第31話

 

「――――転移完了っと」


 私達は、陛下と打ち合わせをした翌日、王都の北方1キロ地点に転移した。


「ベル、お疲れ様」


 エメディアが労ってくれる。


「ううん、これ位なんて事ないよ。魔王城から王城に飛ぶのに比べたらね」


 魔王城から王城までは約7000kmもある。この王都オーネは中央大陸セントレアの文字どおり中央に位置している。変わって魔王城のある魔都ダクネシアは北大陸ノーザティアの北の端にある。東西南北の大陸はそれぞれ楕円形で、約3500km。中央大陸は円形で直径が約7000kmだ。この世界にも一応測量の技術は存在するので、本を見れば大体の事は知る事が出来る。


 また、この世界はどうやら天動説の世界に高いらしい。世界は平面で、大陸の端には地の底へと通じる滝が存在する。重力や他の惑星がどうなっているかなどは詳しくわからない為、地球とそのまま比較する事はできないのだ。一応、太陽と月は一つずつ存在し、昼と夜は交互にやってくる。1日は24時間で60刻み。ここは地球と同じだ。


 魔力の使用量は、運ぶ物体1キロにつき1、距離1キロにつき更に1かかる。1キロ未満は全て魔力1扱いだ。魔王城から王城まで、自分達や装備の重さも含め単純に計算すると、6×70×7000で294万必要になる。一方、王城からここまでは僅か420。7000分の1だ。


「確かにあの時は魔王を倒した後だったし、ベルはだいぶ大変だったろうね。本当に頭が下がる思いだよ」


 ジャステイズが会話に加わってきた。


「ジャステイズが、剣士として前線で頑張ってくれたから、私が魔王に勇者の力を使う事ができたんだよ。みんながいたからこそ、今回の魔王討伐は成し遂げられたの。それで良いでしょ?」


 そう、私だけの力じゃない。皆の力があったからこそ、成し遂げられた事だ。今から行う凱旋も、皆と共に歩む。私だけが”勇者”では無いと知ってもらう為に。まあ、二人ほどいらない奴もいたが……


「うむ。皆の力を合わせ倒した。誇れる事だ」


 デンネルも私の意見に賛同する。


「わ、私は、神と共にありますので……でも! 皆さんと一緒に戦えて、私はとても助かりました! 魔王という闇から世界を解放した勇者という光。とても素晴らしいと思います!」


 ミュリーは巫女らしい考え方だ。この世界の神様、女神ドルガ様にも感謝しないとね。自分が八重樫凛という地球の日本の女性だと理解した時はとても驚いたし、悲しくもあった。でも、ヴァン、ハジメちゃんとの仲は地球にいた頃よりも格段に進展したから、感謝しているのだ。人々の為に戦う(正確にはヴァンの為が大半だが)事ができ、変な話大きな達成感を得る事もできた。地球のしかも日本という国では到底体感できない達成感である事は確かだ。


「私は自分の店を留守にするという恐怖に、勇者の仲間に選ばれたと聞いた時は卒倒しそうになりましたが……こうして皆さんと知り合えたので、今思えば大変有意義な旅だっと思います。それに、旅で寄ったまだ店が出ていないところでは、販路を拡大できますからね。ある意味良い勉強をさせてもらいました」


 ドルーヨは商売人らしい思考だ。だが、ドルーヨがいたから道具や武器を楽に仕入れられたり、聖剣の在り処を特定する事もできた。彼の功績も大きなものがある。


「みんな、本当にありがとう……この凱旋が終わったら、私達はバラバラになると思う。でも、心は繋がっているから、いつでも会いに来てね?」


「もちろん」

「当たり前さ!」

「うむ、酒も飲み交わしたい。ベルは酒を好まなかったからな」

「はい! また神殿に来てくださいね! 勇者様、ベルさんのお陰で人々の信仰心が一段と強まりましたから。信者の皆さんもきっと喜びます」

「勇者の一族に販路を……あ、いや、サービスはするよ?」


「ふふっ……皆、それじゃあ王都に向かおっ!」


 私は皆の反応に嬉しく思いながら、王都へと歩みを進めた--


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……ふわあ……よく寝たよく寝た」


 俺は時計を確認する。昨日寝る前に作っておいたのだ。この機会に時間を正確に図ろうと思ったからである。これが近代化の第一歩になれば良いのだが。


 この世界では、時計は教会が王城など、大きな組織しか所持していない。人々は3時間に一回鳴る鐘の音で日々の生活を送っている。今までは俺も鐘の音で行動していたのだが、今回は基本は俺単体での戦い。失敗すれば周りに待機している斥候が報告に行くのだが、その間にも敵は進軍するだろう。実質一発勝負だ。その為、時間の計算は大事なのだ。


 今回はアナログの腕時計と置き時計を一つずつ作っておいた。腕時計はアダマンタイトというかなり頑丈な鉱石で作られている。これで魔法が暴発したとしても壊れることは無いだろう。


「敵軍が見えてきたら足留めをし、一気に魔法を流し込む。足留めは…俺の腕ににかかっているな。よし、一応ドッペルは用意しておくか。魔力は回復しただろう」


 ステータスを確認したら、9割方回復していた。これなら大丈夫だ。流石に野宿の経験はなかったため、魔力が回復しなかったらどうしようかと思った。


「……五体、作成完了っと」


 俺の周りに五体のそっくりさんが現れる。動作は基本俺の思考から読み取りを行い、半自立している為一々命令する必要は無い。


「よし、一応物陰に」


「「「「「……」」」」」


 偽ヴァン達は俺が言い切る前に周りの岩陰に隠れた。


「よし、後は敵が来るのを待つだけか」


 俺の戦いが、今始まる。

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