第49話 クリムゾン VS シゴク
次元の裂け目を抜けるとそこは、戦場だった。
クリム達はクリムゾンの居る大空洞へとワームホールを抜けて転移してきたのだが、なんとそこではクリムゾンとシゴクが明らかに臨戦態勢で向かい合っていたのだ。大空洞の中は本来真っ暗闇なのだが、雷雲を纏い断続的に雷光を放っているシゴクのおかげでかなり明るかった。そのため魔力感知せずとも戦闘状態であることは視覚的にわかったのだ。
一方クリムゾンはフワフワと浮いているだけだが、その球状の身体の周りには土星の環の様な謎のリングが浮遊していた。それはクリムゾンの背中に本来七対あるはずの翼の一対を分離して変容させたものであり、それゆえ現在クリムゾンの翼は六対となっていた。その状態が何を意味するのか、眷属であるクリムだけは理解していた。
また二頭の様子を見守る様に、シゴクの背後にはキナリが静かに佇んでいたが、特に戦闘に参加する様子は見せていなかった
二頭の巨龍はしばし静かに向かい合っていたが、突如シゴクがその身にまとった雷雲を身体前面で渦巻かせ、極太の螺旋レーザーのごとき雷撃を放った。
<ドガーン!>
超雷撃の電熱により急激に熱された空気は爆発的に膨張し、まさしく爆発音そのものの雷鳴を響かせた。
それに対するクリムゾンは超高速で迫りくる雷撃を前に、何をするでもなくただ浮かんでいた。しかしクリムゾンが何もしていないにも関わらず、シゴクの放った雷撃は浮遊リングに引き寄せられて吸収されてしまった。そのリングは淡く光りながらパリパリとわずかに放電しており、吸収した雷撃を溜め込んでいる様子が傍から見ても伺えた。
クリムゾンがおもむろに浮遊リングを回転させたかと思うと、リングから球形の身体に向かって無数の稲妻が走った。そしてその稲妻を体内に吸収すると自身の魔力と混ぜ合わせて強化した上で口から発射したのだった。
<ドガーン!>
クリムゾンはシゴクが放った超螺旋雷撃を強化した上で撃ち返したのだ。悪因悪果、因果応報のカウンター攻撃である。
しかしシゴクもまたクリムゾン同様、迫りくる雷撃を前に焦る素振りは見せなかった。轟雷龍とも呼ばれるシゴクは電気エネルギーを操るエキスパートであり、どんなに強烈な雷撃であっても吸収して魔力に変換できるからだ。そしてシゴクは思惑通り、クリムゾンが撃ち返した雷撃を吸収したのだった。
「なんすかこれ!?戦争っすか!?」
突然始まった怪獣大決戦にエビゴンは思いきり狼狽えていた。
「あっちの雷雲を纏っているのはシゴクですね。そして向かい合っているあの巨大な球体がクリムゾンでしょうか?おとぎ話で聞いていた通りですが、想像以上に大きいですね。」
サテラは特に慌てる様子もなく状況を整理していた。
「ええ、あれがクリムゾンですよ。しかしなぜいきなり戦っているんでしょうあの人達?双方本気ではないようですが。」
クリムもサテラの疑問に答えつつ冷静に状況を見極めようとしていた。
「え?あれで本気じゃないんすか?」
「そうですね。魔力の感じが全然本気じゃないですね。」
「俺鍛えても旦那と戦える自信ないっすよ。」
エビゴンはクリムゾンの実物を目の当たりにして、あからさまに戦意を削がれていた。
「やる前から諦めたらダメですよ。それにエビゴンはクリムゾンに勝つのが目的ではないですし、最低限戦闘の体を成す強さを目指すなら、そこまで無理はないと私は見ていますよ。」
「そうっすか?姉御がそういうならやるだけやってみるっす。」
エビゴンはすっかり心が折れかけていたが、寸でのところで踏みとどまった。
二頭の巨龍がなぜ戦っているのか。それは遡る事数時間前。クリムが島を出てすぐの出来事に起因していた。
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