第7話

 


 ――――おぎゃあ、おぎゃあ……



「あら、奥様! とても可愛らしいお子様ですわ! 旦那様、旦那様!」


 誰かの叫び声が聞こえる。


 バン!


「おおっ、生まれたかっ!」


「はい、旦那様、無事……」


「良かった、良かった……マリア、よく頑張ったな」


「ううっ、貴方……元気な子だわ」


「ああ、元気な子だ……マリア、この子の名前は、あれで良いんだな?」


「ええ、貴方……いえ、ヴォルフ……この子の名前は、ヴァン。ヴァン=ナイティス」


「ヴァン、生まれて来てくれてありがとう。そしてこれからよろしく」


 誰かの大きな手が俺の頬に触れる。ゴツゴツとした手だ。


「旦那様、一度ご退室くださいませ。この後もまだしなければいけないことがございますので」


「わかった。マリア、無理はするんじゃないぞ? 気分が悪くなったらすぐに言うんだ」


「ええ、ありがとう、貴方。……ヴァン、私のヴァン、一体どんな子に育ってくれるのかしら?」


「あら奥様、きっと素晴らしい英雄になってくれますわ」


「うふふ、英雄ね……そうだと良いわ」


「ええ、きっとです――」



 そしてそのまま俺は眠りについた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ……


 …………


 ……俺は無事転生出来たのか? 確か、俺のことをヴァンとか呼んでいたな。生まれた時点ですでに意識があるとか、転生凄すぎるだろ。こりゃチートにもなりますわ。どうやら親の名前も早々にわかってしまったし、それにナイティスとか言っていたな。恐らく貴族は名字を持つとかそういう類の慣習があるのだと推測されるから、俺はキチンと何処かの貴族に生まれることが出来たわけだ。ドルガさん、ありがとう。仕事の出来る神様は良いね。


 それにしても、意識はあるがやはり身体が自由に動かない。これは仕方がないことなのか。まだ俺の意識がこの世界に慣れていないからなのか、それとも意識があったとしても身体がついていかないのか、どうなのかは定かではないが、今は無理に動こうとはしないほうが良さそうだ。先程生まれたばかりなのだから当たり前っちゃあ当たり前なのだが。


 俺は、上を見る。月明かりが天井にある窓から部屋の中に指しているのが判る。此処が何階かは残念ながら窓からは推測することは出来ない。窓にはどうやらガラスが嵌められているようだ。この世界の文明レベルがどれ程のものかは分からないが、中世でガラスがあるというのは珍しいのではと思う。魔法がある時点で地球と比較はできないとは思うが、貴族だからなのか? そこらへんの知識は手に入れることが出来なかったため、この状況だけでの今すぐの判断は難しいだろう。


 俺は今、何かしらの布の上に寝かされているようだ。嫌、身体を布で包まれているのか? 恐らく柔らかいタオルのようなものだと肌に触れる感触から推測ができる。俺は丁寧に扱われているようだ。良かった、これで後から適当に床の上にポイとかだったら洒落にならない。


 俺が長男なのかどうかは分からないが、恐らく両親の反応から期待されていることは間違いないだろう。チート持ちと地位を使って成り上がり、とかよくあるパターンだが、俺にその順番が回ってきたということか。グチワロスにはかなりムカついてはいるが、切り替えも大事だし、こうして再び生を受けることが出来たのかだから、今はこれで良しとしよう。凛が無事生まれ変わってさえいれば、俺も後は自分の好きにするだけだしな。


 グチワロスやドルガさんの話では、魔王がいるとのことだった。今はどの程度人類が侵攻されているのか分からないが、少なくともこの地までは行き届いてはいないのだろう。夫婦に更にメイド? と思われる人がいることから、戦時中の体制とは考えにくい。もしかしたら、魔王側も最近侵攻し始めたところなのかもしれない。北大陸がどうとか言っていたからな、この世界にもある程度の戦力はあるだろうし、俺が大きくなるまで大事にならないことを祈っておこう。


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか今度は朝日が差していた。俺、どれだけ考え事をしていたんだ……状況把握というものは思ったよりも時間がかかるものらしい。スパッと把握できるカリスマ性が欲しいところだ。そこら辺もチートでどうにかならないだろうか? 思考速度を速くするとか……自分の魔力量が分からないから、下手にクリエイトの能力ギフトも使えない。まだまだ調べることが多そうだ。それに、肝心のイケメン度も分からないしな。赤ん坊にイケメンも何もあるのかと言われたら考え物だが。


 ガチャ


 左奥にあるドアが開いた。


「ふんふ〜ん。坊っちゃま、おはようございます。うふふ、生まれたばかりだというのに、こんなに可愛いだなんて、正に神の祝福を受けているのかしら?」


 どうやら昨日あの場にいたメイドらしい。神の祝福を受けていることは間違いないが、あまり可愛い可愛いと言われると恥ずかしいな……まあ、子供は可愛いものだとは思うが。


「坊っちゃまは……まだ寝ていらっしゃるみたいね」


 俺は咄嗟に目を瞑ったため、メイドがどの位置にいるのかはわからないが、恐らく俺のことを覗き込んでいるのだろう。


「今のうちにオシメを確認しておきましょう……」


 ! ちょ、オシメって!


「どれどれえ?」


 メイドは俺の下半身を弄りだす。そして何かを剥ぎ取った。


「……どうやら大丈夫みたいね。濡れてはいないわ」


 俺の股間が解放されスウスウする。タオルの下に何か巻いていたのだろうか?


「でも、一応付け替えておきましょう。新しいオシメですよー」


 メイドは再び俺の股間を弄りだし、何かを装着した。感触はタオルよりは少し硬めだ。


「よしっ、これで完了っと。では、坊っちゃま、起きたら泣いてくださいね〜って言ってもわからないか……」


 俺は少し悪戯心が働く。


「……おぎゃ! おぎゃあ! おぎゃあ!」


 できるだけ赤ちゃんが泣いているように見せかけ、俺は大声で叫んだ。


「うわっ! ぼ、坊っちゃま! どうしましたか? お腹が空きましたか?」


 んーと、特に理由は無いのだが、どうしたものか。ん? よし、折角だし赤ちゃんの特権を!


「あうっ! あうっ!」


 俺はメイドの胸を軽く叩く。


「えっ、もしかしてもうオッパイを? ど、どうしましょう……奥様にお聞きするべき……嫌、でも少しだけなら……ううっ、えいっ!」


 メイドは自らの服の前を開き、その双丘を露わにした。


 先っぽはドルガさんよりは濃い桃色で、胸自体の大きさは大人の手で掴んで余るくらいは有りそうだ。ぷるんと揺れていることから、柔らかさも十分らしい。


「ぼ、坊っちゃま、お、オッパイですよ〜」


 メイドは顔を赤らめながら俺に話しかけてきた。俺は返答としてメイドの胸をさりげなく掴む。おおっ! やはり見た目通りかなり柔らかいぞ!


「あんっ! 坊っちゃま、いきなりだなんて酷いです! ほら、ど、どうぞ、吸ってください」


 メイドはその先端の突起を俺の口に近付けてくる。俺は答えるようにその先端を口に含み。


「んっ……こ、これが坊っちゃまの初めての授乳? になるのでしょうか……私、乳母じゃないのに良いのかしら……」


 俺は依然顔を赤らめながら独りごちるメイドをよそに、先端を吸い続ける。ああ、幸運値が上がるってこういう恩恵を受けられることだったのか……ドルガさん、嫌、女神ドルガドルゲリアス様、バンザイ!


 そうして俺は、暫く幸せを享受したのであった。

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