第122話 隠れ魔族とセイランの関係
魔王達が滞在するマリーの家に現れた来訪者の正体は四大龍のセイランだった。彼女は魔王の暴走した魔力を感じ取り様子を見に来たのだ。
「私は今ある事件の調査をしているところなんだ。それでこの近くはたまたま通りかかったところだったんだけど、妙な魔力反応があったから見に来たんだよ。何か心当たりはないかい?」
セイランが誘拐事件について明言しなかったのには理由があった。政府関係者の中に事件に関わる内通者が居ると目されている現状では、あまり表立った調査をすると犯人サイドに情報が洩れる恐れがあるからである。それゆえ一緒に出掛けた大統領とは被害者家族の居留地へ案内してもらった後に別れ、事件の調査はセイランが単独で行っていたのだ。
「ええ、まぁ心当たりは有りますね。」
マリーはセイランが青龍会の幹部の恰好をしていたため、それなりに強力なドラゴンであり下手な嘘をついても看破されるであろうと考え、事実を述べつつ根本的な回答は避ける様な半端な返事をしたのだ。
「その様子からすると特に困っているわけではない様だけど、詳しくは話せない事情があるのかな?とは言えだ、私もこのまま異変を無視して帰るわけにもいかないし、改めて聞くけど家に上がらせてもらっていいかい?」
マリーが何か隠しているのは明らかであったため、セイランは再度家屋内の見分を要請した。
「そうねぇ。見られて困るような物は無いけれど、実は今久しく会っていなかった友人達が遊びに来ているところなのよね。みんなドラゴン種とは過去に因縁があってあまり関わりたくないって言ってるからどうしましょうかね。」
マリーは招かざる客が一筋縄にやり過ごせそうもない相手だと悟り、どう対処するべきか頭を悩ませた。そして適当に会話を繋ぎつつ改めて来訪者の姿をじっくりと見直した彼女はその正体に思い当たり質問を投げかけた。
「あなたってもしかしてセイランさんかしら?」
「その通りだけど、どこかで会ったっけ?私は覚えが無いんだけど。」
セイランは記憶力にちょっとした自信があり、一度会った相手は忘れない自負があったので、マリーが自分を知っている様子である事を訝しんだ。
「いえ、初対面よ。あなたの事は前にここに住んでいた者から聞いていたの。魔動機開発において協力関係にあるってね。私自身も青龍会の方とは少し付き合いがありますし、組織の長であるあなたとは会ってみたいと思っていたのよ。では改めまして自己紹介しておきましょう。私の名前はマリー。お会いできて光栄だわ、四大龍セイラン。」
先述の通り隠れ魔族である
一方セイランもまたマリーの言動から彼女が隠れ魔族であると気付いた。また此度訪れた家屋が旧知の魔人の住居であったといまさらながら気付くのだった。そう、実はセイランは隠れ魔族の存在を以前から知っており、魔動機の製造開発を通じて彼女個人に留まらず青龍会が組織的に隠れ魔族達と友好な関係を構築しているのである。
何を隠そう彼女がクリム達に紹介するつもりだった知り合いの技術者というのがマリーの現住居に以前住んでいた者であり、知人ではあってもそこまで親しいわけでもないので、すでに転居していた事実は今の今まで知らなかったのだ。
「なるほど。大体状況は分かったけど、改めてやっぱり家に上がらせてもらっていい?あなたの友人達には申し訳ないけど、ここで話すには私達の立場や関係性は少々特殊だからね。」
セイランは
マリーはのほほんとした性格であるためセイランが四大龍であるという隠し事をうっかり口走っていたが、別に悪気があったわけではなかったのでセイランの言葉を聞くとはっとして口を押えた。
「気が利かなくてごめんなさいね。あなたの噂は兼ねがね聞いているし、あの子達と会わせてもたぶん問題ないでしょう。どうぞ上がってちょうだい。」
「ありがとう。遠慮なく邪魔するよ。」
マリーはセイランを家中に招き入れると玄関の扉を閉めて、新たな客人を工房へと案内するのだった。
魔王達は旅の目的とは関係が無いのでドラゴン種と極力関わらない様に活動する方針でいたが、予期せぬセイランの襲来とマリーの独断によってさっそく計画は狂ってしまうのだった。
もちろんマリーは無策にセイランを招き入れたわけではなく、彼女には彼女なりの思惑があるのだが、それはそれとしてセイランは魔王達が最も警戒している件の魔龍クリムゾンと深い関係を持っており、誰が意図したわけでもないがお互い因縁の相手である魔王とクリムゾンが再び相まみえる時は刻一刻と迫っているのだった。
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