第81話 魔剣を駆る2人の少女

 大会にサテラが参加する運びとなったのは、話を聞いていたクリムはもちろん分かっていたが、大会参加者にアクアが満足できる程の強者は居ない旨の発言をしていた。それはサテラではアクアの相手にならないと暗に言っている事を意味する。クリムは妹であるアクアを贔屓目に見ているわけでもなければ、龍の巫女として少々頼りないサテラに当てつけのつもりで言っているわけでもない。単純にクリムの目から見たサテラの力がアクアには遠く及ばないと感じていたからである。

 当のサテラも彼我の実力差を理解していたが、姉妹の会話から自分がまるで期待されていないように感じて少し落ち込んでいた。クリムはサテラが憧れている聖女エコールと瓜二つなのに加え聖女の記憶まで持っているので、クリム本人は別人だと明言していたものの、サテラから見たクリムはやはり特別視せずにはいられない相手なのだ。


「ところで、サテラに聞きたいことが有るのですがいいですか?」

 サテラが落ち込んでいる様子に気付いたクリムは、彼女が自身に向けている特別な感情にも薄々気付いていたので、悪い事をしたかなと反省しフォローを入れようと話題を転換したのだ。

「あっはい。なんですか?」

 サテラは神妙な顔をやめて応対した。

「あなたは以前の闘技祭グラフェスに参加して、優勝を逃したと言っていましたが、龍の巫女であるあなたが負ける程強い人が居たんですか?」

「あー、その事ですか。さっきも言った通り決勝までは勝ち進んだのですが、その決勝の相手というのは世界闘技大祭グラディアルフェスタの歴代大会すべてで優勝しているという絶対王者であり、また闘技祭の主催者でもある魔剣使いの少女達でした。」

「少女達という事は複数人居るんですか?闘技大会というから1対1の戦いを想像していましたが、もしかして団体戦なんですか?」

「そう言えば大会の細かいルールを話していませんでしたね。」

 サテラが大会に参加したのは彼女が旅に出た直後の、およそ1年程前の事であったため、記憶を思い起こしながら話し始めた。

「大会には2人組でチームを組んで参加するのですが1人での参加も可能で、試合自体は1対1での勝負になりますね。先鋒戦での勝者はそのまま2人目と連戦してもいいですし、チームメイトと交代する事も可能で、要するに先に全滅した方の負けですね。1人で参加するメリットはないですが、旅に出たばかりで知り合いが居なかった当時の私は単独で参加しました。」

 サテラはそれとなく不利な条件で参加した事を明示した。

「妙なルールですね。どうせ1対1で戦うのなら完全な個人戦でも良さそうなものですが、なぜあえて2人組なのでしょうか?」

「正確な理由は分かりませんが、恐らく大会主催者であり参加者でもある少女達が2人組だからでしょう。」

「なるほど。主催者の都合で2人組の大会なんですね。」

「はい、私の推測ですけどね。ちなみに大会はトーナメント形式で、勝ち抜いた1チームだけが決勝でチャンピオンと戦えます。」

「ふむふむ。」

「私は1人でトーナメントを勝ち抜いて消耗した状態であるのに対し、チャンピオンチームは万全の状態なわけですから、少々不利な戦いを強いられた感は否めないですね。トーナメントを勝ち抜く間に私の戦闘スタイルや癖なんかもチャンピオンの2人には見られていますしね。まぁ大会に1人で参加して勝手に消耗したのは私の都合なのでそれに関しては不公平とは言えませんし、仮に私が万全の状態なら彼女達に勝てたかと言えばそうとも言い切れないので、言い訳はこの辺にしておきましょう。」

