勇者ヤンデる
第49話
「――――なるほど。つまり行方不明になったエンデリシェを探しに此処にきたら、ヴァンもその薬の餌食になってしまって、この後お仕置きと称して彼女に抱きつかせていたと」
「ハイ……」
最初は医務室の惨状について話していたのだが、いつのまにかエンデリシェによる懺悔の会に変わってしまい、俺の軽はずみな行動がバレてしまった。
「私が演説をしている間、そんなことをしていたのね、へぇ……?」
「あの、ベルさん?」
「うん、わかった。取り敢えず、グアードさんには遣いを出しておきましょう。エンデリシェももう帰って良いわよ」
「え? でも」
「いいから帰りなさい、皆んなに申し訳ないと思う気持ちがあるならば、今は自室で大人しくしておくことね。全く、私が城を離れる前から全く変わっていないんだから」
ベルとは城の中で彼女が稽古をしている時からの知り合いで、その一年間は随分と仲良くしていたらしい。そこで俺の話もちょくちょくとしていたのだとか。
「わかりました……では、失礼しますね?」
エンデリシェ殿下は申し訳なさそうに眉を下げ、空き部屋を後にした。
「ふう」
「ベル、さん?」
「さて」
「えっと、その」
「お仕置きの時間だよー!」
ベルは握り拳を作りわざとらしくテンション高く宣言をする。
「ごめんなさい許してくださいなんでもしますので」
俺は慌ててジャンピング土下座をした。
「そう、なんでも」
「ハイ」
「んじゃあ、取り敢えず鍵を閉めて、サイレントの魔法かけておいてね」
「この部屋に?」
「うんうん」
「んじゃあ」
言われた通りに、密閉空間を作る。窓もないため、今の此処は完全に二人きりの世界となった。
「では始めます、まずはこちらをご覧ください」
ベルはどこかのテレビショッピングのような口調で何かを魔法で出現させる。
「これは女の子に少しでも興奮したら発疹が出る魔法の薬。これを飲めば、女性を見て『あ、あの娘いいな』って思うだけで身体の一部分が赤くなってしまうわ。続いてこちらの薬は私の姿を視界に入れると発疹が消える薬。最後に、女の子に少しでも邪な気持ちを抱くたびに何故か私に会いたくなる薬。さて、これらを併用したらどうなるでしょうか?」
三つの瓶をそれぞれ指の間に挟んで見せつけてくる。
順に赤、黄、緑と信号のようだ。
「因みに二つ目の薬は発疹が消えると代わりにハートマークが浮かび上がるようになっているから。一体どれだけの部位がハートマークに埋め尽くされることになるのかしらね?」
「えっとつまり、通りがかる女性に異性としての魅力を感じるたびに痒みが出る状態が続いて、そうなったらベルに会いたくなって。最終的にどのくらい多くのハートが身体に記されるかで俺のベルへの愛を試すみたいな感じですか?」
「その通りよあ、一つ目の薬は私に興奮しても発動するから。あと、二つ目の薬は他の女の子のせいでつくものは黒、私のおかげで付くものはピンク色をしているからすぐにわかるわ。それに三つ目の薬の効果も忘れないでよね。私に会いにくる頻度が多くなればなるほどヴァンは私以外の女性にうつつを抜かしているんだってわかるんだから。どこかの誰かさんに対して湧き上がった"不必要"な気持ちも全て私に逢いたいという気持ちに変換されることになるからね」
「な、なるほど……じゃあベルにどれだけの愛情を捧げるかでもハートマークの色でわかるというわけか」
黒の方が多ければベルよりも女の子自身に興味があると捉えられてしまうし。ピンクの方が多ければ逆に他の女性じゃなくてちゃんとベルのことを愛している証明になる。
おそらくだが彼女としては、黒のハートが一つもないのが理想的なのだろう。俺はそれをわかった上でここから一ヶ月行動をしなければならないわけだ。
そこまでするか、と思うがだが俺が余計なことをしてしまったのだから今回は甘んじて受け入れるべきだろう。
彼女もお遊びでこんなことをやっているんじゃなくて、俺に憤りを感じているからこそのお仕置きだということくらいはわかっている。
「うんうん。勿論普通にしていたら何も起こらないから。痒がって私の方に向かってきたのを見たら全部カウントするからね。一体何日持つのかなあ? あ、因みになんだけどこれらの薬はエンデリシェが作ったものだから。彼女のせいでこうなってる面もあるけれど、こういう機会を設けられたんだからある意味感謝しなくちゃね。放置しておくとヴァンがどこまで"たらし"になるかわかったもんじゃないわ」
「ははっ……」
そんなに信用無くしていたんだな、俺。
「えへっ☆」
ベルは百パーセントの笑顔を浮かべた。
そうして一週間後、無事に祝勝パーティーも終わり、エンデリシェ殿下の謹慎処分も解けた頃。
俺にあてがわれている宿舎のベッドの上で、ベルが俺の横に添い寝していた。
「ベ、ベル、やめてくれ、俺が悪かったから!」
「だめよ、まだまだ、後三週間は残ってるんだからね」
「ふうう、身体中が爆発しそうだ」
「もうそのまま破裂しちゃえばいいんじゃない? そうすれば浮気することもなくなるし、後から私にしか興奮できないよう別の薬を与えたらいいから。最後通牒って言葉知ってるわよね?」
「別に、エンデリシェ殿下のことを好きなわけじゃないんだ。俺の愛する女性はベル、君だけっ。信じてくれよ!」
「まだそんな言い訳をできる気力があるんだ、じゃあもっと反省してもらわなきゃね」
と互いに寝そべった状態で鼻と鼻がくっつく位に近づいてくる。更には俺に腕や足を絡ませて動けなくした。
彼女のいい匂いとか、体の感触とか。そういうものを感じるごとに身体のどこかに痒みが発生するのだ。
一体どんな効果か薬を飲んだ当初はまだわからなかったが、今なら断言できる。これは地獄である。
更にベルの姿を見れば見るほど彼女に逢いたくなるため、離れようとしても心が体を動かしてくれない。『痒みが現れるごとに消え、ハートマークが浮かび上がり、さらにはもっと彼女の姿を見たくなる』という負のループだ。
こうして同じ空間にいるだけでもさらにきつい状況となっていく。
もう一週間ほど経ったわけだが、それでももう既にだいぶつらいほどの痒みが現れたり消えたりしている。それがどうしてか、というと……
「ふうーん、もう
「ま、まだ作ってもらう気なのか? あの薬」
国軍の慰問やら何やら、それでなくても陛下が気を回してくださったのか、ベルと俺が一緒にいる機会は多い。確かに恋人と長い時間共に過ごせることは嬉しいことだし、それがベルなら尚更だ。
しかし今のこの状況においては、横に並び立つだけでも、少し話をするだけでもハートマークがバンバン増えてしまうだけ。ベルは俺のいるときはわざとやってるのかそれとも単に俺が意識しやすくなっているだけなのか、ラフな格好でチラチラ色んなものが見えるようにしているため、どうしても男の性が現れてしまうのだ。
「むふふ、どう? 少しは反省したかしら?」
「は、はい、してます! だからこの薬をどうにか」
「それはだーめ。あと三週間ちょっと、頑張って耐えてよね」
「そ、そんな!」
これがあと二十日以上も続くなんて……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます