第161話 シュリの魔法習得講座、そしてセイラン襲来

 クリムは魔法を実際に発動して見せながら、シュリに実践的な手ほどきをしていた。

「火の出し方はわかったっすから、他の技も教えて欲しいっす。」

 シュリはクリムの解説のおかげもあって、海皇流古武術の奥義、魔導遷移の型・爆炎をあっさり習得したため、さらなる魔法の習得に意欲を示したのだった。改めて確認しておくとシュリの現状の目標は、命を救ってくれたクリムゾンに対する恩返しをすることであり、その方法は自らが強くなって挑戦者を求めているクリムゾンと戦うことである。

「他の技と言うと、アクアの使っていた焔反ほむらがえし時空歪曲加速クロノディストーションアクセル、もしくは私の光子化機動フォトンマニューバですかね。」

 クリムは先ほどの試合を振り返り、使用された技(魔法)を列挙した。

「そうっすね。そのほむらなんとかって技は、動きが速過ぎてよく見えなかったんすけど、具体的には何をしてたんすか?」

「その口ぶりからするとシュリもさっきの攻防が見えていたんですね。あなたは半分ドラゴンですから、そのくらいできても不思議ではないですが、炎に耐える皮膚は持ち合わせていない所を見れば、ドラゴンの特性すべてを継承している、というわけでもなさそうですし、どうにも図り切れない感じですね。」

 クリムはシュリに何ができて何ができないのか整理しつつ、昨日シュリが見せた脱皮による変態の前後の姿における能力変化を思い出していた。そして彼女がいまだクリムゾンの細胞を完全には取り込めておらず、変化の途上にあるのではないかと推測したのだった。

「あなたが現状どの程度の能力を持っているのかは追々確かめるとして、焔反の話でしたね。焔反は私の見立てでは、炎系の魔法を発動した相手から魔力コントロールを奪取して打ち返す、魔法と体術の複合技術の様ですね。」

 クリムはアクアに視線を向けて確認を求めた。

「たぶんそんな感じだよ。」

 アクアは自分の使った技にもかかわらず、いまいちはっきりしない答えを返すのだった。

「アクアの記憶に付いてもいまいちはっきりしない所がありますが、話が逸れるので今は触れずにおきましょう。それで焔反の話の続きですが、他者から魔力コントロールを奪取するのは容易なことではありません。対象となる相手の魔力波長に自身の魔力波長を合わせた上で、相手を上回る魔力制御技術を持っている必要がありますからね。」

 クリムはシュリの頬に手を添えると、シュリが自然に放出している魔力を実際に奪い取って見せた。

「おお、なんか力が抜けるっす。」

 シュリは魔力を奪われた影響から軽い疲労感を受け、全身の力がふっと抜けて思わず前方に倒れ込みそうになった。

「私とあなたでは魔力制御技術に大きな隔たりがあるので、この様に簡単に魔力を奪い取れてしまいますが、実力が拮抗している場合はこうはいかないですね。」

 クリムはシュリから奪い取った魔力を返しながら言った。高位のドラゴンともなれば、対象との実力差次第ではあるが、魔力を奪うも与えるも思いのまま自在に行えるのである。

「これと似た様な技術としては、自然エネルギーを吸収して魔力に変換する魔法がありますが、自然エネルギーは誰かにコントロールされているわけではないので、魔力コントロールの奪取に比べれば簡単な技術と言えますね。」

 そう言うとクリムは右手から魔法で炎を出して、左手でその炎を吸収して見せた。魔法によって発生した炎は術者のコントロールを受けているので、説明内容とは齟齬があるのだが、ビジュアル的に見せた方が分かりやすいためあえてその辺の齟齬を無視したのだった。

「あなたはまだ自然エネルギーの吸収もままならない程度の魔力制御技術しか持っていませんから、焔反を習得するのはちょっと時期尚早ですね。多少訓練すれば習得可能だと思いますが、先ほど話した通り魔法は制御を失敗すると暴発するリスクがありますし、付け焼刃で覚えるのはお勧めしません。それに焔反が使用できるシチュエーションは格下の相手が炎系魔法を放ったときと、かなり限定的ですから、これ単体を覚えてもあまり意味が無いですしね。海皇流戦闘術の技術体系を私は知りませんが、恐らく炎以外に対応した他の技も存在するのでしょうね。技名からもそんな雰囲気が窺えますし。」

 クリムは再度アクアに視線を送った。

「うん、海皇流戦闘術の返し技はまとめて因果龍幇って括りになってて、焔反以外にもいろいろあるよ。中でも一番強いのはなんでも吸収して跳ね返す海皇波だよ。海皇波は返し技でもあるけど、何も吸収しなくても海皇波自体に破壊力があるし、周囲の魔力を吸収して巨大化するから、相手の攻撃を待たずに先手を打てるのが強みだよ。逆に溜めるのにちょっと時間がかかるから、反撃に使うには先読みして溜める必要があるし、溜め動作が読まれやすいからカウンターとしてはあまり使えないかもね。」

 アクアは要領を得ない普段の幼い感じから一変し、急に流暢に解説し始めた。

 海皇波は海皇龍アクアマリンが作り出した技の中でも、自身の二つ名を冠する程の自信作かつお気に入りの技であるため、記憶が曖昧なアクアでもこの技だけはしっかり仕様を理解していたのだ。

「なるほど。返し技としては欠陥が大きい様に思えますが、反撃にも使える必殺技って感じなんですね。それはそれとして、海皇波は魔力コントロールの奪取と、あらゆる自然エネルギーを吸収する、超複合的な魔法技術と言うことになりますから、今のシュリには到底扱いきれませんね。効果が複合的過ぎて発動を失敗した際にどんな暴発が起きるか未知数ですが、危ないから真似しちゃだめですよ。」

 クリムは改めてシュリに釘を刺した。

「了解っす。」

 シュリは複雑な話は途中からあまり聞いておらず、お腹すいたなー等と考えていたが、返事だけはいいのだった。


 クリムがシュリに魔法の指南をしているちょうどその頃、道場へと高速で飛来する一つの影があった。特に隠す理由もないので明かしてしまうが、その正体は四大龍のセイランであった。

 アクアと格闘家2人の戦いが思いのほか白熱し、互いに人間基準では強力な魔法を発動していたので、その魔力の波動を感じ取ったセイランが様子を見にやってきたのだ。

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