
するとエンデリシェは顔を真っ赤に染め上げ固まってしまう。
「え?」
ヴァンもマジでと言いたげな顔だ。うん、あの表情は喜んではいない、大丈夫だ。以前までなら『ハーレムじゃんやった』とでも思っていただろうが、矯正した甲斐はあったようだ。
「な、ななななにを戯言を。ヴァン様は私の良き友人、そしてこの国の友人でもあります。第三王女である私が仲良く接して国の為になるならば、喜んで身体を差し出そうと思うのは当然ですわ」
嫌な言い回しをする女だ。エンデリシェってこんな娘だったのか、一年間も一緒にいたのに、こんな私にも普通に接してくれる仲のいい友達だと思っていたのに、実は私と同じヴァンの"狂信者"だったのね。
認めよう、ヴァンにはどうやら天然の女ったらしの才能があるようだ。その少し軟派な性格だけじゃない、体質があるのだ。むしろ良く今まで私以外の女性とフラグが立たなかったものだ。
「あの、二人とも一体なにを言い争って」
「「ヴァン(様)はちょっと黙ってて(ください)」」
「ハイ……」
「ふふん、エンデリシェがどうしてこの人のことを好きなのかは別に興味がないから聞かないわ。けれど彼は間違いなくこの私のものなの、もう一度確認するけれどそれはわかってくれるわよね?」
「いいえ、違います。貴方の所有物ではありません」
「は?」
「ですので、束縛はやめるべきだと申しているではありませんか。かわいそうです、彼はまだ20にもなっていないんですよ? 少しくらい大目に見てあげてもいいではありませんか。それに英雄色を好むとも言います、男としての甲斐性を見せてくれれば、むしろ貴族としても評価が上がるというものです。国軍の指導役が女の尻に敷かれているなど、一国の王女として到底容認できる状況ではありません」
エンデリシェは凛々しい立ち姿を披露する。
ふ〜ん、なかなか言ってくれるじゃない、国としての立場を持ち出して、反論しにくくしているわけね。
それに客観的に見れば、確かに私がヴァンのことを締め上げているように取れなくもないかもね。
「それは違うわよ、エンデリシェ」
「はい?」
「大きな勘違いをしているわ」
「どのような勘違いをしているというのでしょう、明らかな正論ではありませんか、ベル」
「そう、それは正論であって、だからこそ私たち二人の関係に適用される必要のあるものではないわ、だって二人の未来のためにやっていることなのだもの」
「二人の未来のため、ならばそれこそ無理やり自分だけに振り向かせるなら慎むべきで」
また攪乱になりそうなのを、手で制す。
「いい、今から私の本音を教えてあげる。私はヴァンのことが
しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡ しゅき♡しゅき♡
過ぎて堪らないの、今すぐ全てをほっぽり出して山の中で二人暮らしをしてもいいくらい。私の世界はヴァンの為にあるの、だからこの世界に生まれ変わって、ヴァンと、ハジメちゃんと出会うことが出来た日には、嬉しくて心臓が破裂しそうになったわ。この想いの大きさは誰にも量ることができない、たとえ王女様であろうともね」
「生まれ、変わった?」
エンデリシェは一言呟くと、口をぽかんと開けた。
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