 サテラの長い言い訳を聞いたセイランは、その言い分には一理あると思ったので頭ごなしにサテラの不甲斐なさを非難したのは早計だったかと思い直したのだった。


 クリムはさらに質問を続けた。

「そう言えば闘技祭グラフェスって歴史が浅い大会なんですか?現在のチャンピオンは歴代大会すべてで優勝していると言っていましたが、彼女達は少女なんですよね?」

「いえ、それなりに歴史のある大会のはずですが、言われてみれば妙ですね。」

「それならチャンピオンの少女達というのは人間ではないのかもしれないですね。龍の巫女に勝てる人間が居るなんておかしいとは思いましたが、どうやら何か秘密がありそうですね。」

 チャンピオンの謎に話題が向いたところで、黙って話を聞いていたセイランが会話に入ってきた。

「人外の存在が人間を集めて武闘大会を開いているのが事実だとしたら、何が目的なのか気になるね。商会を通して少し調べさせてみようかな。問題を起こしていないなら構わないけれど念のためにね。」

「何かヒントになるか分かりませんが、大会の優勝賞品は少女達が使用している二振りの魔剣ですよ。彼女達は無敗の王者なので賞品の受け渡しは発生していませんけどね。」

「そう言えば魔剣使いと言っていましたね。」

「はい。先ほど言った通り私が大会に参加した理由はエコールに倣ったからなのですが、実はもう1つ理由がありまして。というのも彼女達が振るう魔剣というのがかつて聖女エコールが使用していたという龍殺しの魔剣、すなわちグラムとバルムンクなのですよ。」

「え?本物なの?エコールは年老いて戦いを辞めた晩年には振るう機会を失くした魔剣を国に寄贈したから、王国の宝物庫に所蔵されているはずよね?寄贈したものだから別にどう扱ってもいいけれど、国と無関係の者の手に流出しているとなると少し複雑な気持ちになりますね。」

 クリムはエコール本人ではないと再三言っておきながら、やはりエコールの記憶の影響を色濃く受けているのは確かなので、かつて愛用していた魔剣が子孫達に蔑ろに扱われている様に感じて寂しく思ったのだ。

「エコールの使っていた魔剣って事はグラニアが産み出した武器かい?」

 セイランが聞いた。

「ええ。お察しの通り、エコールが世直しの旅に出ると言い出した時にグラニアが自身の牙から作り出して、お守り代わりに持たせてくれた二振りの魔剣がグラムとバルムンクですね。」

「グラニアがエコールのために産み出した武器なら、エコールの魔力を受けて初めて真の力を発揮できる代物のはずだけど、件の魔剣使い達はサテラに勝てるくらいには使いこなしてるみたいだし不思議だね。多くのドラゴンが蔓延るグランヴァニアから国宝である魔剣を持ち出している点も気になるし、その2人あるいは王国の関係者、それも王族に連なる者かもしれないね。」

「彼女達の容姿はグランヴァニア人の特徴とは一致しない感じでしたし、王族の血筋ではないと思いますよ。それに王族の人間であれば普通に歳を取るはずですから、長い年月ずっと少女の姿で居るであろう彼女達はやはり人間ではないでしょう。」

 セイランが断片的な情報から少女達の素性を推理したが、実際に彼女達と会って戦った経験のあるサテラはその推理に異論を唱えたのだ。

「ここで色々考えてみたところで答えは出ないでしょうし、大会で会った時に彼女達に直接聞いてみましょう。彼女達が何者なのか、そして何が目的でどうやって魔剣を手に入れたのか。」

 クリムは推理する2人を制止した。

「それもそうだね。放置しておくには少々危険な物だから魔剣は回収したいし、彼女達と話をするにも最低限決勝には勝ち抜かないといけないね。頑張ってねサテラ。」

「えっ!?」

 アクアやクリムが参加する以上サテラが決勝に行くのは難しいのは明白だが、セイランはそれでも目標を下げずにサテラに無理難題を課すのだった。

「よーし。手加減はしてあげるからサテラは全力で掛かってきていいよ。」

 クリムはアクアの要望を受けて渋々大会への参加を決めたのだが、魔剣とその使い手の秘密を知るという目標ができた事で俄然やる気が出てきたのだった。

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