第18話

 

「お久しぶりです」


「ええ、こちらこそ」


 父親同士が握手をする。


「それで、お話があるとか?」


「とても迫っている話題です。その前に……」


 ドミトリンさんは俺を見る。


「……ヴァン、すまないが、この場から離れてくれ。教えてくれてありがとう」


「はい、お父様。失礼します」


 そして俺は言われた通り、応接室から出た。





 その後俺は自室に戻り、ベッドに寝かせているベルの元に近づく。


「ベル、大丈夫か?」


頭を撫でると指にその感触が伝わるサラサラとした金髪は、昔から変わらずのままだ。今ではまるで黄金の塊のように輝いている。


「すう……すう……」


 ベルは呼吸も安定し、健やかに眠っているようだ。


「辛いだろうな……俺も、お母様が早く治ってくれたら……」


 互いの母親が悲しい状況に置かれ、父親は切羽詰まった様子。これが俺が軽い気持ちで救おうとしている世界なのか。勇者なんて、現れなかったらただの作り話にしかならない。ああ、神託よ早く降りてくれ。ドルガさん、何をしているのですが、俺はもう12歳になりました。


「んんっ」


 ベルが寝返りを打つ。その12歳にしては少し豊かな胸がぷるんと弾ける。


「……ベルも、女の子なんだよな。いつも俺の訓練に付き合ってもらっているけど、本当なら同年代の子と遊んだり、街で買い物をしたいだろうに」


 しかも中身は凛が混じっている。一度聞いてみたのだが、ベルは俺とは違い、ベルとしての意識というか、頭の認識が優先されるそうだ。凛としての意識は記憶としてあるらしい。つまりベルはベルなのだ。だから俺も凛としてではなくずっとベルとして接してきた。だが、凛としての記憶があるということは、地球での生活レベルが恋しくなることもあるということ。俺も実際、最初の頃はトイレや気温の寒暖に悩まされた。しかもベルは女性だ、男性の俺よりも大変な部分は多いだろう。


「無理、してないかな……嫌なら、俺から離れてもいいんだぞ?」


 俺とベルは7年間ずっと一緒だった。隣にいるのが当たり前だった。喧嘩もしたし、少しエッチなこともあったが、本番まではしていないし、周りには付き合っている風にも見せていない。


「俺は、ベルのことが好きだ。可愛いし頼もしい。話をしている時も、夜一緒に寝ている時も、キスをしている時も、どれも幸せな時間に変わりはない。だが、俺もいつかは居なくなるはず……その時、ベルはどうする?」


 俺は独り言を零し続ける。


「…………」


「俺は、いっそのこと――――」


 チュッ


「ん!」

「んー」


 俺が顔を下げた瞬間、俺はベルに首を抱き抱えられ、熱いキスをされた。


「……ぷはっ。ヴァン、何言っているの?」


「べ、ベル、起きていたのか?」


「ベルも女の子なんだよな、くらいから」


「えっ」


 は、恥ずかしい……


「あのね、ヴァン。私、一生ついて行くよ?」


「ベル?」


 ベルは真剣な表情だ。


「ヴァンが何を思っているかは、今ので大体わかった。けど、私はヴァンのことを嫌いになったりは絶対にしない。私自身を嫌いになっても、ヴァンのことは好きであり続けるよ?」


 ベルは言葉を紡いでいく。


「勇者だろうが、女神からの神託だろうが、恋には関係ないの。私、大切な人を失っちゃった。さっきもとても迷惑をかけたわ。でも、その分生き残っている人をより大切にしようと思うの。今さっき、夢の中でお母様が出てきて、生きなさいって、生きてしたいことをしなさいって言って下さったのよ? 私はただの夢だとは思わない。だから、ヴァン、好き……」


 ベルは再びキスをしてきた。


「……ふぁっ……」


 今度は舌を入れてきた。最近してこちらのキスはしていなかったから、久々の甘い味に少しどきりとしてしまう。


「むぐっ」


「むちゅっ」


 ベルは俺の口内を舐めまわしてくる。俺は抵抗することなく受け入れる。


「……はあっ」


 そうして何分か経った頃、ようやく口が解放された。


「……ベル、すまない。俺、少し気が滅入っていたのかもな」


「おばさまのこともあるし、仕方がないよ。でも、ヴァンは私より強いはずだから、これからはしっかりしてね? そして、私を守ってね?」


「ベル……ああ、約束する。俺はお前のことを守る」


「一生、だよ?」


 ベルは首を傾げる。


「え?」


「一生じゃ、ないの?」


「それって……」




「結婚、しよ、ヴァン」




 その笑顔は、世界で一番綺麗だった。




「……良いのか、俺で」


「ヴァンだから、だよ」


 ベルは力強く、それでいて落ち着いた声色でそう言った。


「そうか、俺だからか」


「うん! ヴァンだからだよ」


「わかった、結婚しよう!」


「ふふ、よかった。よかった。私、今世界で一番幸せかも……」


 ベルが泣き出した。


「ちょ、ベル!?」


「嬉し涙だから、心配しないで?」


「そ、そうか?」


「でも、まだ出来ないよね? 16歳からだから……」


 この世界では、男も女も16歳から結婚するのが普通だ。余程のことがない限り、国も教会も許可を下ろさない。これはある程度成長してからでないと、個人の自由が縛られるからだそうだ。要はロリコン対策ってところか?


「そうだな、まだ無理だ……よし、決めた!」


 俺は決意をした。


「何、どうしたの?」


「俺、16歳までに必ず魔王を倒す! そして、帰ってきたら結婚しよう、ベル!」


 俺は高らかに宣言する。


「ヴァン……うん、待ってるね? 必ず、必ず結婚しよっ?」


「ああ、一度決め事だ、こんな大事な事は違えたりしねえ」


「その言葉、信じるからね」


「おうよ」


 互いに笑顔で見つめ合う。


「ねえ、ヴァン……」


「ん?」


「あの、その、私、今なら良いよ?」


「何が?」


「……あ、あれ、あれよ」


「あれってなんだよ?」


 勿体ぶらないで欲しいな。


「だから、一つになろうっていう事!」


 ベルは恥ずかしそうにそう言った。


「え、ひ、一つにって、つまり、キスの先、って事か?」


「そう。今までそこで止まっていたでしょ? 結婚するんだから、別にもう大丈夫」


「いやいや、流石に12歳では……」


「嫌なの?」


「嫌ってわけじゃ……身体だってまだ……」


「ヴァンは、私に魅力を感じない?」


 ベルは自らの胸を揺さぶる。


「ううっ」


「顔、赤いよ?」


「し、仕方無えだろ、そんなの……」


「あれ? ここは何が入っているのかなあ?」


 ベルは俺の下半身を撫でてきた


「や、やめっ!」


「勇者様は女の子のリードすらできないのかしら?」


「なに、そ、そんな事ねえよ」


「じゃあ、しよ?」


「うっ……わかったよ」


 俺は静かにベルを押し倒す。


「また一つ、夢が叶ったわ」


「どんな夢だよ……」



 俺とベルはこうして、12歳にして初めて体を重ね合ったであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る