第69話 アクアの記憶
アクアの着付けを済ませたクリムは改めて本題であるアクアの現状確認に移った。
「それでは、まずはアクア本人に聞きましょうか。」
「なぁに?お姉ちゃん。」
アクアは服の着心地を確かめるためにぴょんぴょんと蛙飛びしていたのだが、そのままクリムの元に近づいて姉の顔を見上げた。アクアは人間で言えば10歳前後の容姿をしていたので、その言動は少々かわい子ぶっているように見えた。
「あなたあざといですね。でもかわいいので許します。」
クリムはアクアの頭を撫でながらそう言ったが、アクアにはクリムが何を言っているのか、その意図がわからなかったようできょとんとしていた。その様子を見たクリムはアクアが演技をしている様には思えなかったので考えを改めた。
「今の言葉は忘れてください。」
「うん、わかった。」
「アクアは素直ですねぇ。」
クリムは再びアクアの頭を撫でた。
「と、話が逸れましたが質問を始めますね。えっと何から聞いたものか・・・。そうですね、とりあえずあなたがどういった記憶を持っているか教えてくれますか?クリムゾンの記憶か、アクアマリンの記憶か、あるいはその両方を併せ持っているのか。」
「ん-?よく分かんない。」
「おや?あなた産まれつき言葉を話せましたし、誰かしらの記憶を受け継いでいる物だと思っていましたが、違うのですか?」
「分かんない。」
クリムは特に難しい事を聞いたつもりはなかったので、分からないとの返答は想定外だった。
「うん?どういう事でしょう?何が分からないのですか?」
「記憶って何?」
「え?ああ、そこからですか。」
クリムはアクアの発した分からないの意味を理解した。単純に記憶という言葉を知らなかったのだ。
「そう言う事なら質問を変えましょう。あなたが覚えている事、知っている事をなんでもいいので教えてくれますか?」
クリムは難しい言葉を使わない様に、できるだけ平易に言い換えて質問した。
「私が知ってるのはお母さんとお姉ちゃんと、あとは丸いドラゴンと遊んだことだよ。」
「なるほど、私達2人の事は知っているんですね。」
「ちなみにシュリとスフィーの事は分かりますか?」
クリムは2人を指さしながら尋ねた。
「エビの人と木の人。」
アクアはクリムを真似して2人を指さし、それぞれの特徴を表した。
「まぁ間違ってないですね。」
「えっ?」
アクアのあまりにも雑な認識とそれを肯定するクリムに、指差し呼称された2人は不満げな声を上げた。
そんな2人を他所に、クリムは頭の中で情報を整理していた。
(クリムゾンの
無邪気な子供の様な行動と、疑う事を知らない無垢な瞳を見たクリムは、アクアがその見た目よりも幼い精神性を持っているのだと確信した。クリムは自身が生後すぐに成熟した精神を有していた事から、妹のアクアもそれに倣うものと予想していたのだが、予想に反した結果が得られたのだ。
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