第32話
さて、王都の門が見えてきた。門番には私達が来る事は内緒だ。
「いよいよだね」
「ええ、少し緊張するわ」
私のすぐ後ろを歩いているジャステイズとエメディアは互いに話しかけ、緊張を解いているらしい。そんなに息ぴったりなら、早くくっ付けば良いのに……旅の途中も何度モヤモヤさせられたことか。
「……ふむ、門番はしっかりと警備をしておるようだ」
デンネルは落ち着いている。こういう時、年長は頼りになる。歳上が慌てていたら、年下も慌てる。逆に、歳上が落ち着き払っていたら、それを見た年下も少しは安心するものなのだ。
「はわわっ、緊張します〜……神様、どうかご加護を……」
ミュリーは胸の十字架のペンダントを両手に掲げ、神に対して祈っている。こんな時に願われても、ドルガ様も困っているだろう。まあ、この行為で落ち着くなら別に良いとは思うのだが。
「ふう、あまり目立つのは好きでは無いのですが……皆さんと一緒に居られるのももう少し、こういった瞬間を楽しむのも一流の商人と言うものでしょう。それに、人々の生活水準を確かめたいですしね」
ドルーヨは相変わらず打算的だ。まあ緊張していない分他の三人よりもマシだが。
そうこうしているうちに、門まで100mほどの距離まで近づいた。門番の一人が私達に気付き、慌てている。
「気付いたみたいだね」
私は皆に向かって話しかける
「ええ、慌てているわ。やっぱり先に教えておいたほうが良かったんじゃ……」
エメディアが心配そうな顔をする。
「でも、陛下のご意向は最もでしょ? 私達は堂々と王都まで歩いたら良いだけなんだから。人々を安心させる為にも、勇者が魔王を倒した! って知らしめないとね!」
「うむ、そうであるな。変に待ち構えられているよりも良いと思うぞ。それにお祭りみたいで楽しそうじゃあないか」
デンネルは思考が完全におっさんのそれだ。冷静なのかそれとも怖いもの知らずなのか……魔王を前にしても動じなかった精神は素直に見習いたいのだが。
「うん、ベルは勇者らしく堂々としていようよ。僕達までなよなよしていたら、せっかくの凱旋が駄目になってしまうだろ?」
ジャステイズが皆に言い聞かせる。ジャステイズの実直さはこういう時には頼りになる。言いたいことをズバッと言ってくれるからだ。
「そうね……うん、私達もきちんとしないとね。門番には悪いけれど、今回は精一杯驚いてもらいましょう?」
エメディアも吹っ切れたようだ。よし、向かおう!
「ゆ、勇者様! やはり勇者様だ!」
門番が私たちの姿を見、叫び声をあげる。その叫び声に門付近を歩いていた住民がこちらを振り向く。そして 驚いた顔をした後、口々に歓声を上げ始めた。
「ゆ、勇者様! 勇者様が帰って来たぞ! 皆、魔王は倒されたんだよ!」
「何だって? 勇者様が!?」
「おお、勇者様! 魔王は倒されたのか!」
「「「「うおおおおおお!!!」」」」
「勇者様ー!」
「ジャステイズ様ああああ!!」
「エメディアたんこっち向いてえええ!」
「デンネルの兄貴いいいいい」
「でゅふっ、ミュリーたんんんん!!!」
「ドルーヨ様っ! お帰りなさいませっ!!!」
人々は思い思い口にする。一部危ない発言も混じっているが、興奮しているのだろう、気にすることはない。
プププーッ!
人々の声をかき消さんと、楽器が吹かれる。それを合図に門の宿舎から王騎士団が姿を現し、ズラッと道の両端に整列した。その様子を見て人々はすぐに静まり返る。
「勇者様御一行の、おなーりー!」
右端に立っている団長らしき人物が、そう宣言した。すると騎士団が馬の上から長槍を斜めに傾け、花道を作る。打ち合わせ通り、私はこの道を歩んでいく。そして初めの十字路に辿り着いたところで、花道は切れた。そして私は予定通りの言葉を叫ぶ。
「皆、私は帰って来た! 魔王は滅びた! もう魔物の恐怖に、上に、悲しみに苦しむことは無いのだ! これも皆の想いがあっての事。勇者として、世界中の民に、そしてこの王都の住民に感謝する!」
私は聖剣を掲げる。太陽が反射し、キラリと剣身が光った。
「わあああああああ!!」
人々は私が政権を掲げると、少し間をおいて再び騒ぎ始めた。あちこちから感謝やら労いの言葉やらが聞こえてくる。正に雨の後の快晴だ。
「「「「勇者様、万歳! 女神様万歳! 国王陛下万歳!」」」」
騎士団員たちも揃って叫ぶ。その逞しい叫び声がより一層場を盛り上げた。
そして、私達は正面から堂々と入門し、人々に手を振る。老若男女様々な民が私達の帰還を喜び、叫び声を上げ、中には泣き出す人もいた。小さな子供も懸命に手を振ってくれている。私は思わずその子に向かって手を振った。
これが私達の守った世界、守った命、護った光景……ぐすっ、2年間、嫌4年間頑張ってきてよかった……ううっ
「ベル?」
後ろにいるエメディアが小声で私のことを心配する。
「ぐすっ、エメディア、ごめん私もう無理かも……」
だって、人々がこんなに歓迎してくれるだなんて、本当に嬉しい。ああ、今までの苦労が一気に昇華されていく。
「ベル……ふふ、私はもうとっくに無理だわ」
「え?」
わたしがチラリと後ろを見ると、エメディアは既に号泣していた。
「エメディア……」
「だから、今は前を向きましょう?」
「う、うん。そうだね」
私はは泣き顔なんて関係無い、今は人々と気持ちを共感しようと思い、前をしっかりと向いて人々を手を振り続けたのであった。
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