第63話 青龍会の会合
―――四大龍のセイランはクチナシと別れた後、青龍会の本部へと移動していた。
♦♦♦用語解説♦♦♦
・青龍会とは
セイランを組長に据え、彼女の眷属や使い魔達が主要メンバーとなっている非営利組織である。その主な活動内容は傭兵業で、特にセイランが裏で実権を握るアラヌイ商会には多くの構成員が用心棒として派遣されている。裏とはいっても彼女が商会のボスであることは公然の事実であり、具体的な役職に就いていないというだけの事である。
傭兵業に話を戻すが、自衛するための兵力や傭兵を雇う資金の無い小国、あるいは一般の傭兵団が手を出さない僻地の町村などで、武力を要する厄介事が起きた際に無償で兵力を派遣し支援している。とは言え完全に見返りを求めないわけではなく、支援する代わりにその土地での商業関係の事業にアラヌイ商会が介入する権利を得ている。
また傭兵業以外にも国際人民ネットとIDカードの管理事業も展開しており、銀行口座とIDカードの紐づけや、店舗への決済システムの提供も行っている。これらのサービスもすべて無償であるが、個人情報を含む商用データベースと国家の壁を越えた情報網の構築が目的であるため別に慈善事業ではない。
・国際人民ネットとIDカード
ほぼ全世界の人類国家が加入している個人情報データベースである。最初に登録される名前と職業、所属国家(組織)の他、顔写真やIDカードの利用実績などが勝手に蓄積・更新されていく。
加盟国の住人は産まれた時に自動的に登録されるので通常手続きは不要。
♦♦♦解説終わり♦♦♦
青龍会の会合はロード・ドラゴン会議に合わせて開催されており、組長であるセイランから眷属達に会議の内容を伝える事が目的である。また眷属達が抱える懸案事項や情報網に掛かった怪しい動きをセイランに相談する場でもある。
今回の会合でもいくつかの相談事が持ち込まれたが、魔族の目撃情報の増加や四大国の軍上層部の不審な行き来など、既にセイランが知っていた情報ばかりであったため、緊急性は低いと判断された。
そんな中、情報管理部の部長が新たな議題を上げた。
「懸案というほどではないですが気になる報告が上がってきていまして、私共の手には余ると判断しましたので姐さんの見解を伺えないでしょうか?」
ここでいう姐さんとは眷属達がセイランを呼ぶときに用いる敬称である。
「お前が相談なんて珍しいね。どんな話だい?」
「はい。実は今朝ほど港町シリカから緊急の調査依頼が来ていたのですが、我々が構成員の派遣準備をしている間に調査完了の通知が届いたのです。」
「解決したならよかったじゃないか。何が問題なんだい?」
セイランは至極まっとうな意見を述べた。
「ええ、もちろん緊急の依頼が解決したのはよい事なのですが、実はその調査に当たったという協力者が問題でして、その協力者というのがなんと龍の巫女だというのです。」
「龍の巫女って事はサテラか。彼女がたまたま居合わせたなら調査に協力しても不思議はないだろ。それがどうしたんだい?」
「いえ、この龍の巫女というのはサテラではないのです。調査完了の報告資料によると、協力者の名はクリム・クリムゾンという名前でした。」
クリムゾンという名前を聞いて会場内はにわかにざわついた。それはもちろんクリムゾンが伝説に名高い悪龍の名前だからである。
相談者は会場内のざわつきを咳払い1つで制止し、さらに話を続けた。
「龍の巫女を名乗っている事も気になりますが、それよりなによりクリムゾンという名が気になったので彼女の情報を洗い直したのですが、どうやら調査依頼の完了報告に際してIDカード登録をしたらしく、それ以前の記録は一切存在しませんでした。」
「なるほど。それは気になるな。」
「ちなみに顔写真と外見情報はあったので、紙に出力しておきました。こちらです。」
相談者はセイランに紙を手渡した。
「ふーん。この顔はサテラとどことなく似てるね。でもドラゴンの角があるし、七対の翼と尻尾も生やしていると・・・。なるほどなるほど。」
その翼や角の特徴はセイランが会ってきたクリムゾンの特徴そのものであったため、彼女の関係者であることは間違いないとセイランは確信した。
「彼女は特に問題を起こしているわけではないですし、むしろ我々には協力的な様で、その証拠にID登録の際には所属組織をアラヌイ商会にしていました。これは国際人民ネットの非加盟国出身者に対する対応マニュアルに記された手順ですので、おそらく現地職員が勧誘したのだと思いますが、姐さんは彼女をどう思いますか?」
「そうだねぇ。たぶんこの子は悪さをするつもりはないだろうけど、少し気になるから私が直接現地に行ってくるよ。実際に対応した現地職員から話を聞いた方が早いだろうからね。」
「お手数お掛けしますが、よろしくお願いします。」
「はいよ。」
会合がひと段落したところにタイミングよく客人が訪れた。それはクチナシの所からやってきた、ロード・ドラゴン会議の議事録を携えたドラゴンであった。
「会合中に失礼しますセイラン。早速ですが会議の議事録を届けに参りましたので、ご査収ください。」
「ああきみか、ちょうどひと段落したところだったから構わないよ。いつもありがとう。」
「はい。それでは私は失礼します。・・・と、その前にあなたには一応伝えておいた方がよいですね。」
「どうしたの?」
「ええ、実はここに来る前にクチナシの所にさらにその前はシゴクの所に行ってきたのですが、シゴクがクリムゾンと戦って敗北したため修行しているという話をしたところ、クチナシが何やら怒っていたのです。なんでもクチナシはクリムゾンに相手にされなかったとかで、シゴクに対抗意識を燃やしていたようですね。それでクチナシは恐らくシゴクの元に向かったので、特に問題ないとは思いますが心に留めておいてください。」
「そう言う事か。分かったよ。わざわざありがとう。」
「はい。では今度こそ失礼します。」
「それじゃ気を付けてね。」
伝令役のドラゴンは次の目的地へ向けて飛んで行った。
セイランは会議の議事録を進行役に渡すと出掛ける準備を始めた。
「ロード・ドラゴン会議に関してはいつも通り大した内容ではなかったから、各自議事録に目を通しておいてね。それともう察しているだろうけど、クリムゾンが現代に甦っているからそのつもりでいてね。何かしろってわけじゃないけど、というかむしろ彼の龍には手を出すなというのが会議での決定事項だから、お前たちはそれに従うようにね。」
それを聞いた眷属達は一様に頷いた。
眷属達には釘を刺しつつ、自分では会議の決定事項を破ってクリムゾンに会いに行っていたのは黙っているセイランだった。
セイランはクチナシの事を誰よりもよく知っていたので、彼女の目的にはおおよそ見当が付いていた。そして特に放っておいても問題ないと判断したので、予定通り彼女自身は港町シリカの調査に赴くことにしたのだった。
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