第12話 その名はクリム・クリムゾン
絶対無敵の究極龍により産み落とされた少女は、親であるドラゴンと、少女の姿のモデルとなった聖女の記憶の、各々一部を受け継いでいたため、産まれた直後にもかかわらず自身が産み出された経緯と目的とを理解していた。
植え付けられた
そして少女はそれらの記憶を飲み下し、そのどちらとも異なる自己を確立して、1個の生命体へと進化を遂げたのだった。
―――舞台は変わらず、絶海の孤島の地下深くに存在する大空洞。怪龍クリムゾンは自身が産み出した眷属の名前を未だ考えているところである。
まだ名前もない少女は親である巨龍の願いを叶えるために知略を巡らせていた。とは言え細やかな状況が不明である以上、まずは情報収集が急務であると結論付けた。
少女は人間の聖女から受け継いだ知識並びに人間社会への一定の理解があるため、それに基づき戦略を練ろうと考えたのだが、その情報はかなり古く現代でも通用するかは未知数だった。というのもクリムゾンの記憶によれば、かつて災厄の龍が暴れていた時代、つまり聖女が生きていた時代から少なくとも数千年が経過しているものと推察されたからだ。
クリムゾンは既に
一応補足しておくと、
少女が思考をまとめ終えるのとほぼ同時に、巨龍は少女の名前を閃いた様で背中の翼をピンと伸ばして嬉しそうに少女の方へと転がってきた。
「お待たせー。きみの名前を決めたよ。」
「はいはい、なんですか?」
嬉しそうに報告するドラゴンに少女は優しく微笑み返した。
これではどちらが親か分からないが、当のクリムゾンはまるで気にしていないので、これはこれで良好な関係と言えるだろう。
そして無邪気なドラゴンは続けた。
「きみの名前はクリムだよ。クリム・クリムゾン。」
同じ語の繰り返しに少々間抜けな印象を受けたが、少女はドラゴンに聞き返した。
「なんとなくわかりますけど、どういう意図で付けた名前なんですか?」
「きみはぼくの初めての眷属だからね。ぼくの名前の一部をあげる事にしたんだよ。いい名前でしょ?」
「え?はい、まぁ。」
曇りのない笑顔で自信満々にそう言われてはケチを付けるのも
ここで一つこの世界におけるドラゴンの命名規則を解説しておこう。
ドラゴンの名前は上下二節から構成されており、上の名前がそのドラゴン自身の名前、そして下の名前は母の名前となっている。クリム・クリムゾンであればクリムが自身の名前であり、クリムゾンが母の名前といった具合である。
この規則に乗っ取れば、以前登場したクチナシ・グラニアとセイラン・グラニアの二頭はグラニアという共通の母を持つ姉妹であることが分かる。また、グラニアとは親龍王国グランヴァニアの守護龍であり、クリムゾンと聖女の戦いを止めた張本人(龍)である。
クリムゾンがクチナシ、セイラン姉妹と出会った際に、フルネームを聞いて態度を一変したのはこのためである。世界は広いが世間は狭いという言葉の通り、クリムゾンにとって初対面であった二頭だが、共通の知人であるグラニアの存在によって他人以上の存在に関係が深化していたのだ。
ドラゴン種は強力であるがゆえに個体数はそれほど多くないため、ドラゴンの中でも頂点に位置するロード・ドラゴンともなれば大体全員顔見知りであるし、そのほとんどが近縁関係にある狭いコミュニティである。それゆえに、クリムゾンと例の姉妹に繋がりがあったのは、それほど低くない確率の元に起こった偶然であり、ある意味必然と言える。
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